SIG-GLOC#15「アプリのライセンスイン事情」セミナーレポート

【欧米インディゲーム/架け橋ゲームズ】

海外インディゲームの日本語化と販売支援を手がける架け橋ゲームズ。PS4で2016年にリリースされた「Broforce」(販売:Devolver Digital )は10万本のヒット作となり、一躍注目を集めました。代表を務めるザック・ハントリ氏はアメリカ任天堂のQAスタッフを皮切りに、ゲームデザイナーを経て2013年にチームを結成。業界歴19年のキャリアを有するベテランです。ザック氏はインディならではのユニークなビジネススタイルを紹介しました。

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ザック・ハントリ氏

他の3人の講演者がアジア圏に注力しているのに対して、架け橋ゲームズの目は欧米に向いています。対象もコンソールとSteamに限定しており、モバイルは扱いません。ゲームを遊んだり、B2Bイベントで新作ゲームを見つけ、開発者と交渉して契約を結び、翻訳するまでは他と同じ。必用に応じてCEROの審査代行、ハードメーカーとの折衝、マーケティング支援なども行います。ただしパブリッシュは行わず、「支援」に留まっています。

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また、架け橋ゲームズの特徴に「ローカライズ第一主義」があります。これは当該地域でゲームがヒットするか否かの鍵は、ゲーム翻訳家が握っているという考え方です。そのためローカライズ契約を結んでも、そのタイトルに適したゲーム翻訳家が見つかるまで、ゲームを寝かしておくこともあるとのこと。一方で発売されたゲームには、架け橋ゲームズとゲーム翻訳家のクレジットが入ることが契約条件だともいいます。

一方でゲーム翻訳家にも、単なる翻訳業務だけでなく、開発中のゲームを何度もプレイしてチェックを繰り返すなど、クオリティを向上させるためのさまざまな作業をしてもらうことを前提に発注。このように架け橋ゲームズがユニークなスタイルがとれるのも、インディゲームという「自分たちが作りたいものを作る方が大事」という世界で仕事をしているから。ローカライズもまた同様というわけです。

クライアントも世界中に存在し、開発チーム自体が国をまたいで協業していることも少なくありません。そのため営業時間は24時間(ただし実働7時間程度)です。ザック氏はまた、「カルチャライズは行わない」とも語りました。これはインディゲームを好むようなハードコアゲーマーは、オリジナルのゲームそのままの雰囲気で遊びたいというニーズが強いため。あらゆる意味で他とは異なるアプローチでしょう。

もちろん、インディスタイルといってもプロとしての姿勢は重要だとのこと。その好例が契約書の締結です。「もっとも、インディにはビジネスマネージャも弁護士もいません。そのため相手の状況にあわせて提案します」(ザック氏)。また、契約書の締結は「我々はパートナーであり、開発チームにもタスクを完了する責任があることを理解してもらう」意味合いもこめられていると言います。

そんな架け橋ゲームズの目下の課題は、マーケティング手段が限られていること。「欧米のインディゲーム情報を扱っているメディアが少ない」「拡散力のある実況者が少ない」「ゲームスコアによるレビューが少ない」「イベントが少ない」などです。その背景にあるのが市場の小ささで、ローカライズを打診しても断られてしまうこともあるとか。とはいえ、自分が信じているもののために今後も戦っていくと語られました。

【中国産モバイルゲーム/崑崙日本】

最後に登壇したのは崑崙日本の北阪幹生氏です。崑崙は北京に本社を構えるスマホゲームのグローバルパブリッシャーで、Android向けに『クラッシュオブクラン』などのAAAタイトルを中国展開しています。崑崙日本は2009年に設立され、2年半でスマホ11タイトルを国内リリース。講演では2014年にリリースされた「三国魂(ソウル)」を題材に、同社のライセンスインビジネスに関する考え方が共有されました。

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北阪幹生氏

本講演に先立ち、社内でライセンスインビジネスについてディスカッションを行ったという北阪氏。そこで出た結論として、ライセンスインビジネスは「良いゲームを持ってきて売ること」であり、理想は「何もしていないのにバカ売れ!」というもの。そのために必用なのは「ゲームの目利きをしっかりすること」で、同社でも20名の専属チームをかまえて、中国タイトルを中心に月間2-300タイトルをテストしていると言います。

「そもそも開発中のゲームではなく、すでにリリース済みのタイトルを遊んで、評価して、日本向けにカルチャライズして、そのうえでリリースするわけだから、100%成功しなければおかしい」と語る北阪氏。しかし過去の打率は3割程度なのだとか。そこから得たローカライズの教訓は、「あきらめとこだわり」でした。「中国産のゲームは、どう弄っても日本産のゲームにはなりません。その上でこだわる部分を明確にして、振り抜くべきです」

一番まずいのは「システムを弄ること」。日本むけに新システムを実装したり、チューニングを深追いすると、費用も期間もかかる上に、成功する保証はない・・・北阪氏はこのように語ります。また開発チームもリリースが終了したことで熱量が下がっており、日本向けのカスタム仕様を提案しても、上手くいかないことが多いのだとか。こうした点については、ある程度のあきらめが必用になります。

その一方でこだわるべき点は「グラフィックとテキスト翻訳」で、これがなければ遊んでもらえないと指摘。アイコンやキャラクターのグラフィック修正からはじまり、テキスト翻訳も内容を踏まえて新規書き起こしをするくらいの熱量が必用だとしました。中国産ゲームはチュートリアルが簡素なものが多く、ここも追加実装が必用だといいます。アイテムの販売価格も日本むけに調整しており、有料アイテムを無料にすることもあるほどです。

実際に「三国魂(ソウル)」では「ガチャ・カード全盛時代の市場に正面から向き合う」ことをテーマに、徹底したカルチャライズが行われました。「武将カードの新規イラスト制作」「三國志だけでなく、戦国武将キャラクターの追加」「2Dだけでなく3Dキャラクターモデルの修正」「ガチャボタンのUIデザイン修正」「全ボイスの日本語再収録」「バトル中の文字フォントやエフェクト変更」などです。

このように修正は多岐におよび、ローカライズに6ヶ月がかかったとのこと。しかし、その甲斐あってランキング上位を記録。中国産ゲームで初めてストアにフィーチャーされるなどの成果を見せました。最後に北阪氏は「ライセンスインでシステムを弄っては駄目」「日本にそのまま持ってこれるゲームは限られている」「もしタイトルを見つけたら、全力でできることを振り抜く」と繰り返し、講演を締めくくりました。

(小野憲史)