GDC2016報告会レポート第3弾「ラウンドテーブル・VR1・VR2」

VR… そこは最後のフロンティア】

過去のGDC報告会で何度かVR関連の体験報告を行い、自社でもVR開発を視野に入れているビサイドの南治一徳氏。今年のGDCでもVRコンテンツを作成する上で参考にするため、製品レベルでVRコンテンツを作っている開発者のセッションを中心に受講したといいます。報告会でも、そうした開発ノウハウについて報告がなされました。

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南治一徳氏

講演スライド

まず紹介されたのが、Oculas向けのスパイものパズルゲーム「I Expect You To Die」に関する講演です(講演ビデオはこちら)(講演スライドはこちら)。いわゆる「脱出ゲーム」がVRゲームになったという内容で、VRならではの仕掛けが施されており、講演内でも注意点や、開発にあたっての苦労点が語られたと言います。

はじめにセッションの前置きとして語られたのが、「存在感(プレゼンス)はゲームプレイよりも大切」であるということ。講演ではこの存在感を阻害する、7つの「プレゼンスブレイカー」について解説されました。

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1つ目は「VR酔い」です。存在感を保つためには最低でも描画フレームを60以上に保ち、加速・減速、水平の維持といった、カメラの動きにも注意を払う必要があります。

2つ目は「操作方法の混乱」です。VRゲームではUIが既存のゲームとは異なるため、操作をプレイヤーにどうやって伝えるか、整理を行う必要があります。

3つ目は「おざなりな反応」です。プレイヤーが触ったオブジェクトの反応が、いかにもゲーム的で、おざなりな動きをすると興ざめしてしまいます。また、例えば「ネジをまわす」といった状況では、現実世界はドライバーだけではなく、ナイフを使って回すこともできます。このように現実世界ではできることが、VR上では不可能になると興ざめしてしまうため、配慮が必用になります。

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I expect you to die

4つ目は「やりすぎな演出」です。過剰な演出は、プレイヤーの精神負担が大きいため注意が必要です。

5つ目は「非現実的なサウンド」です。現実世界で発生しうる音がVRで発生しないと、プレイヤーは興ざめしてしまい、ゲーム内でヒントも得られません。「その世界にいる」という感覚を大切にデザインして欲しいといいます。

6つ目は「固有重要感覚(身体感覚)との断絶」です。現実での姿勢と、VR上で発生しうる姿勢に違いがありすぎると、ユーザーが違和感を起こし、混乱を招くといいます。

最後に「直感的でない操作と反応」です。直感的でない操作と反応は、VR空間内でプレイヤーが存在しない感覚をもたらすため、どう操作させるのかが重要です。

また本作では開発当初、白い箱といった仮オブジェクトを置いた状態でテストを重ねていったところ、「面白みがわからない」「難しい」といった否定的な反応が続きました。これらの問題を「安く」「早く」解決する方法として、実際にダンボールでステージを作成し、ゲーム内容を検証していったといいます。「このエピソードが披露されると、会場は大爆笑に包まれました。講演者は半分冗談・半分本気で話したのかもしれませんが、実際にパズル系のゲームではこういった検証も重要ではないでしょうか?」(南治氏)

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次に「VRにおいて良いゲームデザインとは?」をテーマに紹介されたのが、「Fantastic Contraption」という、HTC Vive対応のコンストラクションタイプのパズルゲームにおける講演です[講演スライドはこちら][講演ビデオはこちら(会員のみ)]。

そもそもVRは現実と断絶されており、プレイヤーにとっては操作自体がとても困難な世界です。また移動、直線運動、加速、回転といったすべての動作で、基本的にはプレイヤーは気持ちが悪くなります。しかし、その不快感はVRに特有の問題なのではなく、ゲームデザインの問題だといいます。

講演ではVRゲームのデザインプロセスとして必用とされる「プレイヤーの場所を作る」「体験を定義して、一貫性を確立する」「説明方法を考える」「プレイヤーを観察し、成長を許す」といった内容は、ゲームデザイン全般に通じる話だと指摘されました。

これらを担保したうえで、「『Fantastic Contraption』では、原則プレイヤーにNOと言わない作りをしている(=どのような行為に対しても、何かしらの反応がある)」と説明されたそうです。

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Fantastic Contraption

また、テストプレイもVRでは重要な要素です。

プレイヤーの行動は予測不能です。その一方で開発者はゲーム開発を通して操作に慣れてしまいます。そのため重要なのは、開発者とプレイヤーの行動を観察して比較すること。特にVRゲームでは、人の行動予測のノウハウが未知数なため、講演では早い段階でテストを行うことが何よりも重要だと指摘されました。

また「FANTASTIC CONTRAPTION」はUIについても一工夫したそうです。次のレベルに移る時に、ステージ上に設置されたジャンプボタンを押して移動するなど、メニューが直感的に操作できるようになっている、などです。

講演では最後に「VRゲーム開発者に対する警鐘」も発せられました。プレイヤーはVR空間にいる時、開発者を信頼しています。そのため、(びっくり箱など)いたずらな演出を不用意に加えてしまうと、プレイヤーに心理的なトラウマを与えてしまう危険性も十分に考えられます。経験に基づいた知覚体験を作ることに対して、VRゲームの開発者は共同責任があると報告されました。

最後に南治氏はこのように講演を締めくくりました。

「フロンティアへ、ようこそ。VRではスーパーマリオも、パズドラも、まだ作られていません。VRの空間でどんなゲームを、どんなルールで作っていくのか、それらを考えていくのがとても大切です」(南治氏)

(小川浩史)