CEDECスカラーシップレポート⑧ 納庄貴大

和歌山大学大学院システム工学研究科、修士1年生の納庄貴大と申します。この度、IGDA様が主催する「CEDEC2017 スカラーシッププログラム」に参加し、貴重な体験をさせて頂きました。本レポートでは、その4日間での体験について、お伝えさせて頂きます。

応募のきっかけ

昔からサウンド全般が好きで、大学で行っているゲーム制作や研究においてもサウンド回りに取り組んで参りました。その中で、ゲームサウンドに関して、最新の技術やデファクトスタンダードとなっている技術の動向、普段の自分なら調べるに至らないような範囲の技術などについて、「さらに広く多くの知識を得たい」と思うようになりました。しかし、「自発的、かつ、継続的に新しい情報を探し、独力で内容を理解して習得する」という調査プロセスは案外労力がかかるものです。そこで、そのような情報が噛み砕かれた状態で気軽に入手できるCEDECへの参加、引いてはこのスカラーシップへの応募を決めました。

スタジオ訪問ツアー

1日目は10時30分~18時までゲーム制作会社3社を巡るスタジオ訪問ツアーでした。午前中に1社目を訪れ、昼食を挟んだ後、午後に残り2社を訪れるという流れです。訪問させていただいたのは、順にジープラ様、サイバード様、Aiming様です。ジープラ様では、代表の方による会社紹介の後、同社若手のエンジニアの方2人とスカラーシップ生全員での座談会という形式でした。サイバード様では、同社の2大ゲームシリーズごとに、担当の方による会社紹介やゲーム制作過程での問題点と解決策などのプレゼンがあり、その後、各職種の社員の方1人ごとに1~2人のスカラーシップ生が座談する形式でした。Aiming様では、人事担当の方からの会社紹介の後、各職種の社員の方1人に対して3人のスカラーシップ生が座談する形式でした。

どの企業様も会社説明の短い時間の中で、企業独自の特色・理念があること、そしてそのことが製品に直接反映されていることを実感しました。また、座談会では、社員の方とかなり近い距離感で話すことができ、ゲームの企画段階や実際の制作フロー、内製と外注などについて、普段疑問に思っていることをどんどん質問することができ、有意義でした。

CEDEC

2~4日目は、CEDEC参加でした。CEDECでは、毎日10時~19時前後にかけて、セッションや展示といった形式で各専門分野の技術情報が共有されます。基調講演を除き、セッションは基本1時間ですが、30分のものも一部あります。また、CEDECの2日目には、Developer’sNightという懇親会もあります。これに加えて、スカラーシップでは、毎日昼休みにランチタイムミーティングがあり、業界の方々との座談会が行われました。

私は、セッションに臨む方針として、「サウンド、または、タイムシフト配信が無いもの」を最優先にして、次に「ビジュアルアーツ、ゲームデザイン」を優先とすることにしました。1番の目的であるサウンドを最優先とするのはもちろんなのですが、今回のCEDECでは、初の試みとしてWebでタイムシフト配信が行われることになっていたため、タイムシフト配信があるものはCEDEC終了後自宅で見れると考え、無いものを最優先に据えました。実際に、自分が普段プレイしているFGOやデレステのセッションはタイムシフト配信が無かったため、同時刻のサウンドにタイムシフト配信がある場合は優先しました。それ以外では、ゲームにおけるインタラクションについて考える材料となり、サウンドにも基礎の応用が可能であると考えるUI/UX、ゲームプレイにおけるユーザーの感情の揺れ動きを設計し、サウンド表現とも密接に関わってくるシナリオ、コンセプトに追従したサウンドを作成する上で思考材料として必要となるゲームデザインのセッションに興味があり、優先することにしました。

聴講したサウンドセッションの中で印象に残ったのは、以下の5セッションです。
・任天堂、若井淑氏、長田潤也氏、「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』 ~広大で生き生きとした世界を奏でるオープンエアーサウンド~
・カプコン、岸智也氏、「これで解決!ゲームに必要な3Dオーディオの全て
・バンダイナムコ、中西哲一氏、「VRサウンドデザイン夏期講習:パーソナルスペースの内側で
・Cygames、金井大氏、谷本裕馬氏、丸山雅之氏、「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション制作事例 ~最高のVRライブ体験に必要となる要素とは~
プラチナゲームズ、木幡周治氏、進藤美咲氏、「実戦的なゲームのための音響空間表現 – NieR:Automata における事例 –

ゼルダの「オープンエアーサウンド」は、自分にとってCEDECで1番の衝撃でした。特に、極めてロジカルで唯一性のあるサウンドの設計や表現にはとても感銘を受けました。BotWでは、オープンエアーサウンドを実現するために、フィールドではループBGMは鳴らさないようにし、「川や滝などの水音、鳥の声、叢の虫の群生の声、風音カサカサ音、ベースノイズ」という5つのレイヤーから成り立つ環境音を主体としたサウンド表現になっています。しかし、これでは広大な世界のどこを訪れても同じようなサウンドになってしまうため、「環境BGM」という概念を導入することになったそうです。この環境BGMが唯一無二の表現で、ループ感を感じさせないために、ピアノによる短いフレーズから成る楽曲を区間ごとにランダムな順序・時間間隔で鳴らすというものでした。講演中、実際のデバッグ画面から環境BGMを流すところを見たのですが、「こんな表現方法の可能性もあるのか」と強く胸を打たれました。その一方で、これを実現する元となった考え方自体は学生団体でも十分模倣し得るものではないかとも思いました。

また、今年はトレンド的にVRサウンドのセッションが多く見受けられました。3Dオーディオには、「音源方向や定位(上下左右)をどのように表現するのか」、「VR空間内ではどのようにBGMやSEを鳴らすのが良いか」といった種々の課題があります。私はこれまで3Dオーディオについて全くの無知であったため、このような課題自体やその解決手法について、全てが初めて知ることで、吸収できることが多かったように思います。中でも、上記2番目のカプコン様のセッションでは、現状世の中に存在している実用的な3Dオーディオ実現手法を「チャンネルベース」や「オブジェクトベース」といった用語を絡めつつ全て体系化し、どういうものかを共有するもので、初学者にはありがたいものでした。また、サマーレッスンを題材とした上記3番目のセッションでは、VR空間におけるBGMとSEの鳴らし方について、「主観的な場面では、没入感を出すために、BGMが鳴る必然性(喫茶店でスピーカーがある場合など)が無い限りは鳴らさず、逆にシステムメニューやオプション画面など没入感が重要でない場面ではこれまで通りに鳴らす」という考え方が簡潔で参考になりました。

この他、デレマスVRの自然な観客の声援の具体的な実現方法(声援の距離による近音と遠音への分類、エフェクトのかけ方、収録方法など)や、NieRの空間への常時遮蔽判定を用いた残響音制御などセッションごとに面白い手法が目白押しで、とても楽しく聴講できました。その一方で、自分の課題となるような点もいくつか見えてきました。1つ例を挙げると、ハードウェア周りの知識です。3Dオーディオの実現では、「どのような機材を使ってどのような方法で収録するのか」といったことがより一層重要になってくることを、セッション中で各社が試行錯誤している様子を見て感じました。自分はどちらかと言えばソフトウェアへの興味が強く、ハードウェアに対してはかなり疎いため、強化が必要なのではないかと思いました。

全体的には、CEDECへの参加を通じて、「サウンドは楽しい」という気持ちを再確認できました。この自分の「好き」や「楽しい」という原初的な気持ちを大切にして、今後の制作に取り組みたいです。

おわりに

CEDECのセッション資料の多くは、後日CEDiLにアーカイブされます。そのため、参加しなかった人も内容についての情報を見ることができますが、そこにはプレゼンターの熱意ある言葉や事例説明の際に会場内で流された補足動画は無く、行間が欠如した情報しか残りません。また、「いつでも見れる状態にある資料」となるため、実際の制作で絶対に必要になるときまで「読むことを先延ばし」にしてしまいがちです。とはいえ、トレンドの調査は重要です。こうしたことから、やはり「イベント会場での3日間という限られた時間の中で、次々に流れ込んでくる情報を、まさに”ゲーム感覚”で一気に吸収してしまう」のが1番良いのではないかと感じました。

また、今回のスカラーシップ参加を通して私は多くの知見を得ることができました。しかし、技術は「見たことがある」状態から「使ったことがある」状態に遷移させなければ本当の意味で自分のものにはなりません。よって、今回セッションを聴き、手に入れた知識の中で、「自分でも実践できそうなものは実践する」ことが不可欠であると考えました。今この瞬間のゲーム制作から、積極的に使い所を見つけて適用していきたいです。

最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった小野様を始めとするIGDA日本やメンターの方々、スタジオ訪問ツアーやCEDECでお会いした業界の方々、4日間を共にしたスカラーシップ生の方々全てに深く御礼申し上げます。