人工知能のための哲学塾・東洋篇 第零夜 開催レポート

May the 縁起 be with AI

西洋哲学と東洋哲学では人とモノ、そして人同士の関係性の捉え方についても異なります。三宅氏はアリストテレス哲学と仏教にみられる「華厳哲学」を比較して、両者の違いを説明しました。アリストテレス哲学では、万物には原因があって結果があると考えます。しかし華厳哲学では原因と結果を区別することはできず、すべてが原因で結果であり、人やモノは各々の関係性の中で自然に浮かび上がってくると捉えます(=縁起)。

三宅氏は「実際、エージェント・アーキテクチャで自己を見つけることは困難です。なぜなら人工知能とは情報の流れの中で存在しているからです」と解説しました。しかし、自己を他者との関係から浮かび上がる「縁起的」な存在として捉えるなら、自己を創り出すことが可能かもしれないと指摘します。そのためには世界全体を受け止められる人工知能が求められます。そもそも、他者との関係性を把握できなければ、自分の存在を定義できないからです。

グループディスカッションをリードした犬飼博士氏(エウレカコンピューター)

もっとも現在、ゲームキャラクター同士の関係性はソーシャルグラフとして設定され、ゲームAIに埋め込まれています。同様にキャラクターと世界、キャラクターとアイテムとの関係も、ナビゲーションマップやアフォーダンスとして、地形やアイテムに埋め込まれています。前述の通り、これは記号論にもとづく伝統的な人工知能の考え方がベースとなっています。人工知能を開発する上で一番無駄が少なく、エンジニアにとって実装しやすいモデルだからです。

しかし、ここから飛躍するには、人工知能が相互の関係性を汲み取り、自然に構築していくための方法論が求められます。これは人間そしてあらゆる生物が生まれながらに行っていること。すなわち人工知能がエンジニアによって「作られる存在」から、世界との関係性の中で「生まれる存在」にするためのアプローチが必要というわけです。はたして、そうした人工知能はゲーム内で実装が可能なのか。次回から各論に落としつつ、詳しく議論していきたいと語りました。

講演終了後、第二部としてワークショップが開催された

「人工知能のための哲学塾・東洋編」は以下の内容で順次、開講されていく予定です。

第0夜   概観

第一夜  荘子と人工知能の解体

第二夜  井筒俊彦と内面の人工知能

第三夜  仏教と人工知能

第四夜  龍樹とインド哲学と人工知能

第五夜  禅と人工知能

(小野憲史)