「糖度」を意識、「キュン」のストックが重要〜「乙女ゲームのシナリオ勉強会。集え、乙女、その他」レポート

近年の乙女ゲームの変化

「恋愛」することが目的の「乙女ゲーム」。
しかし、近年では「刀剣乱舞」「あんさんぶるスターズ!」のように、主人公との恋愛がメインでない作品も「乙女ゲーム」として分類され始めているといいます。

「恋愛しない乙女ゲーム」が人気を集めている背景として、「黒子のバスケ」「弱虫ペダル」「ハイキュー」などのブームも手伝い、男の子同士(ボーイズラブではない)の友情が見たいというユーザーが増加していること。
そしてTwitterやPixivといった、二次創作の発表の場が増えたことで、自分で妄想したい、同志を探したい、といった欲求が手軽に充足できる環境が整ってきたことが、この状況を作り出しているといいます。

泉氏は今後の「乙女ゲーム」の方向性として、
・がっつりと恋愛を楽しむ従来の乙女ゲーム
・イケメン同士との友情・絆を楽しむ乙女ゲーム
という2種類に分類されていくと指摘しました。

どちらも需要は高いが、ターゲットユーザーのタイプは異なります。
このように「誰に売る乙女ゲームを作るのか」を、しっかり考える必要があること。
そしてシナリオライターにとっても、「キュン」の使い分けが必須だと述べられました。

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ジャンルの細分化が進展中

乙女ゲームシナリオライターとして続けていくには

「キュン」の使い分けもさることながら、多様化していくニーズに答えていくためには、「特定ジャンルしかできないライター」と、思われないことも大事だといいます。
乙女ゲームのユーザーの広がりに伴い、定番だった学園物やファンタジーもの以外にも、芸能界、歴史、スポーツものなど、さまざまなジャンルが求められるようになっているからです。

また、メディアやプラットフォームも拡大しています。
乙女ゲームのシナリオ需要は現在、
・コンシューマーゲーム
・ソーシャルゲーム(スマホアプリ)
・ドラマCD
という3つのメディアがあり、それぞれで書き分けテクニックが必要になります。

コンシューマーには物語重視、恋愛重視の傾向があり、エンディングに向けて、恋の過程をしっかりと楽しませる、無駄のないストーリーが必要とされます。
また、基本は有料ゲームとなるため、声優やイラストで高い質が求められること。
シナリオに関しても「キュン」だけではなく、良質な映画を1本見たような、ストーリーの厚さも求められるといいます。

これに対してソーシャルゲーム(スマホアプリ)では、基本プレイ無料のアイテム課金モデルが主流です。
そのため短編シナリオの連続で、イベントやシチュエーションを楽しむことに、特化した作りになっているといいます。
告白して両思いになるとゲームが終わってしまうため、友達以上・恋人未満の関係をいかに保つかも重要なポイント。
ロングコンテンツにしやすい一方で、マンネリ化しやすい問題もあるため、いかにバリエーションを広げるかが重要になります。

ゲームではない、ドラマCDの場合はどうでしょうか。
ドラマCDはコンシューマゲームの特典となることが多く、乙女ゲームシナリオライターとして携わる機会が増えています。
もっともドラマCDを楽しむユーザーには、声で楽しみたい、一人で陶酔・妄想したい、といったニーズがあります。
そのため状況説明のための映像が使えず、主人公が能動的に話しかけるシチュエーションも原則としてありません。
主人公がその場にいることを前提に、イケメンのセリフの連続でストーリーを進めていく必要があります。

「状況説明のためのセリフ回しが必用ですが、不自然にならないように注意することが大切です」(泉氏)

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乙女ゲームは主人公イラストがパッケージに明確に表示される点も特徴

単純に見えて奥が深い乙女ゲームユーザー達

「乙女ゲーム」が世の中に出始めた頃は、クライアント企業からの発注も、「イケメンと恋愛してればいい」といったシンプルなものが大半でした。
しかし趣向の多様化に合わせて、最近では「どのターゲット層に売るのか」が重要になっており、マーケティングが必須になってきているといいます。

ターゲットの組み合わせ次第で、作品の方向性も大きく変わります。
「アイドルもの」といっても、ターゲットが10代なのか、20代なのか、恋愛メインにするのか、友情メインにするのか、はたまたコンシューマーなのかソーシャルなのかといった具合に、様々なパターンが想定されます。

乙女ゲームシナリオライターとして、仕事を続けていくには、この無限ともいえるパターン分けに対する「書き分けテクニック」が必須となります。

これだけは覚えて欲しい3つのポイント

最後に泉氏は「とにかく以下の3つを覚えて欲しい」と要点をまとめました。

・「糖度」が大事!「キュン」とするシチュエーションをストックする。
・書き分けるテクニックを身につける。作品に合ったシナリオを書く。
・自分の好みは押し殺し、売れるための乙女ゲームシナリオを。

この10年間のキャリアの中で、シナリオライターを幾人も見てきた泉氏。
しかし、新人の中には「自分の好きな乙女ゲームシナリオが書けると思っていたが、違っていた」と、辞めていく人も多かったといいます。

プロで仕事をこなしてくのであれば「書きたいものを書く」のではなく、自分の持っている知識や、ノウハウを活かし、クライアントが望む物、売れる物を意識することが重要です。
これを肝に今後のシナリオライティングにのぞんで欲しいとエールを送り、講演を締めくくりました。

(小川 浩史)