IGDA日本アカデミック・ブログ - 記事一覧
| 発行日時 | 見出し |
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| 2010-9-9 17:39 |
SIG-INDIE7の概要!
同人・インディーゲーム部会(SIG-INDIE)世話人、東京工業大学特任講師の七邊と申します。ウェブではyakumoという名前で活動しています。こちらのブログには初投稿になります。
9月11日(土)、SIG-INDIEは、秋葉原UDXマルチスペースにて、「実践事例から学ぶプロデュース・PR術ー手にとってもらえるテクニックー」【9月11日(土)13:30-17:30】を開催いたします。 今回の研究会のテーマは、「制作したソフトをどうやって手にとってもらうか」と「商業で活動するにはどうすれば良いか?」です。第2部では同人ゲーム、第3部では商業ゲームの開発・販売・流通の現場にいらっしゃる方々に、それぞれのテーマについてご発表いただきます。ここでは、それぞれのご発表を聴く上でのいくつかのポイントについて、私なりにまとめてみたいと思います。 第2部は「同人ゲーム編」です。最初に登壇される「虎の穴」さんは、言わずと知れた、同人作品の委託販売ショップの最大手。ご登壇される鮎澤さんは、同人作品の仕入れ部署の統括をされている方です。これから同人ゲームを委託したい! というサークルさんも多いと思いますが、「委託してもらうためのポイントは?」「日本の各都市での販売の比率」「通販やダウンロード販売の比率は?」「他社との違いは?」「良く売れるソフトの特徴は?」「専売のメリットって?」など、色々聞くポイントはありそうです。 同じく第2部で登壇される、「もえCDプレス」さんはCD/DVDプレスで著名な企業です。ショップのチラシや同人ゲームのパッケージのロゴをご覧になった方も多いと思います。「これまで手焼きしていたけれど、次はプレスを考えてみたい」と考えている方も多いと思いますが、「どんなサービスがあるの?」「国内と海外プレスの違いは?」「料金はどれくらい?」「何枚くらいからプレスの方が得?」「パッケージの見た目は手にとってもらう(売れる)ために重要?」「他社との違いは?」などについて、注目して聴いてみるのも良いと思います。 次に、第3部「商業ゲーム編」です。「テイジイエル企画」さんは、主にPC用の商業ゲームの開発・販売・流通を手がけられている企業です。「戯画」という自社ブランドで開発・販売を行われるとともに、他社さん(「パートナーブランド」)の開発・販売・流通を支援する業務も行われています。様々なノウハウをお持ちの企業さんですので、「商品告知から発売までの広報スケジュールはどんなものか?」「起業して成功するデベロッパとそうでないデベロッパの違いは?」「同人サークルの起業の場合、どちらから声をかけるか?」「売れなかった場合、どうなるか?」などについて質問してみてはいかがでしょうか。 最後に登壇される「FLAT」さんは、近年同人サークルから起業された中ではかなり順調に成長されているデベロッパさんです。PCゲーム業界でも、開発コストの上昇や売上の低迷に伴い、2000年代前半に比べると、新規参入企業が生き残るのはなかなか厳しい状況になっていますが、FLATさんはコンシューマ(PS2)でも発売された「シークレットゲーム」の他に、第2作も間を置かずに発売されるなど、開発・販売の計画性も注目されています。そこで、たとえば、「起業のために開発面・経営面でどういう勉強をしたか?」「いつから起業の準備を進めたか?」「目指しているゲーム/企業は?」などについて、注意して聴かれてみてはいかがでしょうか。 これらに加え、第1部では、相模女子大学の樺島榮一郎先生(相模女子大学)に、インディーズ音楽の開発・販売・流通の現状と未来についてお話ししていただきます。インディーズ音楽の開発・販売・流通のインフラはどのようなものなのか、今後音楽はどのようになっていくのか、といった点について考えることは、同人・インディーズゲームの現状と課題を考えるのにもきっと役にたつと思います。 これらに加え、第4部ではご登壇者の方々によるディスカッションと、研究会後の懇親会が開催されます。チケット販売は本日の18時までですが、当日に来ていただければ何とか対応できると思いますので、ご関心がお有りの方は、ぜひ参加を検討してみてください! |
| 2010-9-7 21:09 |
Unityが優れたゲーム開発教育の取り組みに25万ドル相当の開発環境を寄贈
プロジェクト概要9月1日,ゲームエンジン「Unity」シリーズを開発するUnity Technology社が「Unity Mobile Generation Education project」を発表した.これは世界各地の教育機関を対象としたもので,Unityを使った授業計画を募集し,優れた提案を行った教育機関には有料版のUnity開発環境(Unity Pro v3.0, Unity Android Pro v3.0 Pre-release, そしてAndroid OSを搭載したGoogle Nexus One)が20人分寄贈される. 背景現在,多くのゲーム開発者教育はモバイル機器やタブレットPC向けへの対応を進めている.そのためには教材の充実や教員育成が必要だが,多くのゲーム開発人材育成はデスクトップやコンソール機に最適化されていた.そのため,ゲーム開発者育成プログラムとモバイル開発者育成プログラムを分離して別々に教育している学校も少なくない.しかし現在の学生が社会に出る数年後を考えるとき,両者を統合した教育プログラム,たとえばモバイル環境でのより高度なゲームの開発,あるいはゲーム開発のスマートフォンや電子ブックなどへのマルチプラットフォーム対応にいまから着手しておく必要があるだろう.今回のUnityのプログラムがよくある教育機関向けの無料サービスと異なる点として,教育機関は2度の提出物で審査される.まず第一ラウンドで教育機関は新しい教育カリキュラムを提案する.そして選ばれた教育機関にテスト環境が配布され,それを使った一学期分の学習計画と20分間の講義サンプルビデオを提出する.その中から最終的に3つの教育機関が選出され,学生分の開発環境が寄贈され,翌年からの授業内容を定期的に報告する. つまり,今回のプロジェクトの目的は,単なる教育機関向けツールの無料配布ではない.各地の教育機関が新しい授業デザインを競うことを促進しようとしている.Unityでのゲーム開発情報はこれまでオンラインや書籍で流通してきたが,十数週間の限定された期間内で,予習復習や講義演習を通じてどのような目標に到達するのかという授業デザインについてはまだ十分な蓄積がない.今回のプログラムですぐれた教育プログラムが提案されることが期待される. 予定されている日程
関連資料: UnityについてUnityは無料版はダウンロードできる.また,各種の学習教材がオンラインで配布されている.Unityについては,本ブログの親団体であるIGDA日本が,iPhone Game Devシリーズセミナー スペシャルの「ゲームエンジン『Unity』の衝撃」を実施した(講演案内, 講演まとめ).また,CEDEC2010で開かれたUnityのスポンサーセッションも報道されている.本ブログでも,Unityについては「世界同時多発ゲーム開発: Global Game Jam 2010 を振り返る」中編後編で言及している. (ちなみにIGDA日本では,Unity以外にもゲーム開発環境に関する研究会・セミナーを開催している.現在でもオンラインで読めるものとしては,SIG-Indieの第4回研究会「Xbox360向けゲーム開発環境XNAにまつわるインディーズゲームシーン」(報道記事,講演スライド)などがある.) 関連資料: カリキュラムの枠組みゲーム開発者の教育カリキュラムついて考える際には,各地の教育機関が作成した大きな枠組みとして「IGDA カリキュラムフレームワーク」が全体像をつかみやすい.日本語訳は『デジタルコンテンツ協会報告書』に収録されているので,カリキュラムの見直しを行う教育関係者は参考にしていただきたい.日本語訳について不明な点があればIGDA日本または当アカデミックSIGでも問い合わせを受けつけている. |
| 2010-8-20 10:04 |
ゲーム開発教育プログラムが文部科学省の今年度事業に採択される (速報)
世話人の山根です.
文部科学省は平成22年度「産学連携による実践型人材育成事業 専門人材の基盤的教育推進プログラム」の公募を行い、産業界と高等教育機関とが協力して人材育成に取り組む試みを募集し審査と予算配分を行っています。全国各地で教育改革にとりくんでいる大学や専門学校が応募したこの事業で,ゲーム関連の取り組みが採択されるのは容易ではありません. 今回、その採択事業の一つに選ばれたのが、東京工科大学を代表校とするグループによる「ゲーム産業における実践的OJT/OFF-JT体感型教育プログラム」の提案です.委員の正式な任命などの手続きがまだ完了していませんが,IGDA日本のメンバーも産業界と高等教育機関の橋渡しをする団体としてこの取り組みに参加しているので,教育・人材育成面での注目点を速報としてお知らせします. 本事業から、ますます高度になっていくゲーム開発に対する近年の教育界の取り組みをうかがうことができるでしょう. IGDAの教育への取り組みIGDA(国際ゲーム開発者協会)はゲーム開発者による草の根の国際NPO団体ですが,その中でもEducation SIG(教育専門部会)では,ゲーム開発者に必要な知識を産学連携で体系化する作業に取り組んできました.その成果は「IGDA カリキュラムフレームワーク」として改訂を続けており,2008年版の日本語訳は「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究 報告書」の付録としてオンライン公開されています.また,IGDA Education SIG は世界同時多発ゲーム開発イベント「Global Game Jam」を推進しており,昨年度末に東京工科大学で行われた発表会にはIGDA日からもSIG-AI世話人とSIG-AC世話人が産学双方から参加し,東京工科大学での取り組みについて意見交換する機会を得ました.今回の東京工科大学グループの提案は,この時のGlobal Game Jam参加経験を年間の学校教育にフィードバックさせたものだと言うことができます. 採択プロジェクトのポイント従来の学校教育には,実践的なゲーム開発教育がうまくできない制約が存在します.今回の事業提案には,その制約を乗り越えるポイントがいくつか含まれています.以下に簡単にまとめてみます。1) 大学の壁を越えた教育プログラム現代におけるゲーム開発は,異なる分野の訓練を受けた専門家が協調して取り組むプロセスです.しかし,従来の学校教育ではゲーム制作をとりいれても「同じ学科」で「同じ学年」の学生だけで「担当教員が一人で授業設計できる一科目の範囲」の実習に取り組むことが一般的でした.こうした学校教育は本物のゲーム開発とは同じではありません。そのため,学校教育よりも企業で仕事をしながら学ぶ「OJT」が重視される理由になっています.そこでゲーム教育の先進校では,学校の壁を越えた高度な教育プログラムを模索しています.たとえばMIT GAMBITやUSC Gamepipe Lab は,ゲーム音楽については学外のバークリー音楽院の映画音楽コースと提携しています.このような学校ごとの壁を越えた学習の場をつくるのは日本の学校が苦手とするところでした.しかしながら今回の東京工科大学グループの提案は,東京工科大学・日本工学院専門学校,日本工学院八王子専門学校が協力してゲーム開発を学ぶ試みで,大学院から専門学校,そして留学生も交えた実践的な学びを期待しています. 2) 集中的な学習スケジュール日本の大学では,毎週一科目の短い授業時間が一般的です.しかしゲームのデザインからリリースまでを学ぶには,週一コマの授業で扱うのではなく,より集中的な体験が望ましいと言えます.そのためには,複数の授業担当者が協力して一つのプロジェクト型授業をデザインするか,もしくは他の授業の休講日に集中した実習時間を確保する必要があります.今回の提案では,年明けにゲーム開発イベントGlobal Game Jamに参加することを学習の目標に据えており,そのために必要なプロトタイピングを通じた集中的な学習が期待できます.3) 成果を発信する体制海外ではIGDA Academic Summitなどでゲーム専門学校や専門大学院がゲーム教育プログラムを発表しては相互評価を重ねてきました.しかし,日本国内ではどのようなゲーム教育プログラムが進められているのかを共有し改善するというサイクルが確立していません.ゲーム教育を行っていると宣伝している学校や研究室はあっても,そのプロセスを外部に発表する学校は決して多いとは言えないのが実状です.その中で,今回の取り組みの代表校である東京工科大学はゲーム教育の取り組みについて発信をすすめており,たとえば2005年の文部科学省「現代的教育ニーズ取り組み支援」,ACM SIGGRAPH ASIA 2009 Educators Program,そしてGlobal Game Jam 2010でも学内の取り組みを積極的に発信してきました.特に本提案では、年度末に学外の機関と協力しての成果報告が計画されており,参加校以外の学校や企業にも参考になると考えられます. 4) 世界基準で学びあうこのプログラムの学生達が参加するGlobal Game Jam では,2日間でゲームのプロトタイプを開発し,公式サイトにゲームをアップロードします.そして参加者はポイントやコメントをつける相互評価を経験できます.学生のうちから世界各地の学生やIGDAの開発者とコメントしあうことは貴重な経験になるでしょう.CEDEC2010での報告Global Game Jam に参加した海外のゲーム教育拠点の中には,社会人のゲーム開発者が参加して混成チームを組んで開発するところもありました.彼らはゲーム開発拠点校と普段から協力関係にある地元のゲーム開発者で,IGDA支部やSIGGRAPH支部のネットワークや、拠点校の卒業生のネットワークによってつながっています.プロの彼らにとっても教育機関の開発イベントに参加することで,社内のOJTとはまた異なる学習効果を期待しているようです. 関心のあるゲーム開発者の方は,来るCEDEC2010でも東京工科大学メディア学部の三上浩司講師が9月2日(木)午後に「Global Game Jamへの誘い −48時間ゲーム開発プロジェクト「GGJ2010」参加報告−」というショートセッションで登壇する予定なので,プロ・セミプロ・インディーズの開発者からコメントが寄せられ、さらなる現場からのフィードバックを図れればと考えています。 以上、国内の教育機関の試みを速報として紹介しました。文部科学省や東京工科大学から正式な発表が出たら,追って追記します. |
| 2010-8-17 22:10 |
CEDEC2010アカデミック・プレビュー: 注目点と注意点
CEDECにおけるゲーム開発者と研究者CEDEC(CESA Developers Conference)は日本最大のゲーム開発者のためのカンファレンスである.開発現場の話だけでなく,数年前から「アカデミック」トラックが新設されたことで,それまでゲーム産業との接点がなかったアカデミックなゲーム研究者がゲーム開発者と交流し相互に学習する場にもなっている.本ブログの親団体であるIGDA日本もこのネットワーキングに関わってきた歴史がある(CEDECのこれまでの歩みについてはCEDECヒストリー(非公式まとめ)参照).アカデミックな発表のみどころ今年のCEDEC2010でもアカデミックセッションが組まれており,ウェブサイトから発表予定を見ることができる.個人的な印象では,これまでの流れを継続しながらも大がかりな公募を行ったことで現在の学術界の人口比を反映した構成になっている.(研究者人口の多い分野で若手の発表が増えた一方で,たとえばゲームライティングやデジタルヒューマニティーズといった人文系のセッションは下火になったように見える.)CEDEC2010ではこの一連のアカデミックセッションの発表だけでなく,基調講演やポスター発表まで多くの学術界からの発表がある.その中から個人的に気になっているものを以下にいくつか紹介したい. 基調講演ではMITメディアラボの石井裕教授が来日する.MITでゲーム開発といえばCMSとかGAMBITが教材公開や学生の作品製作で知られており、本ブログでも紹介してきた。しかしメディアラボはそれらの部局とは異なり、ゲームに特化していない研究を通じてゲーム業界に影響を与えてきた(たとえばメディアラボのSynthetic Characters Groupは活動打ち切りになったものの,その論文はゲームAI開発者に大きなインパクトを残している).今回の講演でも、分野を越境するようなメディアラボならではのスケールの大きい話が聞けるのではないかと期待している. また,アカデミックセッション以外の発表では,東京工科大学でのGlobal Game Jam参加報告も予定されている.本ブログでも紹介したように,東京工科大学はIGDAのゲーム開発イベントであるGlobal Game Jam 2010への参加を果たした(他に大学院大学であるJAISTも参加した).海外ではGlobal Game Jamが各地域のゲーム開発者とゲーム教育拠点とが共有する機会にもなっており,ゲーム開発教育の観点からも興味深いものになるはずだ. ところで,CEDECと同時開催されるイベント『ゲームのお仕事』業界研究フェア 2010もアカデミックな点でみどころがある.一般的な業界研究フェアでは研究とは名ばかりの産業界からの説明に終始することが多い.だがこのフェアでは本当にゲーム業界を研究している研究者も登壇する.国内外のゲーム産業について大学で研究している研究者による業界分析が無料で聞けるのはすごい. アカデミックな研究者が注意すべきポイントここまでアカデミックなみどころを紹介したが,それと同時にアカデミックな研究者に対して,発表する時の注意点をおさらいしておきたい.北米でもGDC(ゲーム開発者会議)など産業界のイベントで大学の研究者が発表しているが,ゲーム研究の発表は開発者にはあまり評判がよくなかった.そこでなぜアカデミックなゲーム研究者の発表の評判が悪いのかを論じたのが,2006年11月に Gamasutra に掲載されたアカデミックなゲーム研究者への公開書簡「We're Not Listening: An Open Letter to Academic Game Researchers」だ.この記事は,一見して産業界から学術界への一方的な要求に見えるが,そうではない.むしろ,博士号をとってゲーム産業で活躍している企業研究者が学術界に対して「ゲーム産業界のイベントで学会と同じ発表をしても誰にもきいてもらえませんよ」とアドバイスするものだ.著者のJohn Hopsonは脳科学で博士号を取得したあと,Microsoft Game Studioにリクルートされ,Haloシリーズや Age of Empiresシリーズの開発に携わっている(Microsoft Game Studioは心理学の博士を継続的に採用して開発に参加させている).この6ヶ条の内容は企業内研究者の参考にもなるので,以下に要約してみよう.
日本のCEDECの文脈で考える場合,上記6ヶ条の他にもたとえばCEDECの場合はCESAゲーム開発技術ロードマップで研究をどう位置づけられるのかを考えるのもよいだろう. 従来の産学連携とゲーム産業の独自性1990年代は日本国内でも「大学が基礎研究をやり,企業が応用する」という一本道の戦略が大真面目に語られていた.知識は上流から下流へと流れ、大学の先進的な研究を製品化するのが企業の役割というわけだ.しかし,ゲーム産業の展開をよく見ると,イノベーションは必ずしも優れた基礎研究からは起こってはいないように見える.実際,一本道を唱えていた従来型の産業でも『中央研究所の時代の終焉: 研究開発の未来 』(原題はEngines of Innovation)の翻訳出版や,訳者である西村吉雄氏の著述活動などによって,日本国内でも「大学が基礎研究をやり,企業が応用する」という一本道モデルはもはや「戦略」とは呼ばれなくなった.そしてシリコンバレーやハリウッドなどをモデルにして新たな産学連携の取り組みが進められている. 現在の産学連携の議論にはこうした背景があるのだが,日本のゲーム産業はもともと自治体の力も学術界の力も借りずに独力で発展してきた産業だった(むしろ,外部資源に頼らなかったから成功したのだという見方も根強い).このため,国内ゲーム産業は1990年代以降の産学連携戦略の議論はスルーしたままで現在に至っており,ゲーム研究投資も各企業によってまちまちである. ただし,これはゲーム産業の意識が遅れていることを意味しているのではない.むしろ,ゲーム産業とゲーム研究者のどちらも戦後の研究投資のモデルに縛られていないことをも意味している.いまは国内ゲーム産業が独自のあらたな研究投資モデルを準備する時期なのだろう.CEDECが継続してきたアカデミックな研究とのネットワークが,新たなステージに進むことを期待している. |
| 2010-6-15 21:04 |
ゲームAIコンペティションの新展開
近年,世界各地の研究機関がデジタルゲームのAIプレイヤーを開発しては順位を競っている.IGDA日本でもこれまでにSIG-AIでパックマンについて,SIG e-sportsでStarCraftについて紹介している.本稿ではこの動向を研究者集団の視点からまとめてみたい.
ゲーム研究のスピードは早く,各地の研究機関が一つの学問領域を共有することは容易ではない.しかしゲームAIコンテストを例として,各国のゲーム研究機関がいくつかの目標を選び,国際的な競争を進めていることが見えてくる. 国境を越えた開発競争国内のゲーム産業では「研究開発で何をすべきか」「学生や開発者が学習すべき内容は何か」という目標がある程度共有されている.たとえばCESAが出しているCESAゲーム開発技術ロードマップはこれまでの動向や今後の指針を示し,毎年更新されていく.こうして短期的な指針が示されることは大きな意義がある.その一方で,アカデミックな研究者が進めているのは,まだロードマップができていない領域を開拓する国際的な競争である.この競争とは自由な発想を競いあう多様な競争もあれば,国境を越えて研究開発の精度を争う競争もある.後者の場合,世界で共通のルールやゴールを共有しなければ,競争することもできないだろう. チェス,将棋,ロボカップ,そしてデジタルゲームコンピュータ開発の歴史において,ゲームは「これから何を解決すべきか」というゴールを提示する役割を担ってきた.たとえば「コンピュータチェスで人間に勝つ」ということは重要な問題だったし,いまでも「コンピュータ将棋でプロ棋士に挑戦する」という情報処理学会の取り組みはチェスの試みをさらに延長しているといえる.このゲームはボードゲームに限らず,スポーツにも広がっている.「西暦2050年までに、人間のサッカーの世界チャンピオンチームに勝てる自律型の人型ロボットチームを作る」というロボカップの取り組みもよく知られている.最近のゲームAIコンテストは,こうした研究者集団の課題設定がついにデジタルゲームにまで達したことを示している.将棋やロボカップには長年の蓄積があるが,デジタルゲームを研究競争のテーマにするようになったのは最近のことだ.たとえば学会誌Communications of the ACMでは2002年にゲームエンジンを学術研究に導入する特集が組まれ,その中ではQuake以降のゲームエンジンがロボカップに劣らぬ人工知能のテストベッドになりうることも解説されている.しかしこのころはまだ国際的な開発競争ははじまっておらず,多くのコンテストは00年代後半からはじまっている. 代表的な種目現在,いくつかの研究グループがそれぞれ独自の問題を設定し,教育研究目的用に開発キットを配布してはコンテストを開催している.以下に,代表的なゲームAIコンテストと関連する動画を以下に紹介する.Ms. Pac-Man Competitionミズパックマン(のクローン)を操作して人間の最高記録に挑戦するAIコンテスト. イギリスの研究者が主催し,3年前から開催.余談だが,Ms.Pac-Man大会の提唱者はIEEE-CISのトップでもあるので,今後も同大会を中心としてコンペティションと論文発表は継続されるだろう. Mario AI Championshipマリオブラザーズ(のランダムにレベル生成をおこなうクローン)を操作するAIコンペティション.昨年から開催.2K BotPrizeBIOSHOCKを作った2K Australiaがスポンサーとして賞金をだしているプログラミングコンテスト.Unreal Tournament 2004 のデスマッチ形式の対戦で,人間に近い振る舞いをするbotを審査員が選定する.2009年大会では5チームはいずれも審査員全員に人間だと思いこませることはできなかったが,少なくとも審査員の一人はbotだと見破られなかったという. The Simulated Car Racing Championshipイタリアの研究グループが主催する自律レーシングカーコンテスト.3年前から開催. StarCraft RTS AI competitionカリフォルニア大学サンタクルーズ校の研究者が主催するコンテスト.公開されているAPIを使って製品版のスタークラフトを世界選手権ルールの下でプレイする.今年から開始.カリフォルニアの他,欧州でも開催が予告されている.これについては後述する.ゲームAIコンテストのメリットロボカップが社会的に認められているように,これらのゲームAIコンテストにも教育効果や社会への還元が期待できる.まずゲームAIを開発する中で,アルゴリズムやAPIプログラミングやリアルタイム処理,あるいは自律型ロボットプログラミングについて知見を深めることができる.またAIを作って論文を書くだけでなく,世界を相手に競うというのは学生やアマチュア開発者にとって得がたい経験だ.とはいえ,これだけのイベントを研究機関だけで主催するのは無理なので,企業の協力も得ながら国際学会の大会の中のイベントとして開催される場合が多い.すると学生にとってはコンペティションと国際学会の両方に参加できる貴重なチャンスとり,専門家と意見交換をおこなう機会にもなる. また,(いくつかの例外はあるが)教育研究向けに開発環境が無料公開されており,複数の言語を選べる.こうした対等の条件で競えることは重要で,本家の提唱者や主催者ではないアマチュア開発者や海外の大学の健闘につながっている.たとえばゲームAIの研究者層が薄い日本でもFPSで対等な競争をするのは不可能ではない.実際に,立命館大学知能情報学科知能エンターテインメント研究室のRuck教授のチームがIEEE Evolutionary Computation 2009 のイベントでMs. Pacman AIコンテストに優勝,同年IEEE Symposium on Computational Intelligence and Games (IEEE CIG-2009)ではMs. Pacmanで優勝,さらに2K Bot Prizeでも準優勝という世界に通用する成績を収めている. こうしたゲームAIの研究開発は,より面白い対戦,より適切な強さのAIプレイヤーの開発へとつながることが期待されている.さらにゲームAIコンテストの見逃してはならない魅力は,最強のAIプレイヤーとトッププロとの対戦が計画されていることだ. トッププレイヤーへの道: スタークラフトかつてはトッププロと人工知能との対戦は,チェスや囲碁などのボードゲームでしかありえなかった.しかし,近年のe-sportsの発展により,デジタルゲームでもプロリーグや世界選手権が可能になり,いよいよAIプレイヤーがe-sportsのトッププレイヤーに挑戦する段階が視野に入ってきた.トッププロとの対戦への期待が膨らむのは,やはり今年はじまるスタークラフトのAIコンペティションだろう.日本でも以下に紹介されているのでご存知の方も多いのではないか.
舞台となる国際会議AIIDEについては昨年に本ブログでも紹介したが,昨年の時点では一年でここまで体制が整うとは予想できなかった.今回のゲームAIコンペティションを主催するのはUC Santa Cruz (カリフォルニア大学サンタクルーズ校)のラボで,中心人物は同校の大学院生だ.彼らの熱意がなければこれほどの短期間でイベントが開催されることはなかっただろう. 以下にこの一年の経緯を示す.
UCSCは外部から有力な研究者を集めてデジタルゲーム専攻の大学院を設立したことで注目されている(BRUTUSのPS3特集でも紹介された)が,教授陣だけでなく若手院生が研究シーンをリードすることで,同校の取り組むゲーム専門家人材育成が具現化しようとしている. まとめと展望新たな研究分野を開拓するには,その研究分野がどの方向に進むのかという展望を持ち,何処に進むべきか,何をするべきかが研究者集団によって決定される必要がある.しかしゲームAIの応用範囲は広く,またゲームデザインによって求められる性質も異なる.そのためスタンダードとなる問題を立てることは難しい.しかし,マリオからスタークラフトまでいくつもの問題が各地の研究リーダーから提唱されたことで,ゲームAI研究にジャンルの多様性がもたらされた.さらにコンペティションが国際学会と同時に開催されることで,各地のゲーム研究機関は国際的な開発競争という新たなステージに入ろうとしている.今後はトッププレイヤーと協力してAIプレイヤーの評価を行うことも予想される.トッププレイヤーはどのような超絶スキルを持ち,AIはどうやって対抗するのか.いまのところ日本国内でゲーム研究開発とe-sportsプレイヤーとの連携は,まだ発表数は数件に止まっている.全国ランキング入賞者を対象者とした関西学院大学での研究や電気通信大学での今年3月の研究発表とエキシビションマッチが代表的だが,まだ研究分野として確立されたとは言い難い(学生に依存したテーマ設定だと卒業によって研究が継続されない場合がある).これから日本独自の形態を確立することも必要だ. こうしたゲームAIの事例を見ることで,他の分野においても,研究者集団/現役学生/トッププレイヤー/ゲーム産業のそれぞれが異なるアプローチでゲームという場に参加する方法をさぐることができるのではないだろうか. |
| 2010-5-27 21:13 |
世界同時多発ゲーム開発: Global Game Jam 2010 を振り返る (後編)
予告編「Global Game Jam の目指すもの」,そして前編,中編に続くGlobal Game Jam 2010 報告シリーズの最終回をお届けする.これまで現場訪問や参加者による相互評価を参考にしながら国内外の作品と拠点をとりあげてきたが,本稿ではGlobal Game Jamから見えたゲームシーンの変化について学会情報を交えつつまとめてみたい.
先進校からクラスターへの成長先日のセミナー中継でも話したのだが,これまでの「産学連携」は技術移転のイメージで語られることが多かった.つまり先進的な大学の研究成果を企業が製品化し,研究開発部門を持たない中小企業にはあまり関係がない,といったイメージだ.しかし,GGJから見えるゲーム業界の産学連携の光景は,単なる技術移転ではなく,むしろベンチャー企業のマネージャーや開発者といった幅広い人材の交流と相互学習だった.これはむしろ産業クラスター形成に近い.たとえば中編で紹介した世界的なゲーム開発拠点校では,先端的な研究室だけでなく近隣の芸術専門学校とも提携した混成チームが結成され,また大学の教員や(IGDAのデンマーク支部やボストン支部などの)地元の開発者コミュニティも学生とともにゲーム開発チームに加わっていた.このように学校ごとの枠を超えてプロのゲーム開発者も巻き込んだ相互育成の場が各地に形成されていたのは印象的だった.ゲームエンジン企業の勢力地図ゲームエンジンの教育向け無料提供Global Game Jam 2010のスポンサーには,多くのゲーム開発ツール企業が名を連ねてツールを提供していた.たとえば学生向けに 3ds Max や Maya を配布しているAutodesk社,ゲームエンジンのTorque社,そしてMicrosoft XNA Game Studio.しかし,GGJ2010で活躍していたゲームエンジンはそれらのスポンサー企業のツールに限らない.むしろ中編で紹介したゲームのほとんどはゲームエンジン「Unity」で開発されたものだった.Flash Playerと同じ要領でUnity Web Playerをダウンロードしてインストールすれば,WindowsでもMacintoshでも同じようにプレイできる.開発元のUnity社はGame Developer Magazineが選ぶ2009年のゲーム企業ベスト5にも入ったが,今年のGGJの超短期開発でも高い評価を集めたことはUnityの勢いを象徴していた.ここでUnityの産学連携戦略についてまとめておこう. Unityの躍進中編のNordic Game Jamの節でも触れたように,Unityはもともとコペンハーゲンで大学にゲームエンジンを提供したり大学院生を受け入れるなどして産学連携を進めてきた企業である.その後iPhone対応も加えたマルチプラットフォーム展開でアメリカに進出し,昨年はベンチャー資金を獲得した勢いでUnity Indieを無料化した.教育目的に限定して開発環境を無料配布する企業はUnity以前にも存在したが,Unityの場合はさらに大学が受注する商用ゲームの開発やインディーゲーム開発者向けの支援を進めたことで広いユーザ層を開拓することに成功した.現在では50%の独立系開発者が「Unity」を利用している(GAME Watch)とUnity社が豪語するのもGGJを見ると納得できる.ゲームエンジンの競争日本国内でもこうしたゲームエンジン・ミドルウェアの競争は年々進んでおり,この一年間でも国内製ゲームエンジンの無償提供や海外製ゲームエンジンの日本国内向けサポート開始などのニュースが続いている.また教育シーンでは(ゲームエンジンというよりもスクリプト言語環境だが)小学生から学べるオープンソースのHSP( Hot Soup Processor )も独自のコミュニティを形成している.しかし,Unityが開拓した大学院生やインディーズ開発者とのコラボレーションによる開発はまだ国内では未開拓であり,今後の動向に注目したい.アカデミックなインパクトGlobal Game Jamを見たアカデミックなゲーム研究者の方は,もしかすると「48時間でデザインから評価版完成までやるようなゲーム開発は,本物の研究開発には関係ないね」と思われるかもしれない.しかし予告編「Global Game Jam の目指すもの」で学会の類似イベントを紹介したように,GGJで行われる極端に短い開発サイクルは「プロトタイピング」として学会でしばしば取り上げられてきたものだ.ゲーム分野に限っても,過去のGDCやSIGGRAPHでゲームのプロトタイピングについての独立したセッションが組まれており,近年のGlobal Game Jam (およびそれに先立つNordic Game Jam)は大学教育現場に技術的革新をとりいれていると言うこともできる. GGJ09からのメッセージGGJがプロトタイピングを重視していることは,2009年のGlobal Game Jam で配信された基調講演の動画(英語字幕つき)でも明言されている.このビデオの中で,IGDA代表(当時)のJason Della Roccaと IGDA Education SIGのSusan Gold との導入に続いて,主役を務めるのが『グーの惑星』開発者のKyle Gabler(カイル・ガブラー),その脇を固めるのが「Crayon Physics」のPetri Purhoや「Audiosurf」のDylan Fittererといったインディーゲーム開発者である.(基調講演の概要はこちらやこちらでも紹介されている.) なぜ彼らが基調講演を任されるのか腑に落ちないゲーム業界の方もおられるだろう.たとえば「ヒット作を一本出しただけの若手なのに,学生にアドバイスして大丈夫か?」「欧米ではIGFファイナリストはこんなに評価されるのか?」「IGDAにはなぜ過去に大ヒットを出した開発者をお手本にしないのか?」と疑問を持つ方もおられるかもしれない.実は『グーの惑星』開発者への注目にはアカデミックな理由がある.そしてこの基調講演も,IGDA Education SIG が前世代の成功体験に拘泥せず,次世代の開発者育成を目指していることを示すものだ.以下に説明しよう. おそるべき新人『グーの惑星』については「学生時代の作品がもとになっている」とか「スターバックスで共同開発した」といった断片的な逸話がNintendo Online Magazine インタビューなどで紹介されてきたが,彼らがどのような専門教育を修めたのかはまだ紹介されていないので,簡単にまとめておこう.実はカイル・ガブラーは大学院でゲームのプロトタイピングを修めた第一世代であり,大学院在学中から新世代のエクストリーム開発者として一部では知られた存在だった.カイル・ガブラーの学生時代の作品は彼自身のウェブサイトで紹介されており,大学院修士課程まで年々新しいスキルを身につけてきたことがわかる.そして彼がエクストリームゲーム開発者として注目されるきっかけになったのがカーネギーメロン大学ETCの修士課程で立ち上げた「Experimental Gameplay Project」である.これは1週間に1本ペースで独力でゲームをリリースする荒行のようなプロジェクトで,最初の一学期だけで彼ら4人は合計50本のゲームを作っては公開している.その1週間ゲームの一つが『グーの惑星』の原型「Tower of Goo」だ. カイル・ガブラーらは2005年にこのプロジェクトを振り返ってGamasutraに"How to Prototype a Game in Under 7 Days: Tips and Tricks from 4 Grad Students Who Made Over 50 Games in 1 Semester"(「ゲームのプロトタイプを7日以内で作る方法: 4人の院生が一学期に50本のゲームを作った秘訣」)という共著記事を書いている.この記事が「就職前に数十本の開発キャリアを積んで,ゲーム開発について論陣を張る大学院生が登場した」と注目を集める(この記事が掲載された時にカイル・ガブラーはもうEA-Maxisに就職しており,そこでパートナーを見つけてゲームベンチャーを起業することになる). そして続く2006年に同テーマでGDCで講演し(GDC Radioポッドキャスト).さらにメンバーの一人はSIGGRAPH'07パネルディスカッションでもゲームのプロトタイピングについて発表している.同年には商業リリース前の『グーの惑星』がIGF 2008の作品賞にノミネートされたが,それ以前のGamasutra(2005), GDC'06, SIGGRAPH'07という一連の報告によって彼らは(商用タイトルリリース前にも関わらず)影響力のある存在になっていた.dekunologyの2009年の記事「海外インディーゲーム制作者・制作チームの活躍をまとめてみる」にもCrayon Physics開発者からのリスペクトが紹介されている. 背景の説明が長くなってしまったが,あらためてGGJ2009の基調講演は単なる若手開発者の放言ではないことを確認したい.開発者がまくしたてているだけのように見えるが,実は大学院での実践研究に基づいたものである.そして同時に,大学院で高度なゲーム開発のトレーニングを積んだ第一世代から後輩のゲーム開発者に向けたメッセージが込められている. おわりに: 新たな学びに向けてゲームデザインを何十本も出させる新人トレーニングは珍しくないが,ゲームデザインからプロトタイプ版の完成までの開発サイクルを48時間でまわすGGJのアプローチは,これまで一部の先進校で実験的にのみ実施されていたものだ.この極端に短い開発サイクルをまわすことで,学校教育でも実社会(あるいはインターンシップ教育)よりも濃密な学習を経験できる可能性がある.GGJがこのような先鋭的な試みを世界各地で同時開催することに成功したのにはいくつかの要因が考えられるが,やはりゲーム開発という素材だから可能になったという側面が強い.もしもゲーム以外のソフトウェア開発でここまでエクストリームな短期開発サイクルを課した場合,脱落する学生が続出するのではないかと予想される.つまり,ソフトウェア開発の創造性と意欲とを高いレベルで維持できるという点で,ゲーム開発は学生が先進的なソフトウェア開発に取り組める絶好の分野だといえるだろう. もちろん,エクストリームプロトタイピングだけやれば社会に通用するというわけではない.独力で開発を進めるExperimental Gameplay Projectとは異なり,GGJではチームを決めたその日から自分とは異なる専門の相手とコラボレーションが求められる.これはデザインやプログラミングよりもさらに高次のスキルが要求される.(なおGGJが目指すコラボレーションについては Global Game Jam 代表の Susan Gold がIFIPの国際会議Entertainment Computingで発表している.) さらに,デザインや開発を短期間でまわすだけでなく,その結果が専門家の評価を受けるという体験こそ最も重要だと言えるかもしれない.クライアントからのダメ出しというのは学校教育ではなかなか得られないものだ.たとえインターネットで作品を公開しても,無数のゲームに埋もれて専門家からのコメントや評価をもらうことはなかなか難しい.そこでGGJは英語ウェブサイトを通じて全世界の参加者がオンラインで相互評価を行うという仕組みを取り入れた.さらに最近になってGlobal Game Jam ニュースレターも創刊され,注目作が丁寧に紹介されるようになった.中編で私が紹介しきれなかった作品もとりあげられており,「あの国にもゲーム開発やってる学生がいるのか!」という思わぬ発見もある. 以上のように,GGJに参加したことでいろいろなことを考えさせられた.次回の Global Game 2011 は1月28-30日と,やはり今年同様に学年末試験と重なりそうなスケジュールである.しかし参加したい組織やスポンサーシップを考えている企業があれば,IGDA日本のアカデミックSIGでも支援したい. それでは,Happy Prototyping! 備考: 『グーの惑星』以後Global Game Jamの話題とは離れるが,『グーの惑星』発売後に開発者のカイル・ガブラーたちが起こしたセンセーションを4Gamer海外特派員の奥谷海人氏がまとめておられるので,本稿を読んで興味を持たれた方は参考にしていただきたい.彼らの発言は若手とは思えないほどスケールが大きく(この30年間続いたビジネスモデルが機能しなくなったとか),ゲーム業界の伝統的な発想を越えている(ゲームの売上でFSFやEFFを支援するとか).
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| 2010-5-4 0:40 |
IGDA日本セミナーをネット中継します(5/10)
本アカデミック専門部会が中心となり5月10日(月)にIGDA日本主催のセミナーを開催します。昨年後半に始動したアカデミック専門部会の初のイベントです。
平日夜の開催となりましたが、Twitterで事前の論点整理を行い,国際大学GLOCOMの協力によりUstreamでネット中継します。 (予告用のTwitterのハッシュタグは #igdaj です。) ■セミナー概要ゲーム産学連携のためのUSTREAMセミナー(IGDA Japan chapter / GLOCOM Seminar USTREAM live: Development of Academic-Industry Collaboration for Game Research and Education )(タイトルは変更される場合があります) 主催: IGDA日本 協力: 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)(調整中) 日時: 2010年5月10日 20時?22時 場所: 於 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM) USTREAMチャンネル: http://www.ustream.tv/channel/glocom ※直接会場にお越しになりたいになりたい方は、inoue [ at ] glocom.ac.jp までご相談ください。 ■本セミナーについてハイテク産業が継続的なイノベーションを起こし続けるための手法は様々ですが、その中でも極めて重要なのが「産学連携」です。たとえばシリコンバレーとボストン・ルート128という二つの産業圏の比較研究を行ったサクセニアンの名著『現代の二都物語』(Regional advantage: culture and competition in Silicon Valley and Route 128)も、シリコンバレーにおける産業と大学との緊密な連携が持続的な産業の進化に貢献したことが力説されています。一方で、日本のゲーム産業では、産と学との緊密な連携は思うようには進んでいません。これはいまにはじまった話ではなく,日本のゲーム産業の長年抱える課題です。 IGDA日本のSIG-Academic(アカデミック専門部会)が企画する本セミナーでは、持続可能な産学連携を具体的にすすめるために、ゲーム研究の現場にたずさわる研究者自身から、直接的な現状理解と研究プロポーザルの発表を行っていきたいと考えています。 第一回目の今回は、IGDA日本SIG-Indie (同人・インディーゲーム専門部会)で活動するゲーム研究者を迎えた討議を行います. 本セミナーはUSTREAMにて中継されます.また, 5月6日(木)23:00-1:00頃にTwitter上でスピーカーによる公開プレミーティングを行う予定です.(詳しくはTwitterのハッシュタグ#igdajほか関連ウェブサイトで告知します.) ■プログラム(予定)【1. 本セミナーの趣旨】
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| 2010-4-30 12:25 |
世界同時多発ゲーム開発: Global Game Jam 2010 を振り返る (中編)
前編(2010年4月8日)に続いて,Global Game Jam 2010の報告の続きをお送りする.GGJ2010で制作された数百点のゲームはクリエイティブ・コモンズのライセンスに従ってダウンロードし再配布することができる.その公式ウェブサイトでは開発者が登録したプロフィールを見たり採点やコメントを寄せることも可能で,そうした世界各地の人に評価してもらえることもGGJの魅力の一つである.
どのようなゲーム教育拠点で作られた作品が高評価を得たのだろうか.GGJでは日本を含むアジアオセアニアから中近東,ヨーロッパそして南北アメリカ大陸の東から西へと,時差とともに次々に作品が公表された.Unity Web PlayerやFlash Player最新版をインストールすればブラウザから実行できる手軽なゲームも多いので興味のある方はダウンロードしてもらいたい. 以下では個人的に印象に残った作品をチームについて紹介する.まずGGJ最大規模の勢力である北欧の拠点,Nordic Game Jamから. Nodic Game Jamに見る産学官民の連携戦略「Global Game Jam の目指すもの」(2010年1月27日)で紹介したように,北欧のNodic Game JamはGlobal Game Jam の原型となったイベントで,その中心がデンマークのコペンハーゲンである.今年もNodic Game JamはGGJの拠点の中では最大規模のサイトとなった.Nordic Game Jam 2010の主催者はコペンハーゲンのデンマークIT大学とIGDAデンマーク支部で,彼らの草の根のイベントに産官のイベントが追加されるというというプログラムになっている.たとえば48時間の開発イベントの前後に,同じ会場で「デンマークの文化大臣によるオープニングスピーチ」「ピーター・モリニューによる基調講演」「参加者の中からBest New Nordic Talentを選出(表彰式はNordic Game Conferenceの一環として行われる予定)」と開発者の卵が主役とは思えない大きなイベントが並んだ. この背景として,北欧はもともとIT企業を軸とした産学連携が進んでおり,さらにデンマークIT大学には既存の学問領域とは独自したディシプリンを持ったゲーム研究機関が設立されていた.こうした蓄積を生かしてコペンハーゲンはゲーム研究シーンでも独自の存在感を放っている.(ちなみにスクウェア・エニックスの子会社のスタジオの一つがコペンハーゲンにある.) Nodic Game Jamが他のGlobal Game Jamの拠点と異なるのは,こうした主催者やゲストの豪華さだけではない.Global Game Jamに独自の部門を追加して複数のトラックから構成されている大所帯のプログラムを組んでいる点でも開発イベントとしてのGGJをさらに発展させていると言える.追加された部門はMachnima(ゲームプレイ動画)部門とYoung Game Developers(ゲーム開発未経験者向けの教育コース)部門で,特にゲーム実況動画やMADを作れるユーザをゲーム産業・ゲーム文化に位置づけようとしている点で他に類を見ないプログラムとなっている. もう一つ印象に残ったのは,デンマークの地元企業Unityである.Nordic Game Jam とGlobal Game Jamの両方で第1回のスポンサーだったUnityが今年は表に出てこないな...と思っていたら,Unityは後援企業として参加するのではなく,参加チームに開発スタッフを送り込んでいた.このUnityスタッフはIGF08(インディペンデント・ゲームズ・フェスティバル)学生部門の入選作の開発プログラマで,08年当時は大学院に在籍しながらUnityでプロシージャル機能の研究開発を進めていた.その産学連携の成果をGDC09で発表して注目されていたが,修士課程修了後はUnityに正式採用されたようだ.大学院時代の研究開発をさらに続けているようで,こうした地元出身の一流の先輩と並んで作業するのは現役学生にもよい刺激になっただろう. Paris Game Jamさらに西の会場へと目を向ける.パリの会場となったのはISART Digital(イサート デジタル).ここは日本の新潟コンピュータ専門学校と人材交流を行っている異色の人材育成機関で,独自のテイストを持った作品を出している.特にKawaii Maximum Overkill(カワイイ・マキシマム・オーバーキル)は名前からもわかるように日本のある種のゲームのテイストを研究した形跡がみられる.この開発チームにはゲームスタジオの創業メンバーやプロジェクトマネージャーも参加している.IGDA日本でも昨年SIG-Indieが秋葉原ロケテゲームショウを開催したが,そこでは同人・インディーゲームに注目してもらうとともに,実際にプレイしてもらった反応を開発者に直接届けることができた.秋葉原のような拠点を持たない国でも,GGJに参加し採点やコメントをもらうことで,1)ゲームをプレイしてもらえる,2)プレイヤーの生の意見を得られるということが可能になったと言える. ここにインディーゲーム企業がGGJに自腹でも参加する意義がある.GGJ公式サイトではゲームだけではなく開発者が自ら登録したプロフィールを見ることもできるので,無名のインディーゲーム開発者もGGJでゲーム開発公開に参加することで自らアピールすることができる. アメリカ東海岸のクラスター次はアメリカ東海岸のMIT(マサチューセッツ工科大学).ここはかつてSPACEWARが開発されたデジタルゲームの聖地の一つだが,Global Game Jam に参加したのはシンガポール政府がMIT出資して設立したゲーム教育機関Singapore-MIT GAMBIT Game Labである(昨年,月刊誌ブルータスのPS3特集で紹介されていたのでご存知の方も多いのでは).今回のGGJ期間中,MIT会場は24時間体制ではなく9am-9pmの健全な体制で運営された.これは学生だけではなくボストン近郊のトップ人材が集まっているからだろう.いいかえれば,MITという単独の大学のイベントではなく,地元ボストンの専門学校やデベロッパーにまたがるゲーム産業の地域クラスターのイベントになっている.このために,GAMBITの作品はたとえ学生だけのチームであっても高度な専門家の連携によるものが目につく. たとえばMITとバークリー音楽院という提携校の学生による混成チームの作品RunRunRunJumpやHunt Alone(ヘッドホンとコントローラーをPCにつながないと楽しめない)は,コンセプト,レベルデザイン,サウンド,楽曲といった各要素のレベルが高く,学生が二日で作ったとは思えない完成度の高さである.(バークリー音楽院は世界的に有名な音楽大学だが,ゲーム音楽作曲のプログラムも開講しており,学生は複数のミドルウェアを使いこなせる.) RunRunRunJumpをプレイすると音楽が耳について離れず,英単語がだんだん漢字のような表意文字に見えてくる. NYU Game centerでのチャレンジ技術の高さよりも斬新なアイデアでインパクトを与えたのがニューヨーク大学ゲームセンターである.ここはニューヨーク大学(最近ではLady Gagaの母校として紹介されることが多い)がゲームの研究開発のために新設した独立部局で、ここのGGJ参加作品はニューヨークらしくジャンルも開発環境も雑多でしかも文化的なコードを使ったものが目についた。中でも文科系の最右翼と言えるのが客員教授に着任したJesper Juulである.大抵の大学では教員は裏方にまわってGGJの期間中は目立たないものだが,教授が自ら開発参加することでニューヨーク大学は(教員の手弁当ではなく)支援体制スタッフを備えていることを示している.ちなみにJuulの論考の日本語訳としてはhally訳「ゲーム, プレイヤ, ワールド : ゲームたらしめるものの核心を探る」,また DiGRA2007Tokyo での発表「抽象化の水準」がある.こうした抽象的なゲームの理論家にふさわしく,Juulのゲーム「4分32秒」は技術的には半日でできそうな一発ネタだが,「これはゲームなのか?」」「ゲームとは何か?」というコンセプチュアルアートの領域まで踏み込んだ問題作である. 昨年のGGJ2009で開発公開されたゲームの一つに,ジョン・ケージの現代音楽「4分33秒」からインスパイアされた「4:33」というゲームがある(ちなみに開発者は2008年のIGF大賞を受賞した「Crayon Physics」開発者のPetri Purho).このインディーゲーム開発者の仕事をリスペクトしつつJuulがGGJ2010で開発したのが「4分32秒」で,ケージの「4分33秒」を別の解釈でゲーム化したものだ.その結果,高度な現代芸術パフォーマンスなのかジョークプログラムなのか判断できない,まったく楽しめない作品になっている.おそらくこれは人をからかっているのではなく「大企業ではできないようなチャレンジを大学やインディーズはやるべきだ」という確信犯的な行動だろう.ジョージア工科大学のIan BogostもAtari新作ゲームポエムを開発してIGF2010ファイナリストに残ったときはGDC参加者を困惑させたが、インディーゲームシーンにはこのように面白さではなく前衛芸術のようなものがしばしば登場する。 さらに驚いたことに,このJuulの作品はコンセプチュアルアートならぬコンセプチュアルゲーム作品として,また先行するゲームに対する批評としてのゲームとしてNYU会場でのイノベーション賞に選ばれた(と報告されていた).面白さのないゲームであっても新しいチャレンジを評価するニューヨーカーの懐の深さを感じさせられた. 海外拠点のまとめこのように,海外の拠点では,研究機関と専門学校との連携あるいは大学と地元インディー企業との連携によって,組織の壁を越えたゲーム教育の地域クラスターを形成していることがわかる.それがMITとバークリー音楽院のような提携校による混成チームを可能にしており,また企業ではできないようなチャレンジをあえて学校がやるというという環境を醸成している.そして,こうしたゲーム教育のクラスター化が進んでいない国でも,GGJの短期イベントを通じて,組織の壁を越えて学びあい,オンラインで相互に評価しあう体験を得ていた. 次回は最後のまとめとして,こうしたゲームのプロトタイプ開発をもとにした研究論文やゲームエンジンについてふりかえるとともに,IGF2010前後の動向について展望する予定である. |
| 2010-4-11 14:21 |
国際学会の出版物から: 2010年春
昨年,国際学会IEEEが出しているオンライン記事を中心に国際学会のゲーム関連記事を紹介しました.IEEEは様々な分野の専門家が集まる巨大な国際学会なので,そこで公開されているオンライン記事もその分野の専門家以外の読者も読めるように書かれています.
今春もIEEE, ACMといったメジャーな学会の公開記事からゲーム関連の記事を紹介します.昨年はシリアスゲームが目立ちましたが,今年は大学でのゲーム教育やAR関連の記事が目を引きました. Communications of ACM最大最古のコンピュータ学会,ACMが毎月会員に配布している会誌がCommunications of ACMです.その2009年12月号がコンピュータサイエンスの教育改革特集で,ゲーム関連の記事がいくつかあります.アメリカでのコンピュータサイエンス教育の中で行われるゲーム教育について調査分析したKelvin Sungによる"Computer Games and Traditional CS Courses",そしてAmerica's Army開発を指揮した後,南カリフォルニア大学でゲーム学専攻をたちあげた Michael Zyda による"Computer Science in the Conceptual Age"の2編は特にゲーム教育を真正面から論じています.この号全体をPDFでダウンロードすることも記事毎にダウンロードすることもできます.IEEE Pervasive Computing「ユビキタス社会」はかつて自民党政権の「u-Japan」という政策名にもなりましたが,IEEEでその分野を扱っているのがこの季刊誌Pervasive Computingです.誌面はコンピュータチップから社会面まで幅広い内容を扱っていますが,2010年1-3月号では巻頭記事"Gaming and Augmented Reality Come to Location-Based Services"という記事で位置情報SNSやAR技術について扱っています.これらの記事から、アメリカの大学の一部ではゲーム開発を通じてコンピュータサイエンスや高度なソフトウェア開発を学ぶコースが増えていることがわかります。IEEE Computer Graphics and ApplicationsIEEE Computer Graphics and Applications(IEEE CG&A)は,IEEEの出版物の中でも特にCGを扱う隔月刊の会誌です(昨年の記事ではシリアスゲーム特集を紹介しました).2010年1-2月号では"CancerSpace: A Simulation-Based Game for Improving Cancer-Screening Rates"という記事が掲載され、再びゲームのリアリティ表現と応用がとりあげられました.論文誌と会誌との違い本記事で紹介したのは,ゲームの専門家のための最前線の論文誌ではありません.ゲーム以外を専門とする学会員にも配布される読まれる会誌であり,むしろ専門外の学会員向けに書かれています.専門論文誌を「ジャーナル」,会誌を「マガジン」と区別して呼んでいる学会もありますが,これはマガジンの記事がレベルが低いというわけではありません.専門家と編集者によるチェックがはいっているのはどちらの学会出版物でも同じです. 専門領域が高度になるにつれて,他の分野のことを知るのはますます困難になっています.その一方で,実社会では他の分野の専門家とコラボレーションする必要に迫られます.そこで専門分野の取り組みに光を当てながら広い読者を想定した記事が求められています.また,単なる入門記事ではなく,さらに詳しく知りたい人は誰の記事を読めばよいのかを引用して示していることも多いので,興味のあるかたは今後も公開記事をチェックしてみてはいかがでしょうか. |
| 2010-4-10 2:29 |
コンピュータサイエンスにかける橋: Randy Pausch と大学改革
先日,カーネギーメロン大学で「Pausch Bridge」の献呈式が行われた.故ランディ・パウシュ教授の名をつけた橋である.YouTubeのカーネギーメロン大チャンネルでは,当日のスピーチおよび遺族らによる橋の渡り初めの様子が公開されている.
ここで追悼されている故ランディ・パウシュ教授が膵臓ガンのため死去したのは2008年7月25日(米国時間)のことである.ガン宣告後に行った最終講義がYouTubeで注目され,その書籍版が全米ベストセラーになったことはご存知の方も多いと思う.しかし,本人の業績については漠然と「バーチャルリアリティーの第一人者」と紹介されてゲーム開発関係のことが紹介されてこなかったので,ここではゲーム開発との関係において氏の功績を紹介したい. (本文は12月11日に開催される情報処理学会 コンピュータと教育研究会 102回研究発表会での発表内容と一部重複する部分があります) 教授の47歳の早すぎる死はゲーム業界から学会,一般紙まで各地で報道されている:
ゲーム産業への切り込み隊長パウシュ教授の献身的な活動は大学外においてもよく知られており,SIGGRAPHの委員としての活動のみならずGDC(ゲーム開発者会議)でのIGDA Academic Summitを組織して産業界と学界の橋渡しをおこなっていたことをラフ・コスターも回想している.また,大学の長期休暇をとって Electronic Arts 社などのトップ企業に数ヶ月勤務したことは「最終講義」でも紹介されているが,その経験を彼が公開した報告書は,現在でも産学連携の貴重な資料となっている.それまでにも北米にはゲーム専門学校は存在していた(たとえばDigipenとか)が,大学や大学院で高度な専門教育を受けた人材をリクルートするゲーム企業はなかった.いまでこそアメリカのゲーム企業は全米トップの大学でリクルート活動やインターンシップ受け入れを実施しているが,そのためにはまずセンター長であるパウシュ教授自らが大学の人材の価値を産業界に示すとともに,実社会で必要とされる能力とは何かを(机上で考えるのではなく)現場から大学へと持ち帰っていたのである. コンピュータサイエンスの改革パウシュ教授の功績はたんにイベントでの橋渡し役にとどまらない.彼は全米トップレベルであるカーネギーメロン大学のコンピュータサイエンス(計算機科学)の授業に「オブジェクト・ファースト」の考えを導入し,さらに「社会に出て活躍できる人材育成」という概念を導入した.そしてコンピュータサイエンスに「講義形式で教え,テストの点数で評価する」というやり方だけではなく「プロジェクト開発に参加し,そのプロセスを評価する」という環境を導入した先駆けでもある.パウシュ教授がコンピュータサイエンスの授業としてはじめた仮想世界の構築を行うプロジェクト型教育は,さまざまな専門分野の人たちと協調してプロジェクトを推進できる人材育成として,ゲーム研究開発以外の分野からも調査団が訪問する先進的な教育プログラムである.また,教授が開発したビジュアルプログラミング言語(キーボードを使わなくてもできるプログラミング言語)Aliceは全米の大学のコンピュータサイエンスの学科の一割で導入されている.ゲーム専門学校では企業が今使っているツールに習熟することに特化しがちだが,そのスキルが次世代機でも役立つ保証はない.それに対して,こうした次世代のための実験的なツールも開発公開しながら教育を進めるところは大学院ならではのアプローチだろう.もっともこうした実験環境は,プロのコンテンツに比べて(機能はともかく)UIやコンテンツが貧弱な場合も多い.だが,Aliceの場合はEAからSimsのコンテンツの提供を受けることで開発中の次期バージョンでは本格的な環境が整うことになっている. プロジェクトの管理と継承パウシュ氏は多くの人材を育てた教育者であると同時に,組織経営者でもあった.氏のプロジェクト管理の実践教育や時間管理の講義は名物講義にもなっているが,これは部局を率いる教授はマネジメントにおいてもまた一流であるという実例であろう.そして氏がリーダーを退いたあとも後継者はプロジェクトを精力的に展開しており,停滞を感じさせない.修了生によるシリアスゲームのベンチャー企業たちあげ,ETCの大阪進出など多くのプロジェクトが前進しているのは,リーダーの名声に依存しない体制ができていることを伺わせる.(リーダーしか表に出てこず,後に人材が育たないような組織は大学では珍しくない.) 氏の業績をあらためて振り返ると,コンピュータ科学,バーチャルリアリティーの研究および教育改革での実践,さらに産業界の現場に(学生を押し込むのではなく)自ら入り,次世代の道を開くことに成功した得がたいリーダーだったということができる. 今後,ゲーム開発人材育成の教育者はいかにあるべきかを考えたとき,パウシュ教授の仕事はモデルとして残り続けることだろう. 付記: Pausch教授の学問上の足跡については,ACM SIGSCE08での基調講演「Building Bridges: A Tribute to Randy Pausch」で当時の写真も使ったスライドにまとめられている. 日本語で読めるPausch教授の著述は,「最後の授業」書籍版の他に日本語字幕つきYouTube動画が公開されている.また,CACM記事の日本語訳がACMよりPDFファイルで公開されている. |
| 2010-4-9 4:46 |
世界同時多発ゲーム開発: Global Game Jam 2010 を振り返る (前編)
去る1月末に開催されたIGDAのGlobal Game Jam 2010では,世界各地の学生やインディーゲーム開発者が週末の2日間でゲーム開発を行うとともにインターネットを通じた相互評価を行った.ここでは日本国内および海外の参加者の様子を報告し,今後の課題について考察したい.
Global Game Jam について1月の記事「Global Game Jamが目指すもの」でも紹介したように,Global Game Jamは本ブログの親団体でもあるIGDAによる世界同時多発イベントである.3月に開かれたGDC(ゲーム開発者会議)の Education Summit(人材育成サミット)でもGlobal Game Jamについての報告が行われていた.その発表者の一人,UCSC(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)の博士課程の大学院生 Foaad Khosmood は大学院のウェブサイトでもGlobal Game Jamのまとめ記事を書いている.全体の説明はそちらを参照してもらうとして,以下では筆者が個人的に見聞きした範囲で紹介しよう. 日本の大学と同人サークルが初参加これまで日本の大学がGGJに参加したことはなかった.この理由としては,情報オリンピックや各種ゲームプログラミングコンテストに比べてGGJは学年末試験と日程が近く,また40時間以上の学生イベントを主催できるパワーのある学校も少ないといった事情が考えられる.しかし「Global Game Jamが目指すもの」でも紹介したように,今年の第2回Global Game JamではJAIST(北陸先端科学技術大学院大学)と東京工科大学という二つの先進的な大学が開催地として名乗りを挙げ,それらの学校の学生チームがエントリーした.そして驚きだったのは,同人ゲームサークルぜろじげんが(無料版の開発で?)参入したことだ.GGJは学生だけでなくインディーゲーム開発者の参加も重視しているので,日本の同人ゲームサークルが参加することはGGJの趣旨にかなっていると言えよう.なお日本の同人・インディーゲームシーンについてはここでは説明しないが,IGDA日本の部会SIG-Indieが積極的に取り上げている(新清士「人とインタラクティブの間」 第3回ほかいくつかのメディアで紹介されている). これに加えて,詳細不明の京都のチームがMac OS用のミニゲームで参加した.こうして,今回のGGJは日本からは大学・大学院・同人という複数のセクターがゲーム開発者イベントに参加することとなった. 開催校訪問GGJの初日.1月29日にスタートといっても時差があるので,まずニュージーランド,そして日本,アジア,中近東,ヨーロッパ,南北アメリカと東から西へと順次各地のサイトから第一声があがり,開発現場のビデオ生中継やチャットもはじまる.今回のGGJの国内参加拠点は宮田先生(CEDEC2008スピーカー)の北陸先端科学技術大学院大学・知識科学教育研究センター・宮田研究室,そして三上先生(CEDEC2007スピーカー)の東京工科大学八王子キャンパス 片柳研究所棟 コンテンツテクノロジセンタである.今回は日本時間での最終報告の時間にあわせて,後者の東京工科大学の会場をIGDA日本からSIG-AcademicとSIG-AIの両世話人が訪問した.この訪問の様子はGlobal Game Jam 2010 東京工科大学会場レポートでも読むことができる. JAISTからの成果発表生中継は鮮明には見えなかったのだが,「Linux上で開発したのかな,さすがJAIST」などと言いながら見物させてもらった.そして東京工科大学の成果発表2作を見せてもらったのだが,40時間では完成できないんじゃないかという我々の予想を裏切ってなんとかプレイできるものを仕上げていた. これを学生主体でやったのはすごい---おそらく大抵の大学では担当教員がちゃんと指示しないと難しいだろう.ここで東京工科大学のゲーム教育の特色について説明しておこう.ウェブサイトにもあるように,東京工科大学では国からの競争資金を獲得して,4年生のメディア学部ではゲーム制作を授業の中に取り入れたプロジェクト演習を実施しており,さらに大学院メディアサイエンス専攻ではコンテンツ産業に興味あるアジア圏の留学生を募集するプログラムを実施している.つまり,東京工科大学のこのプログラムの履修生は実践的な制作経験に加えて,異なるバックグラウンドや職種のメンバー間のコミュニケーションやコラボレーションのキャリアを在学中に積んでいる.こうしたクリエイティブなスキルはグローバル化の進むエンターテイメント系業界で必要とされるだけでなく,どの産業でも通用するものだという印象を受けた. 両大学ともに,学生チームはなんとか時間内に動くプロトタイプを作った.それだけでも大したものだが,やはり限られた時間でどこまで開発するかという割り切りが難しかったように見えた. ゲームのプロトタイプを開発する際に,どこを取り出すべきだという切り出し方の正解はない.たとえば,デザインの特徴が出る局面を切り出す場合もあるし,開発者全員が経験を共有することを重視して共同作業が進む局面を切り出す場合もある.これらは一例にすぎないが,短期開発ではリリースまでの戦略を持つことがより重要になると思わされた. 開発だけではない実践的な学びまた,東京工科大学ではゲーム開発環境も整備されており,開発ツールのアカデミックライセンスの制限も把握されていた(つまり,商用や受託のソフトウェア開発も可能な開発環境が構築されていた)ことも個人的に印象的に残った.なおライセンスの話ということでつけ加えれば,Global Game Jamでは作品を提出する際に,開発者自らがCreative Commons License 3.0 (Attribution-Noncommercial-Share Alike)で作品をアップロードすることを求めている.これは開発者が著作権を保持しながらGGJ参加メンバーがお互い学びあい相互評価をすることための措置だが,学生が英語ライセンスを理解するのは困難なので,日本のクリエイティブ・コモンズから日本版「表示-非営利-継承(BY-NC-SA)」ライセンスや解説文を調べるとよいだろう.開発者が権利を放棄せずに利用ライセンスや開発環境を決めてからプログラムを提出するという手続きは,通常の学校教育では教えられない.しかしクリエイティブ人材の育成のためには社会に出て問題に直面する前にこうした手続きについて考えるのは非常に教育的だと言える. 世界のゲーム教育拠点のさらなる展開1月の記事でも触れたように、ゲーム以外の業界でも,チャットやビデオ中継で世界を結んでプロトタイピングやアジャイル開発を行う世界同時開催イベントは存在する.しかしGGJほど多くの国から若い参加者を集めたイベントを筆者は知らない.言い換えれば,ゲーム開発者教育の一環としてGGJに参加することはソフトウェア開発やプログラミング教育の中でも特に先駆的な体験ができると言えるだろう.日本の参加校での成果発表が終わった夜,時差の分だけ遅れてヨーロッパ各地の発表,そして南北アメリカ各地の成果発表がネットで生中継された。そしてアップロードされたゲームのテストプレイや相互評価も進められた.世界中の開発者がつくったプロトタイプをダウンロードしてプレイできることもGGJならではの体験である.筆者はすべての作品を見ることはできなかったが,日本よりも先に教育プログラムを整備させたゲーム教育先進国の層の厚さを見せつけられた.後編ではそうしたGGJの海外参加校・参加企業の成果をGDC(ゲーム開発者会議)におけるインディーゲームシーンも含めて紹介したい. |
| 2010-3-31 16:51 |
オープンソースのゲーム開発とGoogleの奨学金
オープンソースソフトウェアや自由(フリー)ソフトウェアは現代社会で大きな役割を持っている.その種類も多岐にわたり,プログラミング言語,開発環境,インターネット関連のソフトウェアなどで定番になったものも存在する.そしてゲームのアプリケーションやゲームエンジン,ミドルウェア,ゲーム開発スクリプト言語なども数多く含まれている.
本記事では,オープンソースソフトウェアや自由(フリー)ソフトウェアのゲーム開発の現状と,学生の参加を支援する制度について紹介する. オープンソースゲーム開発の特徴オープンソースのゲームといっても個人の作品から大規模ソフトウェアまでいろいろあるが,通常のゲーム開発と自由(フリー)ソフトウェアやオープンソースソフトウェア開発の最大の違いは,誰もがソースコードにアクセスでき,改造し再配布できるソフトウェアライセンスにある.これは個人開発者にとってはいくつかのメリットがある.まず,自分の理解できる範囲のソースコードを読むことで参加者がそれぞれの得意分野やペースで学習できる.そして過去のソースコードを改造し,開発者コミュニティに認められればそれが採用されること.ソースコードの中に自分の名前が出てくるのはなかなか得がたい体験だ.また世界各地からの参加者がいる場合はグローバル企業に勤めなくても国際的な大規模分散開発を体験することができる. オープンソースゲーム開発の現状それでは,オープンソースのゲームソフトウェアにはどのようなものがあるのだろうか.手軽に試すには,OSからゲームまですべてフリーソフトウェアで構成されたLive CDを使うとよいだろう.くわしくはSourceForge.JP Magazineのオンライン記事にレビューが翻訳掲載されているのでそちらをご覧いただきたい.
Googleの「Summer of Code」とはこうしたオープンソースソフトウェアや自由ソフトウェアのプロジェクトは,これまで新戦力の育成が手薄になっていた.ボランティアでやっている以上,エネルギーを開発以外の方向に使って,若手募集イベントを開いたり新人教育の担当者をたてることはなかなかやりにくい.この状況に変化をもらたらしたのがGoogle社である.2005年にGoogleはオープンソース/フリーソフトウェア開発に参加する世界各地の学生を支援するイベント「Summer of Code」を開催した(SourceForge.J Magazine記事).これはGoogleがまずオープンソース/フリーソフトウェア開発プロジェクトを公募し,採択されたプロジェクトの設定した課題に取り組む世界各地の学生に奨学金が支給されるというプログラムである. Summer of Codeは2005年以降も毎年春から夏にかけて継続して同プログラムを実施しており,2008年あたりから採択される学生も1000人を超え,ゲーム関連のプロジェクトも Summer of Code にいくつも採択されるようになった(SourceForge.JP Magazine記事).これにより,夏休みにゲーム開発に参加して奨学金を獲得するという選択肢ができたことになる.18歳以上の学生という条件さえクリアすれば,理工系の学生に限らず,美大生や短大生でも応募可能だし、専門学校や職業訓練校の生徒でも申し込むことが可能だ. SoC2010の展望2010年もプロジェクトによる学生公募がはじまっている.公式ウェブサイトで告知されている大まかなスケジュールは以下の通り.
あとは英語情報になるが、公式ページの他にも各プロジェクトによるプロモーションビデオもいくつか公開されているので、雰囲気をつかむ参考になるだろう。 SoC2010のゲーム関連プロジェクト学生は各プロジェクトの募集内容について調べたり質問したりした後、2010年度は4月9日までに申込フォームへの入力を行う.以下では,参加プロジェクトの中から,ゲームに関連するプロジェクトを紹介しよう.1. 開発ツール,ミドルウェア
ただし海外の大学では先端的なゲーム開発者を育成するためにゲームエンジンの製作を教えている授業もあり,実験的なゲームエンジンを公開する流れは今後も簡単にはなくならないだろう.この分野のゲームエンジンを調べたい人は,日本語ではO-Planning ゲーム制作のちょっといい話にてサンプル動画とともにSummer of Code不参加のオープンソースのゲームエンジンも含めた紹介を読むことができる。 次にSummer of Code 2010に参加しているゲーム開発プロジェクトを見てみよう。 2. ゲームソフトウェア
おわりに夏休みにアルバイトやインターンシップを計画している学生の人は,Googleの奨学金イベントも選択肢の一つに加えてみてはどうだろうか.ただし,申込前にすべきことは多い.世界各地の学生との競争になるので「この学生に参加してもらいたい」と思わせるような申請にする必要がある.また,日本の夏休み期間は海外とは異なるため,授業を持っている学生は7月の中間審査まではなかなか開発時間を割けない.7月までは週末および空き時間を使い,そのあとで夏休みをフルに使うといった計画を示さないと学生を受け入れるプロジェクトの理解が得られないだろう.(裏技としては、過去には二人一組での申し込みをうけつけたプロジェクトもある。) 上述したようにFSIJが日本語情報も公開しているので,それらも活用しながら4月9日の〆切までに自分の興味関心と重なるものがあるか調べるとよいだろう.もしも課題がどれだけ難しいのかよくわからないという場合も,各プロジェクトの窓口に積極的に質問しよう. |
| 2010-3-26 1:58 |
ゲームと社会の関わり: ゲーム脳を振り返る
本記事では「ゲーム脳の恐怖」をめぐる数年間の議論の歩みを振り返り,学術動向も含めたゲームと社会との関わりについて展望したい.
学会がついに「ゲーム脳」を批判?2010年1月9日の読売新聞で,学会が「ゲーム脳」を取り上げたと報道された.脳機能を画像化する装置の発展で、脳に関する非科学的な俗説が広まっていることから、日本神経科学学会(津本忠治会長)は8日、新たに研究者が守るべき注意点を盛り込んだ研究倫理指針を発表した。『ゲーム脳の恐怖』の出版によってマスコミや教育論に「ゲーム脳」という言葉がまん延したが,権威ある学会が「ゲーム脳」を「科学的検証を受けずに流布した」ものだと問題視したとすれば,これは前例がない事態である.これまで,ゲーム脳は「非科学的」「ニセ科学」だという指摘は個々の学者によって積み上げられてきた(ニコニコ大百科「ゲーム脳」からいくつかリンクされている)が,それらは学会レベルの批判ではなかった. しかし結論から言えば,この学会の倫理小委員会の指針の対象にはゲーム脳は含まれてはおらず,記事のゲーム脳の部分は誤報に近いと言える.詳しく説明しよう.学会のウェブサイトで指針を確認したところ,この指針は近年の非侵襲的研究(脳機能イメージングやゲノム解析など)の発展に伴う問題を対象としている.しかしゲーム脳の場合は,独自の簡易脳波計を使っており,エレクトロニクスや統計解析といった近年の技術をそもそも使っていない.このために科学的な検証を行う学会の範囲外となっている. この指針は朝日新聞や共同通信も報道しているが,そこには「ゲーム脳」の文字はない.これらの点を考慮すると、読売新聞には脳科学分野の動向がわかる記者がいなかったのではないかと考えられる。 科学者からの情報発信「ゲーム脳」は科学の土俵ににあげることが難しい教育論だった.しかし,マスコミがゲーム脳をとりあげるにつれ,犯罪報道で「容疑者の自宅にはゲームが山積みだった!」「通り魔はリュックにゲームをしのばせていた!!」といった印象報道が乱発されるようになった.こうした短絡的な「ゲーム脳」ブームに対して,科学者の側からはどのような議論があったのか.学者による代表的な著述をあげておこう.
産業界での議論こうして学術的な情報発信が進む一方で,ゲーム産業の側にも社会との関わりについてアクションが起こった.上記の専門家の著述だけでなく,CEDEC2005でもラウンドテーブルが開かれた(GameWatch報道).権威のある人に発言してもらうだけでなく,ゲームを通じて社会と関わる職業人が議論のために集まったことは意義深い.たとえゲーム脳ブームが過ぎてもまた新たな根拠なき狂騒が繰りかえされるようでは意味がない.迷信ブームを繰り返さないために,将来はゲーム脳に限らずニセ科学に騙されないだけのリテラシーを社会が共有する方が望ましい.また偉い権威に頼むだけではゲーム産業自体の無力なポジションは変わらないので,産業自体が社会機能の一部として機能し社会的意義を認知されること望ましいだろう.ゲーム脳騒ぎにはじまったこのような社会的な取り組みはその後も続いている.経産省の「ゲーム産業戦略」(2006)では経産省とゲーム業界が東大で記者会見を行うという前例のないパフォーマンスを行ったが,そこでもゲーム脳ブームについて言及されている.ゲーム業界は業界団体としての歴史も浅いが,こうして社会の中で役割を果たす産業としての認知と理解を高める道を歩み出したと言える.
今後の展望しかし従来の産業とくらべても,ゲーム産業が社会的に認知され,社会的な役割を果たすということは一筋縄ではいかないだろう.ゲーム産業は複雑なポジションに置かれている.ゲーム産業はプラットフォーマーやソフトウェアカンパニーとして,あるいはライフスタイルの変革者として,そしていわゆるコンテンツ産業の優等生として,多くの顔を持つ産業である.さらに最近では,社会的政治的に多大な影響力を持つ健康産業,自己啓発産業,著作権産業との接点も無視できない.こうした各方面からの期待あるいは反発,さらに各業界の抱える問題が持ち込まれやすいのがゲーム産業のポジションである. 言い換えれば,健康問題・著作権侵害・オンライン詐欺・輸出低迷・その他社会の病理は、(ゲーム業界固有の問題であるかないかに関わらず)ゲーム業界が抱える問題としてこれからも問題視されるだろう. しかしゲームと社会との関わりは単に問題が複雑化するだけでなく,新たな社会を開く可能性も秘めている.最後にアメリカでの事例も紹介しておこう.アメリカではゲーム規制を推進する政治運動やゲーム規制に反対するロビー活動が盛んだが,それ以外にもゲームと社会とをめぐる新たな展開が出てきた. 昨年アメリカではオバマ政権の教育ゲームコンペの呼びかけにESAやSCEAが協賛して大統領声明でもゲーム企業の名前があげられている.とりわけ,ゲーム企業がそれまで進めてきた日頃の人材育成やゲームコンテストがそのままオバマ政権の取り組みにつながっていることの意義は大きい.ゲーム産業やゲーム教育機関が掲げたビジョンがそのまま政権に援用されるという事態はこれまでに無かったものであり,今後のオバマ政権下でのゲーム産業の展開が注目される. その後の議論本記事ではゲーム脳の議論を振り返り、ゲーム研究開発や脳研究に取り組んできた専門家がとったアクションの進展について概括した。冒頭で触れた読売新聞科学部も,その後で掘り下げた記事を掲載している.「気になる! 見極め大切、脳科学神話」(2010年1月22日 読売新聞)でゲーム脳にとどまらず(学会が本来想定していた)脳の迷信を解説紹介している.さらに脳トレの根拠が検証されていないという近年の議論も紹介している. 「脳トレ?脳トレの効果は科学的に実証されているんじゃないの?」 ...と思われる読者も多いだろう.だが「脳トレ」関連ゲームの根拠はまったく無いというわけではないが薄弱である.週刊誌にもとりあげられたように,いまゲームの産学連携で問題視されているのはむしろ「脳トレ」ブームである.「脳トレ」の問題点や改善点はすでに本稿であげた参考文献の一部でも指摘されているが、そうした脳トレブームに対するアカデミックな議論については海外の反響とともに別のところで紹介したい.(日大YouTubeチャンネル「ゲーム脳からの開放」, 30分. 2008) |
| 2010-2-24 2:13 |
春休みのアカデミックイベント情報 2月〜3月 (追記)
昨年の「学問の秋,11月下旬のイベント情報」に続いて,春季(2月,3月)のアカデミックイベントをまとめてみました.学会の研究発表会の他に,研究者が登壇する業界の有料カンファレンスも含めています.
この時期は卒業研究関係の発表が多く製品レベルの話は少ないのですが,どこの大学のグループが人材を輩出しているのかが見えやすいという側面もあります. 2月
3月
コメントをいただければこの他の学術イベントも追記します。よろしくお願い致します。 |
| 2010-1-28 2:35 |
Global Game Jam の目指すもの
Global Game Jam の目指すもの
IGDA日本でも告知されているが,今週末に Global Game Jam が開催される. 1月29-31日の「Global Gaming Jam」が追加参加者を求めています。現在、全世界134、日本からも2カ所エントリー参加者のエントリーも受付中だが,英語ページのためにいまいちわかりにくい.そこで本稿では概略と背景を説明したい. 概略Game Jam は有志が一ヶ所に集まって2日間でゲーム(のプロトタイプ)を完成させるイベントである.短期間でゲーム開発をすることに,どのような意義があるのだろうか? まず,開発サイクルをはじめからおわりまで経験できることに意味がある. IGDA日本でも開発者セミナーや「秋葉原ロケテゲームショウ」を通じて開発プロセスを紹介してきたが,それは開発やテスト評価といったプロセスの一部を切り取ったものであり,全プロセスを体験できるのが Game Jam のよいところである. 実際,ゲームタイトルの開発が大型化長期化したことで,いま企業ではタイトル開発を最初から最後まで経験する場数を重ねることが難しくなっている.その結果,ゲーム開発のプロセスの一部しか経験できずにその分野のベテランになってしまいかねない. また,Game Jam には単に早く開発するだけでなく,ゲームのプロトタイプには何が必要かを学ぶ機会でもある.ゲームを本格的に開発する前にはプロトタイプを製作するの普通だが,プロトタイプまでは開発したが高い評価を得られず,本開発に進めないことがある(IGDA日本グローカリゼーション部会の特別セミナーでは,大手でも半数以上はプロトタイプで切られる). この場合,プロトタイプ開発にかけた労力や時間が無駄になってしまう.そこで,ゲームの核心となる部分を的確に取り出し,短期間で評価につなげていくプロトタイプ開発能力が必要となる.しかしながら企業の開発現場のOJTではプロトタイピングを行うことは難しく,野心的なゲームタイトルの場合は企業の関連ゲームスクールの授業でプロトタイプを作って本開発に進めたという話もある. 背景ゲーム産業以外の分野では,短期間の開発イベントは早くから行われていた.たとえば学会関係では,ACM OOPSLAと同時開催されるDesignFest, CodeFestがある.これは製品開発よりもコンテストの趣きがあるが,アジャイル開発を普及させる上でも重要な役割を果たしてきたイベントである.また,開発者コミュニティーの中でも,インターネット上の有志が開発するフリーソフトウェア,オープンソースソフトウェアでも一ヶ所に集まってバグとりや新バージョンを開発するイベントがある.それらのイベントは各分野で Coding Marathon, Hackathon(Hack + Marathon), Sprint(Zope方面), PlugFest, debcamp (Debian GNU/Linux方面), などといろいろな呼び方で呼ばれており,コミュニティの交流を深める役割も果たしてきた.過去には日本国内でもNPO法人のフリーソフトウェアイニシアティブ(FSIJ)が国内のフリーソフトウェア開発者チームに開発場所を提供する"CodeFest"を実施してきた.FSIJではCodeFestを開いた記録を残し,反省/要望もまとめているので,Game Jam参加者にも参考になるだろう.(もちろん参加者はGlobal Game Jamの英語FAQもざっと読んでおくように) 参加者の視点と主催者の視点は異なるので,主催者が記録を残すことも重要である. ゲーム業界においてGame Jam がはじまったのは,2006年のNordic Game Jam, 2007年の Ohio Game Jam あたりが最初だろうか.Game Jam には教育機関だけではなく,アマチュアのゲーム開発者のグループからインディペンデントゲームの開発会社まで様々な単位でエントリー可能だが,すでに当時からそうした方針が見られる.そしてこれが産業界と教育界とを結ぶイベントとしてIGDAの Game Education SIGで反響を呼び,翌年の第2回 Ohio Game Jam の発表と同時に世界各地で同様のイベントを実施するGlobal Game Jamが発表された.IGDA Game Education SIG のリーダーである Susan Gold がGlobal Game Jamの設立代表をつとめているが,先進的な機関だけが取り組んでいた開発経験を世界中で同時中継共有してしまうこの企画力組織力はさすがだと思う. 2010年の新たな動向立候補すればGlobal Game Jam の開催地サイトを引き受けることができるが,これにはゲーム開発や開発者交流についての組織的な理解とバックアップ体制が不可欠である.昨年の第1回Global Game Jamには,京都のQ Games社が開催地となり,今年の第2回Global Game Jamは,JAISTと東京工科大学という二つの先進的な大学が開催地として名乗りを挙げている(1/27現在、さらに非公開で御所東のサイトも参加).JAISTのページからは丁寧な日本語の案内や過去の作品紹介も出ているし,Global Game Jam の開発チームブログには,日本語名の参加者も見うけられるようだ.その他にも開発チームブログリンクからは世界各地の参加者の盛り上がりに触れることができる.特に開発が始まるまでは,ドキュメンタリービデオをつくるなどお祭り的なグローバルコミュニケーションが昨年よりも盛り上がっているようだ. おわりにGlobal Game Jam は,教育と実社会との間をつなぐだけでなく,実社会では得がたい経験を積む場もである.特に日本の先進的な大学が参加を募集することで,さらなる飛躍が期待される.寒くなっているので,参加される方も開発中継を見ていたいという人も,48時間、身体に気をつけて参加してほしい.追記: 2009年のGlobal Game Jam のキーノート動画(英語字幕つき)はこちら。 |
| 2010-1-8 22:53 |
オンラインゲームコミュニティ研究の野島美保(成蹊大学経済学部准教授)さんがネットでコラム連載を開始
頂いた挨拶文の転載です。
???? この度、インターネット・コラムを連載させて頂くことになりました。 ソーシャルゲーム、携帯ゲーム、教育ゲームなど一般層向けのゲームを切り口に、 デジタルコンテンツのマーケティングについて扱っていきます。 ITMedia ビジネス誠「野島美保の仮想世界のビジネスデザイン」 本年は、スマートフォン、ソーシャルゲームなどに見られるように、 ゲーム市場の広がり、他コンテンツとの融合がますます期待されます。 拙著『人はなぜ形のないものを買うのか』(NTT出版)では、 MMOなどハードユーザー向けのゲームを主に扱っていましたが、 昨今の状況からライトなゲームの研究を始めています。 日進月歩のこの業界に研究スピードを合わせていくのに、 ネットコラムに挑戦することにしました。 慣れない点もございますが、ご指導ご鞭撻のほど宜しく御願いします |
| 2010-1-6 14:56 |
大学のゲーム講義をダウンロード
大学講義や教材のオンライン化はこれまで多くの大学で行われており,さらに最近は講義を「YouTube EDU」や「iTunes U」でも提供する大学も増えてきた.そこで本稿では,ゲーム研究に関する講義や教材(または詳細なシラバス)を公開している大学をピックアップして紹介する.
東京大学大学院情報学環で公開されている講義の中で,ゲームについて触れている回がある.
講義ビデオはないけど,シラバスが公開されている.
マサチューセッツ工科大学 比較メディア研究科MIT Department of Comparative Media Studies の公開科目リストから, "Computer Games and Simulations for Investigation and Education", "Videogame Theory and Analysis", "Game Design" などの科目にリンクされている.また,外部の研究者を招いて行われる講演シリーズがCMS Colloquium Seriesとしてポッドキャストで公開されている.ゲーム研究者の一例としてはJesper Juulのポッドキャストや動画がダウンロードできる. スタンフォード大学
デューク大学
アルバータ大学(カナダ)ゲームAIの研究拠点がある.理学部コンピュータサイエンス学科の授業はアクセス制限がかかっている科目が多いが,一部の科目,たとえば大学院生向けの授業CMPUT 652 - Winter 2009 - 「Single Agent Search」は全スライドと課題が公開されている.この科目はシラバスだけを見れば基本的なアルゴリズムを学ぶ科目に見えるが,DijkstraアルゴリズムやA*アルゴリズムといった正統的な内容から出発しながら,後半では講師の先生が実装したパス検索のゲームエンジン(BioWareから製品化されたDragon Ageで使われている)が題材になっている.第1回のスライドには「学会で注目されるような先進的な授業をやる」という講師の野望が書かれているが,狙い通り最先端のゲームエンジンを扱いながら正統的なコンピュータサイエンスをマスターする野心的な科目だと言える. カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)コンピュータサイエンス学科では,コンピュータサイエンスとゲーム開発とをミックスさせた科目が多数開講されている.たとえば"Computer and Game Console Architecture", "Game Design Experience", "Foundations of Interactive Game Design", "Creating Virtual Worlds on the Web", "Game Engines", "Distributed Systems", "Interactive Narrative"など. |
| 2009-12-9 15:25 |
SIGGRAPH Asia 2009 プレビュー (12/16-19) (追記あり)
SIGGRAPH Asia が今年は12月の16日から19日にかけて,横浜で開催される.
ACM(全米計算機学会)のSIG(分科会)の一つ,SIGGRAPHが毎年夏に開催する年次大会は「CGの祭典」とも呼ばれている。過去には日本のゲームタイトルのムービーが入選したこともあるし,テレビ番組でも紹介されてきたので,ゲーム産業以外の方々も聞いたことはあるのではないだろうか.映画祭のようにも見えるが、その本体は学会による成果発表の場である。 SIGGRAPH Asiaは,そのSIGGRAPHの名を冠した暖簾分けイベントである.本家SIGGRAPHに比べれば規模は小さいが,入選作品は過去の文化庁メディア芸術祭でも無料上映されてきたし,日本での開催に先立ちCEDEC2009でも紹介されている. 今年夏のSIGGRAPH 2009については本ブログでも簡単に触れたが,SIGGRAPHは今年からゲーム関連の枠を増やし,さらにウィル・ライトを招待講演に招いてゲームを柱の一つにするという改革を行った.それに対して冬のSIGGRAPH Asia 2009では,委員にゲーム関連の人がおらず,CGやVR中心に見えるが,プログラムが発表されるとゲーム関連のセッションが予想外に増えていた.しかも近年成長しているアジア各地のゲーム拠点からの発表ではなく,日本人による日本のゲームに関する発表が多い.これは日本のスタッフの努力によって実現できたものだろう。 SIGGRAPH Asia 2009の関連プログラムから,日本のゲーム関連で目についたものを以下に紹介する. 12/14-15:
参加費が少々高いですが,首都圏でこれだけの発表が開かれることは滅多にありません.日本語プログラムもダウンロード可能です. |
| 2009-12-9 6:45 |
コンテンツ文化史学会大会へ向けて5:東方キャラでは誰が好きですか。
その4を忘れて5になります。4は学会のページにあります。
http://www.contentshistory.org/2009/11/24/604/ そのような話を大会ではいたしません。 |
| 2009-12-9 6:43 |
コンテンツ文化史学会2009年大会へ向けて2:雑誌編
要約すると「雑誌も出るのでよろしくね」ということです。
http://www.contentshistory.org/2009/11/18/589/ -- 学術系の大会ですとシンポジウムが開催されたり会員の方の発表があったりするわけですが、それと同時に学会が出している雑誌も同時に発行されたりします。もちろん、月刊だったり、隔月刊だったり、そもそも研究発表会と関係なく動いているところもないわけではないですが、コンテンツ文化史学会は今度の2009年大会に合わせて会誌が発行されるように編集作業を進めておりました。 そして、無事に校了となりました! というわけで、既にこちらのほうで目次を公開しておりますが、今度の大会に合わせて2号が出ます。欲しい方は会員になっていただき、大会当日までに会費を振り込んで当日会場で受け取っていただくか、もしくは会費を当日支払っていただくかになります。既に会員の方は受付にてお渡しいたします。 また会員ではありますが大会には参加できないという方は後日、事務局のほうから郵送いたします。非会員の方は・・・。 そのような2号ですが、今回からインタビュー記事を掲載していくことになりました。「文化史」という名の通り、歴史学としての学会の側面もある以上はオーラル・ヒストリーは非常に重要な分野になってきます。今回は飯田和敏さん、塩谷直義さんにインタビューをさせていただきました。お忙しいところありがとうございました。 飯田さんは教育問題・・・ではなく、Wiiウェアで配信され、何と1位を獲得してしまった怪作『ディシプリン*帝国の誕生』について語っていただきました。ネット上での下記の記事とかをご覧いただければ、飯田さんの人となりが分かりますよね。 http://getnews.jp/archives/25423 http://news.livedoor.com/article/detail/4454245/ 『ディシプリン*帝国の誕生』はそういうゲームです。パフュームが出てくるかもしれません(出ません)。インタビューでは作品が生み出されたプロセスや背景について語っていただきました。あと特に貼りませんが、色々な方がゲームをプレイする動画などが公開されております。 塩谷さんは日本初の3DCG映画『ホッタラケの島?遥と魔法の鏡?』の演出を担当された方です。3DCGだとポリゴンがカクカクしていて、やっぱり記号化された2Dのほうがいいよね、と思った方は一度ご覧になっていただきたい作品です。インタビュー内でも述べられておりますが、2Dのかわいらしさをもった3Dのキャラクターが作品内を動き回っています。そして、作品としては入間市の出雲祝神社を舞台にした作品でもあり、不老川など実際に存在する場所を描いているという点も興味深いです。こちらのほう、どのように作品が作られていったのかを技術的な側面だけではなく、演出を担当されたということもあり、様々な側面からお話いただきました。 お二方とも非常に興味深いお話をお聞かせいただきました。今後もこのようにインタビュー記録を掲載していくつもりです。 |











