自己紹介
この度CEDEC2025スカラーシップに参加いたしました、デザイナー・アーティスト志望の及川千紘と申します。東北芸術工科大学 芸術学部美術科 洋画コース に所属する四年生です。専攻は油画科に相当しますが普段の制作では2Dイラストや手書きの2Dアニメーション、AfterEffectsを使用したモーショングラフィックス及びPVを制作しております。
ゲーム業界での就職を目指して各地のゲームジャムに参加する中で本スカラーシップの制度を知り、ゲーム系の技術カンファレンスで最大級の規模であるCEDECの様子を自分の目で見て同じ進路を目指す後輩にも伝えたいと思い参加させていただきました。今回参加した中で印象的だったセッションを共有します。
印象的だったセッション
モンスターハンターワイルズ 思ったよりも範囲が広い!? UIアートの仕事とコンセプト
UIデザイナーの業務範囲は非常に広く、インゲームにおけるUI素材やプロモーション用の画像素材の制作にとどまりません。チャットで使うスタンプのイラストもUIチームが制作していることには驚きました。ポートフォリオでUIを制作する際はただ素材を配置して終わりにするのではなく、ウィンドウ階層の設計から挑戦したほうが段階的に勉強できそうだと感じました。UIは単なる情報伝達の役割を超え、世界観や体験を視覚的に表現する手段となります。その特徴が顕著に表れているのが『モンスターハンター』シリーズであると改めて感じました。
Pokémon TCG Pocketにおけるデジタルカード表現とその制作手法
Houdiniを活用したエフェクトやUIの制作に強い関心を抱いています。過去After EffectsでのPV制作においてエフェクト制作をした経験から、基本的な理論や仕組みについては一定の理解があります。本作ではHoudiniを活用することで非破壊型の手法で、作品の仕様に合わせたエフェクト制作をしていました。またカードのレアリティに合わせた仕様を決定することで制作を効率化していることも印象的でした。アナログのカードのような傾きによって変化するエフェクトの実装と、それによってポケモンが見えづらくなること、イラストの遠近感が変化することへの対策(マスク処理、パーツの大小を手で補正する)など、視覚的な要素をプレイヤーの操作によってインタラクティブに変化させることができる作品では、見えにくさ、視覚的な違和感に対処することは重要だと実感しました。
ソニック × シャドウジェネレーションズ :キャラクターの魅力を引き出すアニメーションと演出技法
本作はステージクリア型のアクションゲームであり、プレイヤーは高速で空間内を移動することを求められます。ステージの移動中に空間が切り替わり、その際に「入り演出」というものが入ります。ストーリーやステージの目的を短く、かつわかりやすく説明するための映像パートです。映像からプレイに移行する際に没入感を切らさないよう、入り演出からゲーム本編にシームレスに導入する工夫が凝らされていたのが印象的でした。リムライトでキャラクタ−と背景を切り離し、見せたいオブジェクトを目立たせる手法はコンセプトアートやイラストの制作でも活用したいです。
レッドブル、 ゲーミングシーンに翼をさずける。
プロモーション分野に関心があるため、本カンファレンスを受講いたしました。プロモーションによって初めてゲームプレイシーン、プレイヤー、デベロッパーの三者をつなぎ合わせることが出来るためです。私自身、産学連携のプロジェクトで地域振興に関わった経験があり、「地方に関わるイベントにおいては一度開催して終わりにするのは勿体ない」、「地方自治体とコラボするなら、スタッフやお客様がそのイベントに集い、終了後即帰るという形にはしたくない」という言葉には強く共感しました。活動は継続することで初めて認知が広がり、効果が高まるものです。単発で終わると成果は限定的となり、周知や影響力の拡大は望みにくいです。観光やイベントにまつわる収益が周辺の観光地、地方自治体に還元されていないという問題は以前から挙がっています。ゲームやアニメなどのサブカルチャーと地方自治体のコラボレーションの際には地域全体にその影響を拡散させるのがこれからのプロモーションの課題であるように思います。
インタラクティブセッション及びPRプログラム
各会場のカンファレンスと並行して、各企業、個人による体験ブース、ゲームエンジンの新機能デモ、ゲーム制作に関連する書籍の販売などが行われています。UnrealやUnityに搭載されている物理シミュレーションツールのHavokがデモを展示しており、CEDECでもカンファレンスを実施していました。学生がプラグインやゲームエンジン内のツールに触れ、それを「誰が作って、販売しているのか」と考える機会は少ないため貴重な経験でした。
CEDEC2025を経て
エフェクトやUI、映像演出など普段の制作でも活用できる分野の講義が多くあり、大変参考になりました。何より自分が好きな作品のメイキングはその作品をより大切に思える、また自分もそれに触発されて技術の研鑽を重ねたいと思えるきっかけとなります。カンファレンスで得た知識及び刺激をポートフォリオ制作に活かす意欲が高まりました。
最後に
ゲーム業界や制作現場の実情については実際に話を聞かなければ分からないことが多いと改めて感じました。就職活動でも、情報収集とそれに応じた作品制作の量、質が足りず、どこを直せばいいのかもわからない、と堂々めぐりになることがあります。私も実際就活において自分の技術の至らなさを痛感し、現状のままではいけないと一念発起し本スカラーシップに応募しました。地方で「自分には選択肢がない」と感じている人にこそ積極的に情報を探し、自ら勉強をする機会を掴みに行ってほしいと切に願います。
本稿が来年度以降に取り組む人々の参考となれば幸いです。