CEDECスカラーシップ2025に採択いただきました、多摩美術大学の金杉美也子です。大学では芸術学について広く学びながら、東南アジアの音楽研究(20世紀におけるバリ・ガムランの欧米への影響)や、音楽作品の自主制作に取り組んでいます。
最近はグラフィックやシナリオを含めた個人ゲーム制作にも挑戦しており、原初的な身体的インタラクションや、感情の滞在空間としてのサウンドの魅力を探っています。
「鳴らす」ための技術と設計
今回のCEDECでは、サウンド実装技術やツールに関するセッションが多く、表現志向の自分には一見距離を感じる内容もありました。しかし、聴講を通して「技術」は単なる効率化ばかりでなく、没入感やゲーム体験を高める重要な手段だと実感しました。
「戦い続けるための自動化技術」では、ゲーム開発の複雑化・高コストの中で、クリエイションを妨げないためのツール開発事例を、「CRI ADXと駆け抜けた若手社員たちの物語 ——サウンド演出への挑戦——」では、限られた開発期間でもインタラクティブ演出を実現した取り組みについて学び、両者ともサウンド演出の意図を図るための実装支援体制や工夫が印象的でした。技術は感性と矛盾せず、ゲーム設計を支える表現手段の一つだと捉え直せました。
表現思想に根ざした演出設計
「ポケモンカードをデジタルで表現するためのサウンド設計思想」では、コンセプト資料から理想のサウンド像を構想し、世界観をゲーム体験に即したBGM・SEに落とし込む流れについて知り、その制作プロセスに共感し強く魅力を感じました。パック開封のSE制作においても、実物パッケージを複数触り比べるなど、素材の特性を活かす姿勢が印象的でした。
「スター・ウォーズ アウトローズにおけるアダプティブミュージック」では、フィールドBGMにおける「通常→戦闘→通常」時の遷移キューや、キャラクターテーマごとの音楽設計(固有のモチーフ・音色)など、”ゲーム空間を快適に満たす”音作りの工夫を知ることができました。
また、「BGMの力でKPI1.5倍! ゲーム開発にも活かせるダーツ業界初のサウンド演出」では、単一BGMのEQをインタラクティブに調整することで、状況演出を行う手法が紹介されるなど、デジタルエンタメ業界と周辺におけるアプローチを幅広く学びました。
“体験”としてのサウンド表現
「UXを損なわないアクセシビリティサウンドデザイン」では、音響生態学(Ecological Acoustics)の視点から、音の特性がプレイヤーの知覚や体験記憶に結びつくことが、デジタルコンテンツにおける”気持ちいいサウンド体験”の基盤になると学びました。操作と応答の一体化は没入感を高める重要な設計であり、BGM・SEの配置や音作りにおいても、表現・実装手段を再考するきっかけとなりました。
今プログラムを活かして
機能やエンタメに偏らず、独自の体験性・世界観を推し出したゲームも、昨今は注目度を高めていると感じます。「インディゲームをアートイベントで展示する試み」のように、アート志向やビジュアル表現の質が高い作品は、展示会やゲームイベントでも目にする機会が増えており、ゲーム表現の多様化にも、個人的に期待しているところです。
今回のCEDECで得た知識や思考、また同年代の学生との交流は、自身の制作への姿勢を磨き直す機会となりました。技術と感性の両面を見つめながら、これからもゲーム業界を目指すとともに、ますます制作活動に注力していこうと思います。