アートワークの受発注セミナー開催レポート

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NPO法人IGDA日本は2017年6月10日、オルトプラス・セミナールームで「アートワークの受発注セミナー」を開催しました。日頃「ふわっとした」物言いが横行しがちなアートワークの分野で、どのようにすれば受発注に関するトラブルを減少させて、円滑な制作が可能になるのか、さまざまな視点からディスカッションが行われました。

なぜトラブル事案が増えているのか?

ウェブテクノロジ・コム 浅井維新氏

はじめに登壇したウェブテクノロジ・コムの浅井維新氏は、アートワークの受発注に伴うトラブルが増加している背景に「開発の大規模化の進展と、投資としてのゲーム開発の一般化」を上げました。

「かつて、のべ4000人・70億円かけて開発し、40億円の赤字になった案件がありました。しかし昨今では、のべ1000人・20億円かけたタイトルがリリース中止になる事例が年に数本発生しています」(浅井氏)。またクラウドファンディングでの開発費用調達やゲーム関連のVC(ベンチャーキャピタル)も一般的になってきました。これに伴い業界全体で分業化が進展中で、それに伴って必然的に受発注のトラブルが増加しているというわけです。

浅井氏は「発注側も受注側も相応のスキルが求められる」とします。発注側は「発注準備が整っているか」「ツールや手段は正当か」「窓口が一本化されているか」など。受注側は「プロジェクトの座組や背景が事前確認できているか」「受注金額は正当か」「適切なNDAを結んでいるか」などのチェックポイントを双方で確認することが重要だというわけです。

特に近年のソーシャルゲーム開発ではカードバトル時代と異なり、ゲームエンジンに組み込むことが前提で開発が進むため、受発注側の双方で内容・納期・支払いについてクリアにしておくことが必要だとしました。

エフェクトにおける正しい受発注

続いてエフェクトを中心にさまざまな分野で活躍するアグニ・フレアから、エフェクトデザイナーの下澤章吾氏が登壇。「ゲームエフェクトの発注・受注で幸せになるためには」と題して講演を行いました。

「エフェクトの発注は具体的にどうすればいいのか」「イメージのすり合わせが大変では」という話をされることが多いという下澤氏。実際には「エフェクトのイメージ」だけでなく、「ゲームに組み込むための仕様」の両方を決めることが重要だとします。

アグニ・フレア 下澤章吾氏

たとえばレーザー光線のエフェクトでは「レーザーのビジュアルイメージ」だけでなく、レーザーの伸びる速度・弾頭・太さ・終了条件といった仕様を決めておく必要があること。カットシーンでのエフェクトでは、絵コンテやエフェクトの内容だけでなく、カットシーンの編集手段について確認することが重要になります。

もっとも、すべての仕様が発注側で完璧に決まっていることは希です。その場合でも下澤氏は「組み込み仕様が決まっていれば、仮データで作業が進められる」と指摘。特にエフェクトはビジュアルクオリティに直結する一方で、処理負荷削減の対象になりやすく、ゲームに組み込まれた状態でなければ判断がつかないことが多いとして、仕様の策定を先行する重要性が強調されました。

デザインを言語化する

ORSO 川畑良平氏

続いて登壇したORSOの川畑良平氏は「ゲーム開発の大作化・高度化に伴い、元請けが一社で受注するスタイルから、複数の会社が各々の強みを生かして共同開発するケースが増加している」と現状を分析。その上で「感性的な部分をできるだけ言語化し、社内で共有することが円滑な受注業務のコツ」だと指摘しました。

デザインを言語化するとは、言い換えれば制作物(グラフィックのデータなど)をデザインする上で、なぜそのような思考にいたったのか、思考経路をあわせてテキスト化し、共有するという意味です。これによって社内外での共通認識を高めたり、制作過程で仮説と検証のサイクルを構築することが可能になります。

また、「最初は良くても、だんだんとプロジェクトが進むにつれて共有意識がずれがちになる」と指摘。これを防ぐために、開発段階から商品にわかりやすいキャッチフレーズ(「みんな大好きアンパンマン」「いつでも会えるAKB」など)をつけることが大事だとしました。このようにイメージを言語化して共有するプロセスがないと、制作物のイメージが一人歩きしがちになるといいます。

最後に「発注側と受注側のギャップがあることを前提に行動することが大事」だと指摘しました。特に発注側は受注側の実力を過大評価する傾向にあり、受注側はリスクを過小評価する傾向にあるといいます。その上で受注側としては、自分たちが求められている役割(プロジェクト内の立ち位置)を最初に確認することが重要だと語られました。

受発注業務に必要な基礎知識と設計のポイント

最後に登壇したDeNAの片岡力氏は、過去さまざまな企業で大小40本近くのプロジェクトで進行管理やアウトソーシングに携わった経験から、受発注業務に必要なポイントを「3フェーズ・12タスク・7スキル」に分割。その上で「プロジェクトを通して、受発注の目的を維持すること」が最も重要だと指摘しました。

DeNA 片岡力氏

片岡氏ははじめに受発注の問題は「仕様」「技術」「デザイン」に加えて、「担当者の能力」による点が大きいこと。そして受発注担当者の業務内容を「受発注の実行計画に責任を持つ人」と定義した上で、双方の担当者のスキルが一定以上あれば、トラブルの発生リスクは減少できるとしました。

続いて業務内容を「準備・制作・精算」の3つのフェーズに分割し、受発注担当者に必要なスキルとして「ヒアリング・ティーチング・コーチング・ファシリテーリング・メンタリング・マッチング・オペレーティング」の7つを指摘。こうした知識や能力が不足すると、企業に多大な損害を与えることになりかねないとします。

その上で「トラブルが発生しないプロジェクトは存在せず、開発の進捗にまみれて目的(一定品質以上のゲームを予算内で完成させること)と手段(受発注)が混同することが炎上の原因になる」と指摘。受発注担当者の存在意義はこうした状態に陥ることを防ぐことで、人間性が問われる部分であり、「勇気を持って状況を制御する」ことが重要だとしました。

その後、パネルディスカッションを経て交流会が実施されました。参加者には会社員だけでなく、フリーランスの開発者も多く見られ、さまざまな知見共有やコミュニケーションが行われていました。(小野憲史)