CEDEC2020スカラーシップ体験レポート⑦ 待永 康佑

東京電機大学未来科学部情報メディア学科2年の待永康佑と申します。

私は大学の有志とともに、学部1年の夏からゲーム制作を行っています。学外のイベント等で幸運にも業界の方々と知り合い、知見を深めながら制作活動を進めていく中で、私はある疑問を抱いてました。それは、『未来のゲームはどうなるか』『ゲームは未来をどう拓くか』という問いです。

今回初参加となるCEDEC2020においてはライブエンタメ、XR、運営型タイトルのコミュニティ施策といった幅広いジャンルのセッションを拝見することで、そんな問いへの解を発見しようと試みました。

中でも特に私が心を打たれたセッションのひとつが、バンダイナムコ研究所の本山博文さんと建築家の豊田啓介さんによる『現実空間をレベルデザインする。建築・都市領域と共創することで「新しいアソビ体験を生み出す手法」とゲーム開発者の新たな領域と役割について』というセッションです。

このセッションでは現実世界および“人”に根ざしたテクノロジーであるXR技術、現実空間を精緻に扱う建築・都市領域の知見、そしてデジタル空間とアソビ体験を創り届けるゲームデザイン・レベルデザイン分野の共創により、“現実空間をレベルデザインする”というまったく新しい開発の可能性を示していただきました。

現実空間にある設備や環境、情報をデジタル空間上で再現することを“デジタルツイン”と呼びます。そんな一見SFと見紛うような技術を、ゲーム開発者が普段から慣れ親しんでいるゲームエンジンによって一気に実装フェーズにまで落とし込めるという事実に衝撃を受けました。私自身もベンチャー企業の長期インターンシップでVRコンテンツ開発、学生コミュニティでARグラスを用いたアプリケーション開発に携わっていますが、私にとって身近なXR技術が現実空間とデジタル空間の媒介役になるということに興奮しました。さらに空間情報を活用することで、人の移動が制限された状態であっても効率的な開発を行えるとされており、この取り組み自体がポストコロナ時代をも見据えた画期的な共創事例であると確信しました。

セッションの後半ではこの開発手法による試作も紹介されていましたが、ここで目を引いたのは『こどもの道くさ』から連想したという、実際の人間サイズのパックマン迷路の例でした。このようにデジタルツインにおける開発では、既存のゲームデザインに立脚しつつもユーザーの直感や経験に近い、より“人起点”の思考・試行が求められるのだと理解しました。

そしてこのヒューマンドリブンな考え方は、ゲーム業界の他分野においても適用できるということも学びました。

株式会社ディー・エヌ・エーの香城卓さんによる『運営がコンテンツ化する時代 〜2020年代 ポストソーシャルゲーム時代に向けて〜』というセッションでは、現代は『プロダクトそのものではなく「プロダクトを取り巻く人の集合知」が価値を決める時代』であると定義され、これからは運営側がどんなスタンスでプレイヤーや課題に立ち向かうかが問われると説明されていました。特に、ポストソーシャルゲーム時代においてはDAUを単なる数値として捉えることなく、ユーザーのゲームの楽しみ方が多様化・細分化していくことを意識すべきであるというお話が印象的でした。

この度はXRとモバイルゲームという、一見技術領域も開発手法もまったく異なるかのように思える2つの分野について取り上げましたが、実はどちらも共通して『人を軸とした開発、運営が大切である』という学びを得ることができました。

私は企画職志望ですが、これまで“ゲームデザイン”という言葉は、単にゲームプレイやゲームシステムをデザインする、という文脈で用いられることが多かったかと思います。しかし、今やゲームは動画コンテンツやSNSといった様々なメディアとともに幅広いユーザーから楽しまれるものへと昇華しており、液晶の外——すなわち人、現実空間、コミュニティをも考慮したうえでデザインされるべきものであると私は考えています。現実の人や空間に即したフィジカルなデジタルコンテンツこそが未来のゲームの姿であり、現実とデジタルが限りなく接近する時代の到来こそが、ゲームにより拓かれる未来なのではないでしょうか。

今回CEDECに参加したことで得られた知見は、きっと今後一生のうちに何度も思い返すことになると思います。また業界最先端のお話の数々を耳にし、咀嚼し、考察を深めたことで、参加前よりも自分の視座をより一層高められた実感があります。

最後に、このような大変貴重なご機会を用意してくださった関係者の皆様方に厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

東京電機大学未来科学部情報メディア学科2年 待永康佑