「ローラーズ オブ ザ レルム~呪われし三戦士と戦乱の王国~」ポストモータム(下)

アークシステムワークスから日本語版の配信がPSMで始まった「ローラーズ オブ ザ レルム ~呪われし三戦士と戦乱の王国~」。RPGピンボールというユニークなゲームメカニクスを持つインディゲームで、開発はカナダのファントムコンパスです。昨年11月に北米・欧州でPS4・PS Vita版の配信が始まり(海外版パブリッシャーはアトラスUSA)、GDC Play 2014の”Best in Play”を受賞するなど、数々の賞に輝きました。前編に引き続き、ポストモータムの後編では「うまくいかなかったこと」について開発者自らのふり返りが行われます。

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ゲーム画面
ゲーム画面

うまくいかなかったこと

1. システムの欠陥

最初の考えでは、このゲームはもっとアーケードゲーム風にする予定だった。しかし規模拡大にあたり、かなり初期の段階でこの考え方を変えた。我々はいろろな機能やスクリプトを一つずつ実験し、付け加え、プレイしてみて、おもしろくなかったものを廃棄した。

各々のキャラクターのスタッツや能力値の種類は膨大なものになっていった。ファンドを得た時、私たちはこれらにぶつぶついっていたが、けっして状況を正視して、後戻りしようとはしなかった。私たちはこれらを一つのまとまりの中に組み込めると思っていたのだ。このことでデザイン、実装、テスト、そしてバランス調整が非常に難しくなったが、そのことに気づいたのはずっと後のことで、もう取り返しが付かなくなっていた。

キャラクター周りが複雑になったので、UIデザインは悪夢だった。キャラクターを雇ったり、成長させる画面のUI/UXは大変だったし、何度もやりなおした。最終的に見られるモノにはなったと思うが、それでも100%満足はしていない。

ゲームの主要部分はハードコーディングされていて、データや処理がソースコードに直接記述されていたため、難易度を変えたり、ゲームバランスを後から変更したりする機能を加えられなかった。次回以降ではプロトタイプの時から、ソースコードとデータを明確に分けておく必要があるだろう。

2. 最適化に対する過小評価

PS Vitaをローンチプラットフォームに加えることに同意したとき、我々は誰もPS Vitaでの開発経験がなく、その性能を過大評価しすぎていた。最初はPS Vitaの最適化に必要な時間にプロジェクト終盤の30%を見積もっていた。しかし実際はグラフィックや物理エンジンやその他のシステムの最適化などで80%の時間が必要だった。他のプロジェクトから人材をヘルプにつけてなお、それくらいのエネルギーがかかった。

Unityを採用したのにはいろんな理由があったが、ここでは裏目にでた。というのもUnityのソースコードにアクセスできなかったからだ。そのため最適化を進めれば進めるほど、Unity自体がブラックボックスになっていった。

その結果、ゲームを完全に磨き上げることが(すべてのプラットフォームで)できず、ソニーのハードウェアの素晴らしい機能も活用できなかった。それぞれのプラットフォームにおける最適化を諦めたわけではなかったが、たとえ全プラットフォームで最適化をつきつめたとしても、結果としてPCとPS4では当初望んでいたほどのグラフィック的な効果が出せなかった(我々はPS Vitaに適したシェーダーやエフェクトを全プラットフォームで採用した)。

城のデザイン画

3.ユーザーとバランス

私たちは2つのまったく異なったゲームジャンルを一つにまとめるという大きなリスクをとった。私たちはピンボールやRPGのハードコアユーザーを狙うつもりはなかった。私たちはミッドコアゲーマー向けのゲームを作ろうとしていたのだ。初期の段階からレビューは賛否両論だった(熱烈なファンと、大嫌いというユーザーと、その中間)。私たちの最初のメジャータイトルをリリースするにあたり、このゲームデザイン的な融合が新しいユーザー層を獲得するうえで最適な方法かどうか、確信は持てなかった。

「よかったこと」の章で示したとおり、プレイテストの結果は非常に良好で、ゲームバランスの最適化やユーザーへのアピールで多大な貢献があったが、テストは最初の数チャプターに限られていた。私たちはゲームの学習曲線を適切に設定することや、プレイヤーがゲーム内の戦略的なパズルを解いたり、パーティを適切に編成したり、成長させるうえで何を求めているか見極めることに対して適切な判断ができなかった。

一見すると、このゲームはピンボールの類似ゲームのようにみえる・・・ほとんどの人はピンボールなら誰もがプレイできると信じている。そして、それはその通りなのだが・・・ピンボールをマスターするとなると話は別だ。我々のゲームはさまざまなテクニックが不要のように見えるが、実際は必要なのだ。

ラスボスとのバトルは多くのプレイヤーにとって非常に苦痛を強いるものだった。ラスボスを倒すには30分にもおよぶ一連のシークエンスが必要で、しかも途中でミスしたら最初からやり直す必要があった。これはテスターや多くのプレイヤーやレビュアーにとって快適な体験とは言いがたかった。我々はSteam版の初期パッチでラスボスとのバトルにチェックポイントを追加した。ソニーのプラットフォームにおいても、これと同じパッチや、他の改良点などを早期に実現したいと思っている。

「システムの欠陥」でも示したとおり、このゲームは開発上の問題で適切なゲームバランスをとることが難しかった(パッチを当てずにバランスを調整するための追加データの実装など)。今後のプロジェクトでは同じようなミスはしないつもりだ(すでに社内でこの手のミスを避けるための制度を作った)。

4.ドタバタした開発

私たちは最初の6ヶ月の段階のプロトタイプを完成版のレベルに引き上げることにこだわっていた・・・おそらくこだわりすぎていた。目の前にはすでにできあがっているリソースがどっさりあり、Unityの習熟度が進まない限り手をつけることができなかったが、誰もがUnityで自体が好転したので、プログラミング的なボトルネックについて考えることを止めてしまった。その結果、ゲームデザイナーはXNAのプロトタイプがUnityに移植されるまでアイディアを試すことができなかったし、クリエイティブチームは基本的なフレームワークが安定するまで、コンテンツをテストできなかった。

私たちは核となるスクリプトやバトルシステムが完成する前からゲームデザインを推し進めたが、このことは後になって作業全体に(ゲームデザインとプログラミングの両方で)不都合をもたらし、QAを難しくしてしまった。システムが固まったとき多くの作業でやりなおしが発生し、ほとんどが廃棄された。言うまでもなく、最初からちゃんと計画立てて進めたり、リソースを管理していれば、この段階で貢献しただろう。

プロジェクトの各段階でGDCのような業界イベントに出展するために、いくつものデモを作成した。そのためプロジェクトの後半では、時間不足で実装をあきらめた機能などもあった。今後については、幾つかの鍵となるデモの開発にあわせてスケジュールを設定するつもりだ。

ゲームデザインの側では、スケジュールの影響がはっきり出た。ゲームの前半は洗練されていて良くできている(たくさんの人にテストしてもらったり、フィードバックを得られたので)。しかし後半部分はそこまで至らなかった。もしかしたら、3スターレベル(クリアの内容によって1から3までのスターが得られる)の導入などによって、このギャップを埋めることができたかもしれない(訳注:複数のクリア条件を設定することで、より多くのユーザーに対して楽しめるものにできたかもしれない、という意味)

ローグのラフスケッチ
ローグのラフスケッチ

5.  PC版も大事、コンソール版も大事

コンセプト立案から全プラットフォームでのワールドワイド展開までほとんど3年近くかかった。開発サイクルが長期にわたったことで、さまざまな問題もはらんでしまった。

我々は当初PC版を2013年の年末から2014年の初頭にリリースするつもりで、後にアトラスUSAがパートナーになり、2つのプラットフォーム(PS4とPS Vita)がローンチに加わったときも、このことを主張した。結果的に開発期間が延びたことで(注:発売は2014年11月)、自分たちがやりたい仕事と、仕事のための仕事を摺り合わせる必要が出てきたが、これはスタジオの権利を守るために必要だった。

私たちはスタジオのリソースを2つのプロジェクトチームで分割する必要があった。ファントムコンパスはしばしば一度に複数のラインで仕事を進めており、このことが我々の強みだったが、今回のケースではゲームを磨きあげるうえで、かなり疲労してしまった。

スタッフ編成もチャレンジだった。最初の6ヶ月のコンセプトモデルを開発して、完成版にむけた資金調達の間で、多くのオリジナルメンバーが業界内でフルタイムの仕事を見つけていき、いなくなってしまった。プロトタイプの初期段階から数十人ものパートタイムと契約社員に手伝ってもらう必要があり、これもまたストレスだった。

リードプログラマーの席も次々に替わった。プロジェクトが完了するまで、さまざまな段階で合計4人が入れ替わった。プロジェクトに入ってコードを引き継いでもらって、駄目なコードをメンテしてもらったりなんだりで、かなりの時間が費やされた。

私たちは、このプロジェクトのように長い開発サイクルは避けたかったが、実際には不可能だった。可能な限り短くすることに価値があると思う。

まとめ

結局このプロジェクトは価値があったのか? このゲームは私たちにたくさんの「初めて」をもたらした。我々はたくさんのことを学んだ。私たちはこのゲームを愛していて、同じように愛してくれるかもしれない人々に対して、自分たちの経験をシェアできることに感謝したい。

このプロジェクトが終わって、何を一番なつかしく思うだろうか。毎日何百回となく聞いた「ボール」という言葉かもしれない。

次は何かって? 我々は受注仕事を次第に減らして、すべての時間を自社IPのゲーム作りに費やすせるための3カ年計画をたてた。我々は『ローラーオブザレルム』のキャラクターや世界観を愛していて、別のゲームでも登場させたいと思っている・・・おそらく続編か、また別の形で。しかし今はとりあえず自分たち自身が転がり続けていくだけだ。

◆資料室

デベロッパー:ファントムコンパス
パブリッシャー:アトラスUSA(日本語版:アークシステムワークス)
リリース:2014年11月18日(Steam, PS4 and PS Vita)*米国
2014年11月26日(PS4, PS Vita) *欧州
プラットフォーム:Steam (Windows), PS4, PS Vita
開発者数:フルタイム3~7人、一時契約社員30人(全期間において)、声優15人(知人含む)
開発期間:2Dプロトタイプ6ヶ月
最初のミーティング:2011年11月9日
GDC版のプロトタイプ完成:2012年3月
ファンド契約を結ぶための完成版:2012年春
Unityでの開発:2年2ヶ月
マスター:2012年9月~11月
予算:約70万ドル
コードの量:自社作成分64225行+プラグイン56680行=120905行(シェーダーは含まず)
開発ツール:Unity 3D

原文:Sean Thompson, Tony Walsh, Ericka Evans, David Evans 
日本語参考訳:小野憲史