書評「『しかめっ面にさせるゲームは成功する』悔しさをモチベーションに変えるゲームデザイン」

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イェスパー・ユール
しかめっ面にさせるゲームは成功する 悔しさをモチベーションに変えるゲームデザイン
(株式会社ボーンデジタル、2015)

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本書の現題は「The Art of Failure」(失敗の技術)である。ゲームデザインにおいて、ユーザーにいかに失敗させるか、そして失敗させたことでどのような効果をもたらすか、が議論されている。つまり本書は、ユーザーのゲームプレイ体験を作って行く上で、ユーザーのゲームプレイ上の失敗というものが、ゲームプレイ体験全体にどのような効果ともたらすか、ということについて論述されているのである。

著者のイェスパー・ユール氏はゲーム学(ゲームをテーマとする学問)において「ハーフ・リアル」(Half-Real、THE MIT PRESS、2005年)という大きな影響力をもった著作を書いた著者である。当然、本書はテーマはやや限定的なものの、「Failure」という角度から、デジタルゲームの本質へ迫ろうとする試みである。

本書はサイズ的には小冊子に見えるが、たくさんの文字数で詰め込まれている充実した大作であることをまず銘記しておこう。

著者は、自身のゲームプレイ経験を総動員しながら、慎重にゲームにおける「Failure」経験たちを分類し、それぞれの経験のまとまりに新しい言葉を割り当てて行く。読者はここに現在もなお立ち上がろうとする段階にある「ゲーム学」の胎動の息吹を感じられるだろう。それはゲームに関する、単に一過性の熱を帯びた議論を展開するのではなく、万人がゲームを語るための共通の土台を提供するものである。よって一つ一つの言葉が丁寧に選ばれ積み上げられている。

そうであるから、この著作のそれぞれの章・節の見出しは、単なる見出しではなく、それぞれに定義されたゲームプレイ経験の領域を示す言葉であり、パターン言語である。パターン言語とは、そのテーマでくり返し現れる中心的な現象(パターン)を言語にしたものであり、本書はそのパターン言語の集合体とも言える。

もし本書をつまみぐいのように各所を断片的に読んでしまうと、「そんなことは知っているよ」という感想で終わってしまう。しかし、本書の全体を順番に読んでいく時に、著者が「FAILURE」という角度から、ゲームプレイ経験の総体を、体系的に見直し分析し再構築している挑戦を見出すことができるだろう。

イェスパー・ユールは鋭い。一つ一つの見出しが、的確に経験の中心的な意味を言い当てている。これは単なる好事家が、自分のゲーム経験を整理しているだけの書物ではない。体系的にゲームプレイ経験を分析し、整理し、学問として体系付けたいという研究者が書いた書物である。

もちろん楽しく読むことはできる。だがこれは、かなりアカデミックな本であり、真摯な本である、ということを前提に読んだ方がより面白い。

試しに、自分で「ゲームプレイにおける失敗」というテーマで文章を書いてみると、イェスパー・ユールが到達した体系の大きさと価値を体感できるだろう。また客観性をもった論述とするために、より多くのタイトルの具体例を挙げ、その共通項として概念が提示されている。著者が著述で行っているのは、そのような気の遠くなるような作業であり、本著はかなりの労作と言える。

まとめると、本書は単なるノウハウ本ではない。また好事家が好き勝手に書いた本でもない。ゲーム学の構築を目論む高名な著者が、真摯な態度を以て、「ユーザープレイ上の失敗」をコアとして、ゲームデザインについて検証し分類し論述した本である。ゲーム開発者、ゲーム研究者、さらにゲームについて語りたいあらゆる読者にとって有益な本となるであろう。

(IGDA日本 SIG-AI世話人 三宅陽一郎 @miyayou )