「作る」のではなく「生まれる」人工知能/SIG-AI人工知能のための哲学塾 東洋哲学編 第四夜「龍樹とインド哲学と人工知能」レポート

人工知能と社会との新しい関係性構築

さて、こうした中観派の認識論は、人工知能のモデルにどのような影響を与えるでしょうか? すでに見てきたように空の理論、そしてその背景となった縁起では、人間は森羅万象の関係性によって成立しており、世界は個々の人間の認識の産物であるとします。そこには西洋的な「人間と世界の対立構造」ではなく、「自分自身を含んだ世界を、人間は常に認識下で創出している」という関係性が見て取れます。その過程で人間は自己を形成していくというわけです。

第二部では参加者同士でグループディスカッションが行われた

このように縁起的な考え方では、知能は関係性(縁起)の中から浮かび上がってくるものとなります。その上で縁起もまた生成と消滅を繰り返していくため、知能も生成と消滅を繰り返していく。すなわち知能は存在するとも、しないともいえます。また、知能は世界と内面が共創する、あるいは行動と認識が生み出す場に生まれるとも言えるでしょう。つまり知能自体は中空であり、そこに感覚・生理・記憶など、さまざまなものが交錯することで、意識が立ち上がってくると捉えられます。

このように知能(=人工知能)を単なる情報処理の装置として捉えるのではなく、縁起的なアプローチを用いて、社会(それも混沌的実体としての、むきだしの社会)との関係性の中で捉え直すことで、新たな人工知能のモデルを想定することができます。具体的には身体と知能を分けることなく、世界と内面とを関係づける要素を一つずつ作り上げていくことで、総体としての人工知能にまとめ上げていくというスタイルです。これにより、新たなブレイクスルーが得られるのではないか……三宅氏はそのようにまとめました。

第二部ではニコ生も実施され、数千人が一気に画面上で議論

人工知能のための哲学塾・東洋編第五夜(最終回)「人工知能と禅」は11月13日に開催されます。申込み・詳細はこちら。(小野憲史)