業界は違っても想いは同じ。開発を通して文化を創る~HDIfes#06レポート

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DevLOVE、hcdvalue、IGDA日本は2018年2月17日、合同勉強会「HDIfes #06」をヴァル研究所で開催しました。今回のテーマは「開発・デザインの文化をつくる」で、IT業界からは楽天の及部敬雄氏、デザイン分野からはグラグリッドの小野奈津美さん、ゲーム業界からはアカツキの山口修平氏が登壇し、各々の実践例が語られました。

DevLOVEは「開発の楽しさを発見し、広げることで、開発の現場を前進させる」ことをモットーに勉強会やイベントなどを開催。Hdcvalueは「現場で使えるHCD(人間中心設計)の実践」をコンセプトとしたコミュニティ。IGDA日本はゲーム開発者を対象としたコミュニティです。

各々のコミュニティは「価値の創造」という点では同じでも、それぞれ同じ概念を違う言葉で捉えていたり、その逆があったりと、互いに微妙な「ずれ」が存在します。HDIfesはそうした「ずれ」を認識し、互いに刺激を受け、学びあう場所として、2012年にスタートしました。

今回のテーマ「開発・デザインの文化をつくる」は、プロジェクトを通してチームや社内に蓄積される暗黙知や文化を高めていくための、具体的な方法論について共有することを目的としています。こうした言語化できない「もやもやしたもの」は、しばしば個々の開発者の言動やチームの生産性に大きな影響を与えると考えられます。

この、ともすればとりとめもない、発散しがちなテーマに対して、アカツキの山口氏は「社是から企画まで一気通貫のモノづくり」。楽天の及部氏は「モブプログラミングの活用」。グラグリッドの小野さんは「ビジュアルファシリテーションの活用」という視点から講演を行いました。なお今回の内容は下記ツイートまとめでも公開中です。

https://togetter.com/li/1200526

アカツキ流ものづくり哲学のご紹介

はじめに登壇したアカツキの山口氏は、同社では「企業理念のレイヤー」「開発のレイヤー」「社内交流のレイヤー」で、それぞれ理念を言語化し、共有している様を紹介。これらを一気通貫させることで、よりよい社内文化の蓄積を進めていると語りました。

まず企業理念のレイヤーでは、会社のミッションを社会観や人間観からブレイクダウンして設定している様を紹介。その上で「感情を報酬に発展する社会」という社会ビジョンを持ち、「ゲームの力で世界に幸せを」というミッションを掲げ、「ゲームの力でアジアを代表する会社へ」というファーストゴールを設定していると説明しました。なお、これらは「アカツキハート」と呼ばれる小冊子にまとめられ、Webでも公開されています。

https://aktsk.jp/company/document/

続いて開発のレイヤーでは「WHYから考える」「失敗を財産に変える」「チームで勝つ」という3つのキーワードを紹介。山口氏がプロデュースしたスマートフォン向けゲーム「8月のシンデレラナイン」での実践例について説明されました。

本作のWHYは「夢を諦めかけている人、今夢を追いかけている人たちへもう一歩前へ踏み出すための元気と勇気を届ける」というもの。これを社内資料の冒頭に表記したり、リーダーがひたすら口にしたりして、チームメンバーに浸透させているとのことです。「WHYという物差しがないと、ただ主観をぶつけ合うだけになってしまい、開発が混乱してしまいます」(山口氏)

また、ゲーム開発は水ものであり、失敗はつきものだが、失敗を財産に変える文化が無ければ、新しい挑戦は生まれなくなること。スマホゲーム開発の大規模化に伴い、一人の天才に依存するのでは無く、チームで勝つことが重要になっていることが話されました。実際に同社ではプロジェクトごとに役職と役割を明文化し、フラットで風通しのいい組織を作ることに注力しているとのことです。

最後に社内交流のレイヤーでは、「Strength Finder(米ギャラップ社が開発したオンライン才能診断ツール)を全社員が入社時に受け、社内で公開」。毎朝15分の朝会を行い、グループ内で毎週、身近な「Good and News」を共有していることなどが説明されました。これにより、同社ではほぼ全員が顔見知りの状態であり、急に他チームのサポートに入るような時でも、スムーズに意思疎通が可能な状態が保たれているとのことです。

こうした同社の取り組みに対して、グループディスカッションでは「全社的に社内文化を蓄積しようと取り組まれている点がすごい」などのコメントが聞かれました。

我々は文化とどう向き合うべきかーモブプログラミングとチームと文化ー

https://speakerdeck.com/takaking22/wo-hawen-hua-todouxiang-kihe-ubekika-mobupuroguramingutotimutowen-hua-number-hdifes

続いて登壇した楽天の及部氏はモブプログラミングがもたらした効果と影響について語りました。通常、一人ひとりがPCに向かって黙々とコードを書く印象を受けるIT開発。しかしモブプログラミングでは5~8名程度のグループが1台のPC、1台のモニタを見ながら作業を行います。「チーム全員で、同じ画面を見て、同じ仕事を、同じ場所で、同じ時間で行うのがモブプログラミングです」(及部氏)

及部氏はモブプログラミングを始めた背景として、チーム内で分担作業を進める難しさを上げました。分担作業のメリットとして、各々の専門技術が活かせる点がありますが、デメリットとして合意形成・情報共有・作業のマージなどに時間が取られる点があります。キャリアアップの方向性が画一的で、ある程度の年齢を重ねると、現場を離れてマネージャ職にならざるを得ない点も、及部氏にとってはモチベーションが下がる要因でした。

こうした問題がモブプログラミングによって一気に解決したと及部氏は言います。モブの内容は開発だけに留まらず、クライアントへの営業も、事業戦略の立案も、サービスの運用も、すべてチームで行います。及部氏は「なんでもやる企業内リーンスタートアップ地チームのようなもの」で、アジャイルソフトウェア開発宣言で述べられた内容が、自然と実践されていることに改めて驚いたと語りました。

実際に及部氏のチームではBtoBの英語学習支援サービスの立ち上げをモブプログラミングで行った際、圧倒的なスピード感でプロトタイプを開発できたと言います。「もともと軽い気持ちでモブプログラミングを導入しました。成果が出なかったら、すぐに止めるくらいのノリです。しかし、圧倒的な速度感に自分たち自身が驚かされ、今でも続いています。当然、速度感は顧客満足度の向上にもつながります」(及部氏)

もっとも、「複数人で一つの画面に向かうと、逆に非効率なのでは」という指摘は、当然出てくるとのこと。そこで重要なのは「外に対しては成果を見せることで、内側では自分たちが楽しんでやること」だと指摘されました。開発速度が向上するのは、前述のとおり同期の手間が省けるから。実際、朝礼やコードレビューなどの時間が一切なくなったと言います。「仕事は分担するものという常識に囚われていないでしょうか?」(及部氏)

また、自分たちのチームでモブプログラミングがうまくいっている理由に、「自分でわからないことでも、人に聞けばわかる」気安さがあるとしました。そのため、モブプログラミングで成果が上がる前提として、すでにチームになっていることが必要だとします。その上でモブプログラミングを通して、メンバー同士の関係性の向上が、仕事の質的向上につながり、結果として良いループが回っていると語られました。

「本日のテーマは文化ですが、結局は目の前の問題を一歩ずつ解決するしか無く、その歩みが文化を作ったり、変えたりできます」(及部氏)。その上でモブプログラミングは「明日からできる働き方改革」とまとめられました。ダイアログでは「レベルデザインの修正作業などは、各パートのリーダーが集まり、集中して行うことがある。モブプログラミングに近いかもしれない」などの声が聞かれました。

※なお、講演では下記参考資料も紹介されました。あわせてご覧ください。

描くことで変化を起こしてきたお話

最後に登壇した小野さんはチームメンバーがいる場で、手描きで考えていることや情報を共有することがチームにもたらす効用性について語りました。

Webの制作やディレクションを経て、2017年よりグラグリッドに転職した小野さん。現在は企業の課題解決のためのプロジェクトをプランニング〜実施までを担う「プロジェクトファシリテーション事業」をはじめ、会議やイベント、ワークショップなど人が集まり、交流する場で絵を使って端的に記録し、「考える足場」として活用する仕組みを生み出す「グラフィックレコーディング事業」を主業務としています。もっとも、これらは過去の失敗例から学んだ結果だといいます。

もともと絵を描くことが大好きで、「ふわっとしていても、周囲とコミュニケーションがとれていた」という小野さん。しかし、それは友人関係という均質的で小規模なコミュニティだからこそ。Web業界に就職し、デザイナーからディレクターに転職すると、周囲とのコミュニケーションギャップに悩まされるようになります。「電話が怖い、伝えることが怖い、仕事で成果が出せないという悪循環に陥っていました」(小野さん)

一方、当時からすでに社外でグラフィックレコーディングの活動を行っていた小野さん。もっとも、社内で実践するにはためらいもありました。そんな頃、上司から「現状を絵で描き出してから問題を説明してみては」という提案を受けたことが転機となります。実際に絵で描き出し、指で指し示しながら説明したところ、自分が誤解していた点や、現状の問題点が一気に共有され、上司の理解も進んだのです。

ここから「描いたものを見せながら指を指し、説明すると相手に伝わる」「仕事で使ってもいい」という手応えを得た小野さん。関係者の頭の中にしか存在しないイメージを描き出し、その場で描いたものを見せながら話すと「伝えたいことや問題点が見える!理解できる!共有できる!」と、コミュニケーションに対する恐怖感が解消されていきます。その後、縁があってWebディレクターからビジュアルファシリテーターに転身。さまざまな現場で実践を重ねてきました。

もっとも、小野さんは「グラフィックレコーディングに興味があるものの、敷居が高そうに感じられることも多い」と言います。

これに対して「最初は文字ばかりになってもいい」と前置きした上で、「目的を持って描く」「他人に見せる、伝える」「身近な人とのミーティングや、情報共有の場で実践してみる」「まずはノートからはじめ、自信がついたらにホワイトボードや、模造紙などに広げていく」「Youtubeやイベント、勉強会などで講演を聴き、その内容をグラフィックレコーディングの練習をする。うまくいったらSNSなどに投稿してみる」などのアドバイスを送りました。

「エンジニアとデザイナーのように、互いの文化が異なる場合でも、とにかく描いて、一緒に見ながら話をして、認識をする合わせることが大事です。その上で写真にとって共有してみましょう。チーム内のコミュニケーション活性化に役立ちます」(小野さん)。

三名の講演が終了すると、参加者間でダイアログ(グループディスカッション)が行われ、「講演から学んだこと」や、「明日から職場で何を実践するか」といったテーマが話しあわれました。その後、ビアバッシュ(懇親会)に移行。初めての参加者も多く、みな業界を超えた交流を楽しんでいました。(小野憲史)