IGDAスカラーシップ応募の前に知っておいて欲しいこと


今年もCEDECと東京ゲームショウ開催を前に、IGDAスカラーシップの応募が近日中に始まります。募集フォームの中に「ボランティア」および「ボランティア活動」について記入する欄があります。この「ボランティア」という言葉の意味が今ひとつわかりにくいようです(これは日本だけでなく、アメリカや全世界の学生にとっても同じようです)。以前、IGDAスカラーシップの公式サイトで「ボランティア」について興味深いブログが書かれたことがあり(現在は公開停止中)、日本語に訳出しましたので、ぜひ応募欄記入の前にご一読ください。

ボランティア:報酬を超えて

2013年のスカラーシップ選抜委員会のクリス・ティホールによって書かれたこの文章は、彼そして多くの委員がスカラーシップの選考を行う際に気がついたことを良く表しています。

IGDAスカラーシッププログラムの選考委員として、私は本当にたくさんの学生からの応募書類のチェックに時間を費やしてきました。これは非常に印象的な経験でした。というのも、私は未来のゲームクリエイターの波が、彼ら・彼女らが学びそして作り上げた各々の作品から押し寄せるという素晴らしい現象を目の当たりにしたからです。しかし残念ながら別の側面もありました。というのも、多くの応募書類が応募者の可能性を十分に引き出していないと感じたからです。中にはそのままでも良いのですが、磨けばもっと光る応募書類もみられました。そして残念なことに、応募者の長所をまったく引き出せていない応募書類もたくさんありました。次第に、それらを見るのが苦痛になってきました。ちょっとしたことに気をつけるだけで、簡単な間違いが避けられたはずだからです。

いちばん多く間違いがみられたのは「ボランティア」という言葉の意味や使い方についてでした。こうした間違いを見るにつれ、私は学生がボランティアという言葉の意味を(訳注:スカラーシッププログラムにおける文脈において)しっかり理解していないことに気がつきました。そして、何か私にできることはないかと考え始めました。そこではじめに、応募書類の中で学生がボランティア活動だと思っている一方で、実際はそうではない例について紹介しましょう。

  • IGDAのチャプターやゲーム開発者コミュニティが主催する勉強会などに参加する〜とても楽しく刺激的ですが、これはボランティア活動ではありません。
  • 自分のゲームを作る〜とても良い学びの経験が得られますが、これはボランティア活動ではありません。
  • 他人のゲーム開発に協力する〜同じくボランティア活動ではありません。
  • 学校のゲーム開発プロジェクトに参加する〜これはボランティア活動ではなく学習活動です。
  • 慈善事業に寄附する〜ぜひ寄附してください。しかし、これをボランティア活動とは呼ばないでください。
  • 慈善事業に参加する〜ぜひ参加してください。意義のあることですし、すばらしい経験が得られます。しかし、これはボランティア活動ではありません。
  • 無償のインターンシップに参加する〜すごくいい経験が得られますよね、しかしボランティア活動ではありません。
  • インディゲームを買う〜すばらしい! インディゲームはあなたの時間とお金を消費します。しかし、これはまだボランティア活動ではありません。
  • クラウドファウンディングをサポートする〜同じく価値のあることですが、ボランティア活動ではありません。
  • 商業ゲームのβテストに参加する〜商業スタジオがゲームのクオリティを商品レベルに上げるために、どのような工程を経ているか経験する良い手段ですが、これはボランティア活動ではありません。
  • GameJamに参加する〜ゲーム作りについて学ぶ上で個人的に一番すばらしい方法だと思っていますが、想像がつくように、これはボランティア活動ではありません。
  • 海賊版ではなく正規版のゲームを購入する〜それはボランティアではなく法律に則った行為ですよね。

まだまだたくさんあります。しかし、もういいですよね。そろそろ「ボランティアではない例」を上げるのはやめましょう。おそらく、どんな例が(ここで求められる)「ボランティア活動」なのか、皆さんもわかってきたのではないでしょうか。その参考例を少し挙げてみましょう。

  • IGDAチャプターやゲーム開発者コミュニティの運営を手伝う〜地元のオーガナイザーに運営のサポートを申し出ましょう(彼らはいつもサポートを求めています)。もしそうした活動が身近なところになければ、自分で立ち上げましょう(訳注:IGDA日本は常に学生ボランティアを募集しています)
  • 慈善事業を手伝いましょう〜募金を集めたり、団体が目標に到達する手助けをしたリ、自分が属しているコミュニティを良くすることに自分の時間と情熱を注ぎましょう。あなたの助けが必要な団体がたくさんあります。もしかしたらゲーム作りに必要なスキルを用いて協力できるかもしれません。絵を描くスキルを用いてポスターを作ったり、壊れたコンピュータを修理したり、などです。
  • 地域の学校を助けましょう〜放課後に子供たちにプログラミングや絵画や文章の書き方を教えてみてはどうでしょう。あなたの持っているスキルが活かせることなら何でもいいのです。
  • カンファレンスの運営を手伝いましょう〜カンファレンスのほとんどは、たくさんのボランティアスタッフによって運営されています。あなたのお気に入りのカンファレンスの運営を手伝ってみませんか? 多くの場合、イベントの無料参加権が得られるだけでなく、同じような情熱を持つ素晴らしい人々に出会ったり、カンファレンスがどのように運営されているのか、舞台裏から知ることもできます。
  • IGDAの運営を助けましょう〜私たちは自分たちの時間を自発的に費やして運営を手伝ってくれる人々を常に探しています。IGDAの活動は、みなすばらしいボランティア精神にもとづいて行われています。私たちにコンタクトしてください。すぐに自分ができることがわかるでしょう。

まとめると、ボランティア活動はあなたの時間と情熱を、周りの誰かがあなたにしてくれること以上に、周りの誰かにたいして自発的に提供することです。それはあなたが属しているコミュニティに対して能動的に参画していくことであり、地域的にも国際的にも、公共的にも商業的にも、すべてを少しずつ良くしていくことに繋がります。重要なことは「情けは人のためならず」という言葉の意味を知ることです。あなたは人間関係を構築し、新しいことに挑戦し、人々の生活を良くしていることを自覚することで、満足感を覚えるでしょう。

これは始まりに過ぎません。地域のIGDA支部でのボランティア活動が、IGDAスカラーシッププログラムでの活動へとつながり、IGDA全体での活動へとつながっていきます。実際、私はこの文章をボランティアで書いています。というのも、私は学生がよりよいIGDAスカラーシップの応募書類を書く手伝いをしたいと思っていますし、すばらしい応募書類にもとづいて合否の判断をしたいのです。もしこの文章が応募者の誰かの役にたつとしたら、自分の努力も報われたというものです。

クリス・ティホール

クリス・ティホールはゲームシナリオライター・ナラティブデザイナー・コミック作家そしてIGDAビクトリアのオーガナイザーです。彼はまたアイロニック・アイコニック・スタジオの創造性にあふれたクリエイターでもあります。このウェブサイトで彼の作品をチェックできます。(日本語参考訳作成 小野憲史)