GDC報告会2019レポート③

米国サンフランシスコにて、「Game Developers Conference(GDC)2019」が3月18日から22日まで開催されました。これに合わせてNPO法人IGDA日本では、現地を訪れた9人の方を講師として招く「GDC2019報告会」を、4月6日に開催しました。

講師の方々が聴講した講演についての要点を語ったほか、GDCに関連するさまざまな情報も語られました。

UX×ゲームデザイン×AI

スクウェア・エニックスの里井大輝氏からは、UX×ゲームデザイン×AIという3点に関連したセッションが紹介されました。

「Battlefield V」のセッションでは、プレイデータの収集・可視化・分析支援のツールが紹介されました。テスターの主観評価も表示できるようになっており、特定のテスターだけがストレスを感じているのもすぐにわかり、改善の手がかりになります。

視覚に関する認知科学の研究者によるセッションでは、認知科学が最近のゲームでどのように利用され、プレイヤーが進むべきルートをわかりやすく誘導するために、どのような情報を出すべきかなどが語られました。またアクションゲームを練習するとメンタルローテーションの能力が向上するという論文もあり、里井氏は「プレイヤースキルによってゲーム中の視覚情報の提示の仕方が変わるかもしれない」と語りました。

バランス調整を簡単にするというテーマのセッションでは、ランダム性や不確実性のあるゲームでバランス調整をしやすくする方法が語られました。バランス調整の良し悪しはゲームが完成してから評価しても遅いので、ゲーム自体を抽象化したモデルを作ってシミュレーションするべきだと言います。

「League of Legends」のセッションでは、チャンピオンというキャラクターの人気や特徴を分析し、どうすればもっと魅力的にできるかという話が出ました。キャラクターを使うプレイヤーの割合の変遷とその理由を考えるもので、これはキャラクターの能力調整だけでなく、K-POPアイドルとコラボして楽曲を出したイベントの際に使用率が上がるのがわかりました。また国による傾向の違いなども調査されていました。

里井氏はまとめとして、「ゲームプレイデータを活用してゲームデザインやUXを作ったり、改善したりする手法は、まだ手探りの状態。メタAIのように動的にゲームをコントロールするのも、まだこれから。ただしGDC全体を通して、それに関連したセッションは多く、関心は高い。来年以降は大きなトピックになるかもしれない」と語りました。

ゲームの面白さ以外のところから作るゲームの楽しさ

ツェナ・ネットワークスの佐野浩章氏は、4つのセッションを紹介しました。

1つ目は「ファイナルファンタジー」のセッション。ゲームを楽しくする方法について、ゲームそのものの面白さの他に、探索、ロールプレイ、(キャラクター等の)作成、コミュニケーション、放送、ファンクリエイト(二次創作)の6点を強化すべく取り込んだと言います。

2つ目はディズニーランドを作る時の苦悩を語るというセッション。ディズニーはアニメから始まっており、アニメの世界をいかに現実空間に広げるかというアプローチを考えています。参加者は物語の主人公になるのではなく、主人公を助ける存在にするという役割を与えることや、アトラクションで使用する道具を何度も試作し、UIを改善するなど、ゲーム作りと似た点があることを強調していました。

3つ目は「Call of Duty」のセッション。ゲームのプレイ途中に楽しかったかどうかのアンケートが表示される機能を盛り込んでおり、尋ねると6~7割は答えてくれるそうです。またアンケートで面白いかどうか以外の内容を聞くのも重要だとしています。

4つ目はUbisoftのセッション。「ネットワークゲームで一番面白いのはチャットだ」とし、同社が開発したAIチャットボットを紹介しました。ゲーム内外での友達のような位置づけで、ゲームを遊んでいない時にも情報を知らせて、ゲームを思い出すきっかけとしても機能しています。開発の難度が高そうなイメージがありますが、このAIチャットボットには、Googleの言語処理系エンジンDialogflowが使われており、「こういうものを使えば、チャットボットを含めて面白いものができる」としています。

さらに佐野氏はGoogleのクラウドゲーミングサービス「Stadia」にGoogleアシスタントが使われ、ゲーム中に他のプレイヤーに助けを求められる仕組みが用意されている点に触れ、「単に楽しいゲームを作ろうというだけでなく、プラスαが必要ではないかと感じている。いろんなものと連携してゲームに繋がっていくかが今後の流れになるのでは」と語りました。

ゲームデザイナーとエンジニアが1つに

スクウェア・エニックスの水野勇太氏は、自らのAIテクニカルゲームデザイナーという立ち位置から、テクノロジーとゲームデザインに関わるセッションを紹介しました。

水野氏は冒頭、発表の結論として、「ゲームデザイナーとエンジニアが1つになりつつあると感じた。日本だとプランナーとエンジニアの間が大きいが、海外では断絶していない」と語りました。

セッション紹介では、自らの分野であるメタAIに関わるものに注目。インディーゲーム「One Hour One Life」のセッションでは、限定されたシチュエーションがジェネレーターで生成され、プレイヤー1人1人が異なる体験がもたらされる仕組みが、今後ゲームで重要になるのではないかと語られました。水野氏は「ジェネレートされたレベルや敵を分析してゲームを変えていけるという意味で、メタAIと接点がある」と述べました。

また「スパイダーマン」のゲームのセッションでも、カメラに映っていないところの敵は手加減する、なるべくカメラに収まる行動をする、という発表がありました。「キャラクターの実装として語られていたが、実際にはメタAI的な思考で実装されている。最先端のゲームでもメタAI的な視点が求められており、我々の登壇内容は既にそれを商品ベースで実装したもので、その可能性を感じる」と水野氏は言います。

次はナラティブとインタラクティブストリーミングに着目。Microsoftのクリエイティブディレクターによるセッション「I Don’t Want Your Lemons: Optimism Fuel for Weary Devs」で発言を引用される数人の職種に「ナラティブディレクター」という職種を見つけて衝撃を受けた話が紹介されました。ナラティブとは、作り手が与えるストーリーではなく、プレイヤー個別の体験や、どう感じるかを含む物語性のこと。水野氏は「海外では1人のディレクターを立てるほど重要なものとしてとらえられているのに、日本ではまだナラティブにフォーカスされていない。ナラティブをそれとして明言、意識したゲームを作る海外との競争で戦えるのかが不安」と語りました。

インタラクティブストリーミングでは、Genvidのセッションを紹介。動画配信の際、レイヤーを重ねてインタラクティブな配信をしようという取り組みで、視聴者がゲームに介入できる仕組みを取り入れるものです。これに関して水野氏は、「応援される人ほどゲームが有利になり、ゲームバランスが壊されかねない。しかし応援の影響度を下げていくと、インタラクティブにしている意味がないというジレンマがある。まだまだこの分野の新たな発明が必要」と述べています。

水野氏は今回が初のGDC参加だそうで、現地で感じたこととして、「エンジニアがゲームメカニクスを語るセッションが多くあった。ナラティブを語れるエンジニア、インタラクティブメディアを活用できるゲームデザイナー、テクノロジーとゲームデザインを統合できるテクニカルゲームデザイナーが今後活躍するのではと感じた」と語りました。

(文:石田賀津男)