書評「『ゲームデザイナーのための空間設計』歴史的建造物から学ぶレベルデザイン」

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クリストファー・トッテン
「ゲームデザイナーのための空間設計」歴史的建造物から学ぶレベルデザイン
(株式会社ボーンデジタル、2015)

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デジタルゲームにおいて地形、自然、建造物、オブジェクト、敵・味方などキャラクター、ギミック(仕掛け)を集めたゲームステージ全体を「レベル」と言います。そして、これをデザインすることを「レベルデザイン」と言います。

日本では開発の現場によって「レベルデザイン」をする人は、3D背景製作者であったり、ゲームデザイナーであったりしますが、海外では「レベルデザイナー」という職業があり、ゲームの仕組みを作る人のことを言います。特に欧米では、パソコンゲームでMODと呼ばれるユーザーがレベルデザインを自作できるツールが提供されている場合が多く、多くのレベルデザイナーがMODによって経験を積んでから、ゲーム産業に入るという仕組みがあるため、「レベルデザイン」がゲーム製作の中心概念としてあります。

それは単に建物、オブジェクト、AIの配置するというよりは、それらを有機的につなぎあわせてゲーム体験を創り出す仕事と言っていいでしょう。海外で「ゲームデザイン」と言った場合は、世界観や遊びのデザインを含むより抽象的・総合的なデザインを指しますが、具体的なマップやオブジェクトやAIに製作をする場合には「レベルデザイン」と呼ばれる場合が多いです。

本書は「レベルデザイン」の専門書であり、こういった分野の専門書は極めて珍しいと言えます。なぜならば、レベルデザインは何よりも開発現場における工程であり、標準的で体系的な知識を構築することが難しく、何を言語化すれば良いかも定かではありません。

これはゲームデザインの体系化と同じ問題を持っています。そこで本書が手掛かりにしたのが、これまでゲーム産業で蓄積された名作のレベルデザインの実例であり(イラストによって多数の例が図示されています。これだけでもたいへん価値があります)、或いは現実における「歴史的建造物」であり、建築構造の発展に沿って、レベルデザインの理論化を試みている挑戦的な書籍です。そして、その挑戦にふさわしく、膨大な量の参考文献、参考ゲーム、映画が参考として取り上げられています。

本書が扱っているのは、ゲーム内にどのような建築物を作るか、というコンセプトの問題、レイアウトをどうするかという技術的な問題、さらにそこから一歩踏み込んで、ユーザーが入りたくなる建物、先に進みたくなる仕掛け、説得力のある物の配置など、ユーザーの体験の設計方法でもあります。ですから、この本は、3D設計ツールを使う人だけでなく、ゲームを制作しようとする全ての人に通用する本と言っていいでしょう。

ゲームプレイ、ゲーム体験、インタラクティブ、報酬、達成感、ストーリーテリング、プレイのリズム(ペーシング)、リスクコントロール、驚き、トリックなど、レベルデザインには、いろいろな要素が必要です。一体、どのようなレベルデザインにすれば、どのような体験が生まれるか、どのようにユーザーを引き込むことができるのか、何かを説明できるのか、というユーザー体験の科学を、実際のゲームのレベルデザインと、現実空間の有名な建築の間を行き来しながら解説したのが本書となります。ただ比重としては、有名なゲームのレベルデザインの引用が多く、実際の建築は時々参照することで、本書の論拠とする重しとして使われています。

また本書はレベルデザイナーがどのような視点で、レベルデザインを行っているかを教えてくれます。レベルデザインの問題は、「短期的、中期的、長期的な」それぞれの時間幅において、プレイヤーに「どのようなアクションをさせ、印象を与え、記憶を残すか」、という問題でもあります。

そこには時間的、空間的なスケールの階層構造があります。これは認知科学、心理学、哲学、社会学と結びついており、本書でも、時々、具体的な建築の説明の前に、現象学や創発、マズローの欲求階層、エモーショナル・デザイン、可能性空間など人文科学のコンセプトが解説されます。ですから研究者にとっても、本書はゲーム開発者の内側を覗き込むための実に興味深い本となっています。またレベルデザインに込められた意味を読み解く良きガイドとなるでしょう。

レベルデザインは、ユーザーに対する問いかけでもあります。右に曲がりたいか、左に曲がりたいか、今、ユーザーにどのような行動の選択肢が与えられているかを明確にしろ、ぼんやりとにせよ、提示する必要ががあります。レベルデザインには説得力と説明力が必要であり、本書はそれを創り出すための技術を提供しています。

さらに本書は、各章の最後に、著名なレベルデザイナーたちのインタビューを収録しています。これは本書が独善的な論拠に陥らないように、より広い視点を与えようとしている真摯な姿勢が見られます。

開発者にとっては、本書はこれを学んでからレベルデザインが始められる、という本ではありません。そうではなく、自分自身でいろいろなレベルデザインを作りながら、迷ったり、悩んだりする時に必ず有益なヒントをくれる本です。そういう意味で、開発者の机の上に一冊あると、いつでも有益な助言を与えてくれることでしょう。

またレベルデザインに入る前に、本書にざっと目を通して知識をあらかじめ吸収しておくことも、たいへん有益です。自分が問題につきあたった時に、これはそういえば、あの問題だったな、とすぐに言語化することを助けてくれます。

著者のトッテン氏は建築を学んだ後、ゲーム開発者となり、現在はジョージ・メイソン大学で教鞭を取る教授でもあります。本書はどうしても視野が狭くなる開発に、広い視野と深い教養から視点を大きく広い場所に戻してくれると同時に、もう一度、製作に飛び込む新しい足場を提供してくれます。

それは著者の経験と知識、教養があってこそのものでしょう。それを裏付けるように、各章には詳細な参考文献が挙げられており、トッテン氏が製作の傍ら自らの論拠の地盤を固めるべく、さまざまな建築、建築図書、映画、ゲームに目を通していたことがわかります。

(IGDA日本 SIG-AI世話人 三宅陽一郎 @miyayou )