人工知能の社会化に必要なこと/SIG-AI 人工知能のための哲学塾 未来社会編 第零夜「概論」レポート

コミュニケーションが自我を育てる

第二部のグループディスカッションは会場を二階に移して行われた

それでは他者とのインタラクションはどのように行われるのでしょうか。例としてあげられたのが動物のコミュニケーションです。動物の群れでは単細胞生物から高等生物まで、さまざまなレベルで身体的・習性的・意識的なコミュニケーションが観察されます。そこには自然と一体化した一つのシステムとしてのコミュニケーション(=鰯の群れなど)から、自然からある程度独立した、個体同士の集合体としてのものまで(=猫が互いに鼻をこすり合わせるなど)、さまざまなグラデーションがあります。そして、生物が進化するごとに固体化が進んでいきます。

これは人間においても同様で、会話から仕草、スタイル、さらには経済的な関係性まで、さまざまなレイヤーが混じり合っています。さらに人間では時として、このコミュニケーションによって自我が破壊されたり(=統合失調症など)、反対に精神疾患の治療に役立てられることもあります。近年、精神疾患の治療で注目されているオープンダイアログも、社会的関係性の中で患者が精神の変調を修復しようとする試みだと言えます。このように自我とコミュニケーションの関係性は複雑で、互いに抜き差しならないものだと言えるでしょう。

二部ではファシリテーターの 今井佑里氏が司会も務めた

同様に人工知能でもコミュニケーションはエージェントアーキテクチャとよばれる仕組みで実装されます。エージェントアーキテクチャのデザイン思想は現実世界の抽象化です。生物が外界から情報を絶え間なく受け取り、処理して、行動につなげるように、エージェントアーキテクチャでも世界と自己とで情報の循環構造が見られます。しかし、実際のコミュニケーションは非常に限定的です。というのも、人工知能の開発では特定の意図や仕様にもとづいてコミュニケーションが設計・実装されるから。ゲームで直接役立つ情報以外は、あえてやりとりするメリットがないというわけです。

同様のことは、ルンバや自動運転車でも同じことが言えます。むしろ、こうしたロボットが必要以上のコミュニケーションを行い、アルゴリズムを狂わせるようなことがあれば、そちらの方が問題でしょう。しかし、そのレベルに留まっていては、いつまでも人工知能が自我を持ち、社会性を獲得することはできません。そのためにも三宅氏は自己と他者、言語と非言語といった人工知能と世界を構成する要素を最初から分けずに、最初から複雑系として捉えるような、新しいコミュニケーションのモデルが求められるとまとめました。

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