CEDEC 2024 スカラーシップ体験レポート⑦小林 円

CEDEC2024スカラーシップにさせていただきました、東京工業大学工学院経営工学系学士4年の小林円です。普段は趣味でゲーム開発をしています。

ゲームクリエイターを志す者として、以前よりCEDECは当然憧れの場所であり、時機にかなえば是非にでも参加したいと考えておりましたので、今回とても貴重な機会をいただけたこと大変光栄でした。

以下、特に興味深かったセッションについてまとめさせていただきます。

『学園アイドルマスター』における適応的ゲームAIとグレーボックス最適化を用いたバランス調整支援システムの実現

『学園アイドルマスター』では登場キャラクターの育成をターン制カードゲームを通じて行い、プレイヤーはより高いスコアを稼ぐことが目的となる。カードゲームのようなシステムでは、しばしば強すぎる効果やカードの組み合わせなど、いわゆる”バランスブレイカー”となるカードが生まれてしまうことも多い。本セッションでは、無数のデッキ構築やプレイスタイルから”バランスブレイカー”を機械学習を用いて効率的に検知する仕組みとその手法を紹介していた。

具体的な手法としては、ゲームのプレイングとデッキ構築の両面からスコアの最適化を行い、そうしたプレイデータを集めたランキングから、想定より強すぎてしまうようなカードを発見している。カードプールが短期間で定期的に増えていくという本ゲームの都合上、学習時間をいかに短縮するかという点に力が入れられており、特に転移学習がその鍵となっていることが印象的だった。

課題解決のために複数手法を効果的に組み合わせる、熟練ともいえるアプローチには思わず感嘆してしまった。また一方で、マスターへの追加差分を転移学習の空間に適用すべく、カードの効果文をLLMによるEmbeddingとして取り入れるという新鮮な手法も登場するなど、セッション全体を通じて発見と興奮の多かった時間だった。

『FINAL FANTASY VII REBIRTH』における会話イベントの量産とアニメーションワークフロー

『FINAL FANTASY VII REBIRTH』の前作である『FINAL FANTASY VII REMAKE』では、アーティスト主導のカットシーンと通常の会話イベントとの間のクオリティの差に問題があった。『REBIRTH』では会話イベントの品質向上のため、実装工数が現実的な範囲に収まる、プランナー単体でもクオリティが担保出来る、という2つの要件を満たす会話イベント制作ワークフローを実現する必要があった。

紹介されたのは、カットシーンと同様のシステム上に、会話文のみのマスターデータからカメラ・モーション・ライトを含んだイベントを自動生成できるというシステムであり、既存フローの延長線上にあることで現場の人間が親しみやすくなっている点に、「仕事」としてゲーム開発を行う人間の視野の広さを感じた。口パクアニメーションのローカライズ用対応などの事例からも、その特長が印象付けられた。

単にシーンを自動生成するだけでなく、イマジナリーラインなどを踏まえた画としての完成度も追求しており、よりよいゲームをつくるためにはエンジニアリングだけでない、幅広い知識が必要とされることを再認識させられた。

プロシージャルなルック生成は、工数少なく量産ができる点やそれならではの表現方法が実現可能である点などの利点が多く、今後の展望が非常に期待される領域であるため、自分もさらに見識を深めていきたい。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』におけるフィールド制作とQA ~トーレルーフの裏側で~

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』では、あるメッシュから真上の地点に移動できる「トーレルーフ」という仕様が存在する。初めてこの仕様を見た際はすぐにとてつもないQAコストが頭に浮かび、どう実装まで漕ぎつけたのかと常々疑問だった。今回のセッションではそうした疑問を解決する、任天堂の驚異的な開発環境やフローが明かされた。

元より「トーレルーフ」の企画があったわけでなく、3次元のマップデータの格納手段としてボクセルを採用していたこと、地形配置における不具合を検知するためのツール、テスターが地形ツールを使えるようになっている環境などが既に整っており、「トーレルーフ」の要件が挙がった際に実現可能なものが揃っていたという特殊な成り立ちである。

これはまぐれの幸運の結果というわけではなく、任天堂が普段より大規模なツール開発や環境構築、人的資源を整えていることの表れであり、遊びの検証のための障害を1つ1つ取り除いたことへの報酬であるといえる。

今回のCEDECでは他にも任天堂による講演があったが、そのどれもに極めて大きな開発環境と意識の差を感じた。正直なところ、紹介されていた事例はとてもすぐに参考にできるものではなかったが、モノづくりの姿勢にただひたすらに圧倒され、久しぶりにゲーム開発へのなにか「憧れ」のようなものを思い出した。いつか今回見たモノづくりのあり方に追いつけるように邁進していきたい。