TGSスカラーシップレポート⑧ 河野麗生

自己紹介

今回TGSスカラーシップに参加した、慶應義塾大学 環境情報学部4年の河野麗生(コオノヨシキ)と申します。私はゲームローカライズ(英日)という職種に興味があり、翻訳スキルを向上すべく、大学生活の傍ら、フリーランス英日翻訳者として仕事も受注しています。そのような私が東京ゲームショー(なんと初参加!)で感じたこと・考えたことを、この場を借りてご紹介します。

「eスポーツのこれから」

まずはTGS初日となるビジネスデー1日目。この日は奨学生全員でTGSイベントショー「eスポーツのこれから」に出席しました。eスポーツという競技シーンについては元々関心があり、大学での卒業論文のテーマとしても扱っています。このイベントにはさまざまな有識者が国内外問わず登壇されていましたが、何とその中に、Newzoo社の”ミスター・eスポーツ”と呼ばれているPieter van den Heuvel氏もいらっしゃり、とても興奮していたことを覚えています。Newzoo社はオランダで設立されたゲーム専門の調査会社で、一般人や企業向けに、ゲームだけでなくeスポーツに関するさまざまな統計データを、とても分かりやすいインフォグラフィックス形式に変換して提供しています。私自身も卒業論文の執筆を進める際に、同社が扱っている統計データに関して、Heuvel氏にメールでいくつか質問させていただいたことがあるのですが、お忙しいはずなのにも関わらずすぐさま返信してくださり、とても親切な方だな、と印象に残っていました。そのような方が、最新データを元に「eスポーツのこれから」を語られ、非常に貴重な経験となりました(握手したかった……)。

「日本ゲーム大賞発表授与式」

次に、「日本ゲーム大賞発表授与式」です。さまざまな有名タイトルがノミネートされる瞬間を、私は生まれて初めて目の当たりにしました。特に印象に残ったのは、〈ゲーム デザイナーズ大賞〉を受賞した、「INSIDE」という作品です。開発元はPlaydeadという、デンマークで設立されたインディーデベロッパーで、スタジオ規模は約30名――そしてさらに、この受賞作品「INSIDE」を含めて、未だ2つのタイトルしかパブリッシュしていません。その他のあらゆる部門においては「NieR:Automata」や「Overwatch」など、いわゆるAAAタイトルが受賞していた中での堂々たる受賞。ゲーム映像を拝見しましたが、「主人公を含めた、謎めいた世界。その表現手法は、数多の作品と比較しても、『似ている』と言える作品がほぼありません(日本ゲーム大賞、ホームページより引用)」という評価はまさにその通りで、「言葉」を一切用いることなく世界観を見事に構築していく表現手法は素晴らしいの一言に尽きます。「日本ゲーム大賞に受賞できるのは大手ゲーム開発会社だけ、なんてことは無いんだ!」とゲーム開発者を勇気づけてくれる受賞だったのではないでしょうか。

VRを使った大規模な装置――「VRアトラクション」というジャンルの可能性

さて、VRブースをうろついていると、一際賑やかな人集りを発見しました。何だろう、と思いながら近づいてみると、とても大きな装置に安全バーで固定された2人の人間が、グルグルと空中を回転しているではありませんか!よく目を凝らしてみると、その方たちはヘッドマウントディスプレイを装着しており、どうやらジェットコースターのように、上下左右に飛び回るようなアドベンチャーの世界に旅立っているようです。その光景を見て、私はかなりの衝撃を受けました――「ああ、VRはこういう使い方もあるのか」と。それと同時に「VRアトラクション」というジャンルに期待がとても膨らんだのです。これまで私にとってのVRとは「家で、1人でゲームに没頭するためのデバイス」という存在でしたが、「外、つまりゲームセンターなどの娯楽施設で、2人以上でゲームを一緒に楽しむためのデバイス」にもなり得るのだなと確信しました(個人的には、ゲームセンターでああいったVRアトラクションを遊べる日が来ることを楽しみにしていますが、特に衛生面や安全面でまだまだ課題は残っていそうです)。

「出展する側」に立って

ところで、スカラーシップの募集要項に記載されているような「将来日本のゲーム業界に進みたいという強い意識」を学生なりに抱いている私たち奨学生は、「今後こういったゲームイベントに『出展者として』参加する可能性がある」ということも、謙遜を捨てて頭の片隅に置いておくべきだと感じています。しかも本来は参加費がかかるところを、IGDA様が負担してくださっている訳です。今回経験した・学んだことを活かし、今のうちに「出展する側の目線」に立って物事を考えてみる必要があるのではないでしょうか。クオリティが良かろうが悪かろうが、第三者からの評価がなければそれは「作品」にはなり得ません。どのように出展すれば一般参加者・ゲーム業界関係者から興味を抱いてもらえるのか、そもそも出展する目的は何なのか――そういったことを明確にし、工夫していかなければ、無数ある出展タイトルの中から自身の作品を選んでもらうことは難しいでしょう。

謝辞

最初に述べたように、TGSに参加したのは今回が始めてでした。予想していたよりも遥かに会場は広く、何もかもが規格外で、新鮮でした。私は今年度に大学を(恐らく)卒業し、来年度からはゲームローカライズという職種でゲーム業界を支えていく所存です。このTGSスカラーシップでの経験や学びを、ゲーム業界にどっぷりと浸かる前のこの学生時代に得られたことは誇りであると自信を持って言えます。このTGSスカラーシップでお世話になったIGDA日本関係者の皆さま、並びに、共に会場を見て回った奨学生の皆さまに感謝します。ありがとうございました。また何かの機会でお会いできることを楽しみにしています。