VRを仕事にするために〜VR事業化勉強会レポート

2016年上半期のOculus RiftとPlayStation VRの発売に向けて、世界規模で盛り上がるVR界隈。米サンフランシスコやロサンゼルスでは毎週のようにデモイベントが開催され、クリイエイターと投資家の出会いの場所を提供。ソフトウェアだけでなく、ハードウェアに関するスタートアップも注目を集めています。

もっとも日本では、まだまだ個人VRクリエイターが多く、ビジネスとしての広がりに乏しいのも事実。こうした状況に一石を投じようと、ライターでVRエバンジェリストの佐藤カフジ氏がセミナーを提案。NPO法人IGDA日本が主催する形で、9月3日に「VR事業化勉強会」が開催されました。会場には約70名の参加者が集まり、関心の高さを感じさせました。

VRや起業に関心のある多くの開発者が集まった

当日はベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を行ったVRコンテンツ企業「DVERSE Inc.」のCEO沼倉正吾氏と、世界初のアイトラッキングシステム搭載HMDを開発する「FOVE Inc.」のCEO小島由香氏が登壇。沼倉氏は起業全般について、小島氏はアクセラレータプログラムによる資金調達について、知見を共有しました。

【何度もバッターボックスに立ち続ける】

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沼倉正吾氏

沼倉氏は自己紹介を兼ねて、起業した会社を一度倒産させており、その1年後にDVERSE Inc.を立ち上げて、その半年後にVCから資金調達を行ったことをあかしました。このように沼倉氏は、失敗しても再挑戦が容易な環境が日本でも整いつつあると指摘します。一方で新しい取り組みはほとんどが失敗すること。そしてVRを巡る変化が非常に早いことから、できるだけ早く起業して、失敗や方向転換を繰り返すのがお勧めだと言います。

もっとも、資金調達にはエクイティファイナンス(VCからの調達)とデッドファイナンス(銀行からの借り入れ)があり、再挑戦がしやすいのは前者だと強調します。大前提として銀行は相応の担保がなければ新規事業に対して融資を行わず、通常は経営者の個人資産(家や土地など)があてられるからです。そのかわりVCが求めるものは短期での上場や売却などのエグジット。そのためには圧倒的な成功が必用になります。

ただし、日本でVR分野に対して投資を行うVCは、まだ数が少ないのが実情とのこと。そのため海外のVCから投資を受けるのが現実的だといいます。このほかスタートアップはシード・アーリー・ミドル・レイターの各ステージで段階的に投資を受けるのが一般的で、各段階で必用なスケールが行われなければ、追加投資が受けられずに「詰んで」しまうこと。 そのため(再挑戦は容易でも)常に死と隣り合わせであるとされました。

沼倉氏は「日本のVRクリエイターは個人戦が多く、これではクオリティが高いものが作れない」と語ります。チーム戦にはハッカー(エンジニア)、ハスラー(プランナー)、ヒップスター(UI/UXデザイナー)といった、異なる才能の組み合わせが有効とのこと。「いくら失敗しても、死ぬことはありませんから、どんどん挑戦してください。何度もバッターボックスに立つことが大切です。自分も相談に乗ります」とエールを送りました。

【アクセラレータプログラムによる資金調達】

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小島由香氏

続いて登壇した小高氏は「そもそも資金調達したいのか否か」という点から切り出しました。「VRを仕事にしたい、起業したい」という相談を受けることが多いという小高氏。しかし日本では自分の好きな作品を職人的に作り続けたいというクリエイターが多く、必ずしも資金調達を必用としない(=個人資産での経営)場合が多いといいます。「どちらが正しいと言うことはなく、経営者の方針次第です」(小高氏)

資金調達、特にシード期における方法として、小高氏が勧めるのが▽日本の個人投資家を当たる▽海外のアクセラレーションプログラムを当たる▽クラウドファウンディングで調達するーーの3点です。中でも海外の起業家育成団体が行っているアクセラレータプログラムは、日本に比べて条件が有利な場合が多く(1000万円程度の投資を、転換社債や10%未満の株式7〜8%で受けるのが一般的)、お勧めだといいます。

逆にVCとミーティングをするのはデモやプロトタイプなど、実際に手にとって触れるモノができてからで良く、それまではシードマネーをつかって、モノ作りに徹するべきだと小高氏は強調しました。FOVEでもハードウェア専門の「RIVERP」をはじめ、複数のアクセラレーションプログラムを受けたとのこと。決して広い門ではありませんが、VRに注目が集まっているのも確かなので、挑戦する価値はあるとしました。

沼倉氏と同じく「VRは状況の変化が非常に速いので、スピード感が大事」だと指摘する小高氏。これにキャッチアップするには相応の資金力が必要で、資金調達は「金で時間と知名度を買う」方法だと語ります。「個人資産と資金調達でどちらが正解ということはありません」と断りつつも、ハードウェアしかないのでは片手落ちだとして、ぜひ資金調達も視野に入れて、優れたソフトウェアを作ってくださいとまとめました。