「糖度」を意識、「キュン」のストックが重要〜「乙女ゲームのシナリオ勉強会。集え、乙女、その他」レポート

乙女ゲームのプロットを作ろう

シナリオを作成するうえで、プロットはお話の設計図となります。
シナリオ作成講座では「起承転結」や「序破急」といった概念を生徒に教えるのが一般的。
しかし、泉氏は「乙女ゲーム」では、極論すれば「起承転結」よりも、見せたいシーン(スチル)を考えることが重要だと指摘します。

では「乙女ゲーム」で最も重要なスチルは何でしょうか?
それは、告白シーン(キスシーン)です。
ユーザーは、そのスチルを見たいが為に、ゲームをプレイし続けます。

主人公とイケメンを引き裂く「ピンチ」や「壁」を用意してあげて、それを乗り越える過程を通して、恋愛が燃え上がる様を演出する。
まさに、事件を利用して恋愛関係に発展させるのが作劇上の目的となります。

この、プレイヤーにとって一番重要な告白シーンをいかにドラマチックに見せるのか。
「乙女ゲーム」では、その為にプロットを作成するといっても過言ではない、といいます。

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会場のポリゴンマジック・セミナールームには合計120人の参加者が集まった

乙女ゲームのキャラクターを作ろう

「乙女ゲーム」でも当然のごとく、作品にあったキャラクターデザインが必須になります。

どんなに自信のあるシナリオを書いたとしても、キャラクターデザインがいまいちであれば売れることはありません。
逆に有名なイラストレーターがキャラクターデザインを担当すると、シナリオがいまいちでも売れてしまうこともある。
これが「乙女ゲーム」の特徴だといいます。

それぐらい売上のウェイトを占めているキャラクターデザイン。
ゲームのターゲットの年齢層によって、デザインの方向性を詰めていく必要があります。

例えば、対象が10代のユーザーであれば、アニメ調の色塗りで、髪の色も紫や、緑など、本来、現実世界ではありえない色使いを施し、親しみやすくポップでシンプルなキャラクターデザインが心がけられます。

逆に対象が20代であれば、色塗りも淡く、顔の造形もリアルになり、現実感のある色気重視なデザインが意識されます。

さらに年齢層は関係なく、非常に沢山のゲームを嗜んでいる、「ゲーム好きな女子」がメインターゲットとなる場合は、特徴的な絵柄やインパクトを重視した、斬新なデザインが求められます。

「シナリオライターとしては悲しいのですが、ぶっちゃけて言えば、シナリオよりもキャラクターの絵柄や、声優が目当てのユーザーは存在します」(泉氏)

では、キャラクターの性格設定はどの様に行っていけばよいのでしょうか。
「大事なことは、キャラクターに二面性を持たせることである」と泉氏は述べます。
「乙女ゲーム」が好きな女性ユーザーは、「あの人がまさかこんな人だったなんて」といった、いわゆるギャップが大好物なのです。

「一見優等生タイプだが、夜は不良だった」
「見た目はチャラいが、実は頼れるしっかり者だった」
「普段は人気者で友達が多いが、実は孤独だった」

このようにキャラクターにギャップを持たせ、それをユーザーに感じさせることが何よりも重要です。

「ただし『実は変態だった』というネガティブな二面性は、この例にはあてはまらないので、注意してください」(泉氏)

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女性だけでなく男性の参加者も1/3程度みられた

乙女ゲームシナリオライターとしての役目

プロット、キャラクターデザインと、「乙女ゲーム」ならではの、注意点を述べられてきた泉氏。
それらを踏まえて、さらに意識しなければいけないのが、シナリオの「糖度」です。
「糖度」とは、女性ユーザーを「キュン」とさせるバロメーター。
この「糖度」こそが「乙女ゲーム」のシナリオにとって重要な要素だと強調します。

例えば、イケメンと二人でケーキを食べるシーンの場合、イケメンに「このケーキ、美味しいね」といわせるだけでは、「糖度」が足りません。

「このケーキ、美味しいね」の後に、「君と一緒に食べているからかな」といった、主人公に向けて好意を示唆する様な文言を入れると、一気に糖度が増加します。
さらに「頬にクリームがついているよ、とってあげるね」といったセリフを付け足すと、それがスチルとなります。

「イケメンとケーキを食べる」といったプロットを提示するのはクライアント企業の役割。
これに対してプロットをベースに、糖度が高く、ユーザーを「キュン」とさせるシナリオに昇華させるのが、乙女ゲームシナリオライターの役割となります。

実際問題、この「キュン」を何回ユーザーに体験させるのかが重要だと指摘する泉氏。
「キュン」ポイントを一定時間で、あと何回体験させるかなど、具体的に回数を考えながらシナリオを書いていくと言います。

乙女ゲームシナリオライターとしてやっておくこと

ユーザーに「キュン」を体験させることが何よりも大事だと述べた泉氏。
この「キュン」をいかにシナリオに、盛り込むことができるかが、乙女ゲームシナリオライターとしての腕の見せ所です。
そこで、泉氏が提唱するのが、「キュン」のストックです。

では、第一線で活躍されている乙女ゲームシナリオライターは、どのようにストックを行っていくのでしょうか。
映画・小説・漫画などのチェックはもちろんのこと、女性の好きな男性の仕草、嫌いな男性の仕草、プロポーズのセリフなど、ネット上にはリアルな男女の恋愛事情に関する情報が溢れています。
これらを、こまめにチェックしていくことが推奨されました。

例えば、女性が好きな男性の仕草では、昨年までは「ネクタイをしめる仕草」が1位だったのに対し、今年は「はにかんだ笑顔」に移り変わっているといいます。
そういった時代と共に変化していく女性の好みも、シナリオ作成の際に意識するといいます。

また「手の握り方」「キスの仕方」など、細かいスキンシップの種類も蓄積していくといいます。
この細かなスキンシップの違いは、攻略対象のパターンを増やす上で重要になるからです。

例えば、プロットに「イケメンと腕を組む」といった指定があった場合を考えてみましょう。
一般的には、そのまま男女が腕を組むシーンが創造されます。
しかし、主人公の女性が内気な性格だった場合、袖をつまむようなシチュエーションも想定できます。
一言に「腕を組む」といった指定も、キャラクターの組み合わせでシチュエーションは大きく異ります。

キスの仕方も唇だけではなく、額、鼻、瞼、耳、首筋、指先、手の甲、手のひらといったように、さまざまな対象があります。
これを書き分けることで、愛情表現の意味合いを変えることができ、10代の初々しさや、20代の濃厚なキスなどを表現できるのです。
このように、非常に細かい仕草を丁寧に書き分けることで、ユーザーの感じ方が変わっていくといいます。

「様々なやり取り、仕草をストックしていけば、シナリオライターとして非常に強い武器になります。」(泉氏)

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終了後はケータリングによる交流会も行われた