スカラーシップのスタジオツアーが就職活動での企業選びに役に立ちました/TGSスカラーシップ参加者特別インタビュー

IGDA日本では毎年、CEDECと東京ゲームショウ(TGS)を対象に学生スカラーシップを実施しています。今回、スカラーシップ開催にあたり2017年度TGSスカラーの末浪 勝己氏に特別インタビューを実施しました(聞き手・構成:小野憲史)

入社3ヶ月でベストルーキー賞を獲得

--どうも、お久しぶりです。元気そうでなによりです。

お久しぶりです。

--関西出身ですよね。東京にはなれましたか?

立命館大学映像学部出身で、実家は大阪市です。まだまだ全然慣れないですね。なんといっても人が多くて。

--仕事の方はいかがですか?

サイバーエージェントから子会社のCraft Eggに出向しています。『バンドリ! ガールズバンドパーティ!(ガルパ)』というスマホゲームのプロジェクトで企画チームの一員として働いています。日々様々な施策提案を行い、いくつか採用もされました。自ら手を挙げ機能の担当となり、他のメンバーを巻き込んで施策を進める良い動きがチームの刺激となったため、先日ベストルーキー賞をいただくこともできました。

--おお、それはすごいですね。

入社2年目までの若手社員の中から、4半期内で一番活躍した人を表彰する賞なのですが、グループ全体で60人強の中から選んでいただきました。

--2017年のTGSスカラーシップ組ですよね。

2016年度TGSスカラーの片山怜さんが学部の先輩で、いろいろ話を聞いていたので、興味がありました。CEDECコースも考えたんですが、子供の頃からゲームが好きで、高校生の時にTGSに参加したこともあったんです。その時は一般日での参加だったので、今度はビジネスデーで参加したいなと。

--高校生の時と比べてどうでしたか?

高校の時はゲーム業界のことが何もわからなかったので、ただただキラキラして見えました。ただ、そこで「将来ゲーム開発者になろう」という決意を固めることができました。スカラーシップでは、2回目のTGSということもあり、より俯瞰して見ることができましたね。一人で参加するのと違って、同じゲーム業界志望の仲間と一緒に回ることができたのも刺激になりました。

--スタジオツアーでは、あまた・DeNA・Aimingを訪問しました。

開発室の中まで見学させていただき、実際に働くイメージがつかめました。ゲームクリエイターってこんな感じなんだとか、ふだん学校で使っているツールと同じものを使っているんだとか……。就活を始めてから、すごく役に立ちましたし、会社を決める上での判断材料にもなりました。

TGSで自作ゲームを出展

--話はずれますが、立命館大学に進学したのはなぜですか?

純粋にゲーム作りを学びたかったからです。専門学校も考えましたが、より俯瞰して学ぶことができるので、立命館の映像学部だろうと。プログラムも、企画も、3DCGも学べるということが決め手となりました。

--大学はどうでしたか?

すごく良かったですね。映像学部自体ができて新しいこともあり、良い意味でルールが曖昧だったんです。まだ私の代で9期生でしたから。研究で「VRの機材が欲しい」と先生に相談したら、学校側に交渉して導入してくれたり……。学生数が少なくて、先生方との距離が近いのも良かったです。私も一年生の時から渡辺修司先生(准教授/元タイトー、スクウェア・エニックス。代表作『ラクガキ王国』など)に大変お世話になりました。

--在学中に何本くらいゲームを作りましたか?

ゲームジャムやハッカソンなどを含めると、40本くらいですね。学校の授業だけでいえば、他のチームのお手伝いも含めて、6本くらいです。そのうちの一つが、スカラーシップの翌年にTGSで展示させていただいた筋トレアクションRPG『ぶんまわしヒーロー』でした。

--末浪君は二年生の時にTGSスカラーシップでTGSに参加して、三年生の時はゲームの展示でTGSに参加したんですよね。

関西の大学の学生が集まってゲームを作る「connect」という団体があり、初代代表でした。そこでIGDA日本から「TGSインディゲームコーナーでゲームを展示してみないか」というお誘いがあり、参加させていただきました。

--実際に展示をしてみて、どうでしたか?

『ぶんまわしヒーロー』の開発版を出展しましたが、すごくためになりました。ビジネスデイに出展したので、プロのゲーム開発者の方からたくさんの感想やレビューをいただくことができました。「ここが不親切だよね」「この操作は気持ちが良くないよね」など、自分たちでは気がつかなかった視点をたくさんいただけて……。「自分たちが作りたいもの」ではなく、「ユーザーのみなさまにわかりやすい内容になっているか」という視点が大事なんだと気づかされました。

--出展に際してどのような準備をしましたか?

ゲームのポスターと、操作説明を印刷した紙を用意しました。ただ、展示自体はノートPCだけだったので、周りに埋もれがちなところがあり、そこは反省点でしたね。液晶モニタを持っていって、もっと目立つようにしたり、スピーカーを別途用意したり……。「学生が作って展示している」という点を、もっとアピールしてもよかったと思います。

--『ぶんまわしヒーロー』はSteamでもリリースされました。

TGSで得られたコメントなどをもとに、仲間内で継続開発を行い、リリースすることができました。最初は5人で始めましたが、一年半くらいかけてネチネチと開発を続け、最終的に16人くらいのチームになりました。気がついたら自分の卒業制作にもなり、ゲームを作るだけでなく、ホームページを作ったり、オープニングムービーを作ったり、Twitterで宣伝したりと、チームでいろいろな経験を積むことができました。

--映像学部ってゲーム作りが卒業制作になるんでしたっけ?

そうなんですが、それだけではなく、卒業論文もセットで出す必要があります。私の場合は「デジタルゲームにおける飽きない工夫」というタイトルで、既存のゲームがどのような工夫をしているか、ゲームサイクルに注目して分析しました。その上で、そこから得た知見を自分なりにまとめて、『ぶんまわしヒーロー』に実装しました。

--他に何か思い出深い経験はありましたか?

夏休みにグラフィッカーの友達と二人でイタリアに旅行をしました。ベネチア、ミラノ、ローマ、ナポリ……中世の街並みが残っていて、刺激を受けました。『ぶんまわしヒーロー』も漠然と中世ヨーロッパ的な世界観をイメージしていましたが、そこから二人で「やっぱりイタリアだろう」と。おかげでプロトタイプ版とはまったく違う世界観になりました。

世界に向けてゲームを発信したい

--就職活動はどうでしたか?

就活に苦手意識を持つ人も多いと思いますが、個人的には楽しかったです。いろいろな会社のことを知る良い機会ですし、相手にも自分のことを知ってもらえる……。弊社に決めたのもかなり早い段階でした。面接を受けていく中で具体的に働くイメージができ、ここだと思って、すぐに決めました。そんなふうに即断できたのも、スカラーシップでスタジオツアーに行って、実際に働くイメージがつかめていたことが大きかったです。

--サイバーエージェントに決めた理由はなんでしたか?

数年先の自分を考えたときに、いちばん成長できそうだなと思ったからです。学生時代からCONNECTの代表をしていたこともあり、ディレクターやプロデューサーといった、チームを俯瞰してまとめる役職に早くつきたかったんです。就活で会社を回っていた時も、よく「何年くらいで、そうした役職になれますか?」といった質問をしていました。その中でいちばんポジティブに受け止めてくれたのが弊社でした。そうしたこともあり、内々定をいただいた段階で就活を終了しました。

--Craft Eggに出向になったのは、どういった理由からですか?

弊社にはさまざまな事業部があり、その中でもゲーム分野に特化しているのが「スマートフォンゲーム・エンターテインメント事業部(SGE)」です。10社以上の子会社があり、さまざまなゲーム開発・運営が行われています。私はその中でも、もともと学生時代からファンだったこともあり、『ガルパ』を開発・運営しているCraft Eggを希望していました。

--『ガルパ』の魅力は何ですか?

私は熱いシナリオが好きです。ガールズバンドがテーマのリズムゲームで、5人のバンドが5つ、合計で25人のキャラクターが登場します。多く感じるかもしれませんが、個々のバンド、そして一人ひとりのキャラクターがシナリオでしっかりと描かれていて、遊び込むほどにファンになっていきます。実際、キャラクターに愛をもったユーザーの方が多いように思いますし、運営側もそうした思いを大切にしています。入社してからも、改めてそう感じました。

--今はどういった仕事をしていますか?

『ガルパ』は運営2年目のタイトルで、さまざまなアップデート施策が続いています。そうした施策をいろいろと考えて、実際に採用されたものについては、実装に進めていきます。いま3つの施策を同時に進めていて、そのうち2つで企画仕様書がまとまり、開発まで進むことができました。

--学生時代との違いはありますか?

一番の違いは「納期が明確であること」「開発コストが発生すること」ですね。逆にゲーム作りに対する姿勢や、いいものを作ろうとする思いなどは、同じなんだなあと実感しました。

--自分が考えたアイディアを通すためのコツってありますか?

今は一番の若手なので、いろいろと勉強することばかりなのですが、一つあるとしたら「なぜ、そのようになっているのか」をちゃんと聞いて理解するということでしょうか。「前にあった施策で私はこうしたほうがいいと思った時も、実際は何か特別な理由があり、現状の施策になっている、といったことがあります。そうした経緯を無視して提案しても企画は通らないので、前提条件をたくさん収集し、前提条件を理解した上で提案するようにしています。

--今後の夢や目標はありますか?

オリジナルのゲームを作って、世界に向けて発信できるようになることですね。自分が考えたゲームを世界中に届けたいです。

--最後にゲーム業界志望の学生にメッセージをお願いします。

できるだけたくさんのことを在学中にして、悔いなく卒業して欲しいです。ゲームが好きでゲームで遊んだり、ゲームを作ってみたり、そのほかにもやりたいことはいろいろ挑戦してみるのがいいと思います。いろいろなことから学べると思います。そのうえで卒業式で「もういちど大学生をやりたいな……」と思わないように、IGDAのスカラーシップなども活用しつつ、自分のやりたいことをやりきってもらいたいです。