TGSスカラーシップ体験レポート2022⑨鈴木 翔英

目的

今回の東京ゲームショウ2022(以下、TGS2022)スカラーシップは、総合学園ヒューマンアカデミー横浜校の阿部先生より参加を推奨されたことをきっかけに参加を決意した。私は3DCGの背景デザイナー志望としてゲーム業界への就職を目指す学生で、まだ就職が決まっていない。この機会に、TGS2022においてスカラーシップ生として参加し、自身のこれまでの功績を発表することで、自分をゲーム業界にアピールすることが今回の目的である。

準備

TGS2022 に展示するゲームの実行ファイルを確認した。TGS2022に向けてゲームの紹介ポスターおよびゲームの操作説明を作成した。来てくださった業界関係者の方にポートフォリオを見せられるよう、ポートフォリオを最新の状態にした。また、制作中だった作品を見せられる状態にまで完成させておいた。

展示するゲームは、日本ゲーム大賞2022アマチュア部門への応募に向けて、2022年2月から5月にかけてチームで制作したゲーム『びよんど』を選んだ。『びよんど』を選んだ理由は、日本ゲーム大賞2022アマチュア部門において一次審査を通過しており、学内でゲームとしての評価も特に高かったからである。

次の画像は制作したゲームの紹介ポスターである。

ゲームの紹介ポスター

ゲームの紹介ポスターは、A3 で作成した。「ゲームの紹介」と聞いていたため、ゲーム内容が分かりやすいように、ゲーム内の画面のスクリーンショットを用いて説明を行った。

次の画像はゲームの操作説明の画像である。

ゲームの操作説明

ゲームの操作説明はA4サイズで作成した。紹介するゲームのシステムが比較的単純だったため、余ったスペースを利用して、キャラクターの動かし方だけでなく登場するアイテムやギミックなどの説明も行い、よりゲームが理解しやすいようにし た。

TGS2022 スカラーシップ体験内容、ゲームの展示内容の概要

TGS スカラーシップで行ったことの内容

TGS2022は9月15日と16日の、ゲーム業界の関係者のみ参加可能なビジネスデイと、17日と18日の、一般の来場者を入れた一般公開日の4日間にわたって開催された。スカラーシップの活動は、4日間にわたってIGDA 日本ブースにて、自分に割り当てられた時間帯の中で、制作したゲームの展示を行った。次に示すスケジュールに従って展示を行った。

表1.自分に割り当てられた展示時間帯

9月15日9月16日9月17日9月18日
13:00-13:40なし10:00-10:40、17:20-18:0016:40-17:20 (お手伝い)

展示中は主にゲーム『びよんど』の紹介を行い、来場者の方に試遊していただいた。また、CG デザイナーとして自分が『びよんど』に関わった部分や、こだわりなどを説明した。特にビジネスデイ期間中は、来場者の方と名刺交換をさせていただいた。また、十分な時間が取れそうなタイミングでは、自分のスマートフォンを用いて自分のポートフォリオをお見せしてCG デザイナーとしての作品の紹介をした。

展示の具体的な内容

ブースに作成したゲームの紹介ポスターを張り、2台のPCとコントローラーを用いて紹介するゲーム『びよんど』を遊べる状態で用意した。新型コロナウイルス感染対策として、展示中はこまめにコントローラーをアルコール入りティッシュで拭いて消毒した。

『びよんど』は日本ゲーム大賞 2022 アマチュア部門に応募した作品である。当部門では課題として、「感触」をテーマにゲームを制作することという指定があったため、『びよんど』は「地形の感触の変化」を楽しむゲームとして制作した。ゲーム内容としては、固い地面や壁の感触をびよんびよんとした弾性のある感触に変化させる能力を持つ鯉が、龍に成るために上を目指すというゲームになった。

『びよんど』の主人公の鯉

CG デザイナーとしては、主人公の鯉の 3D モデルとモーション、各種アイテム、UI の一部やタイトルロゴなどを担当した。特に鯉は、ゲームにシュールな雰囲気を出すためにあえてリアルな鯉になるよう工夫をした。実際に釣り堀に行き、鯉を釣って様々な角度から写真を撮り、その写真からテクスチャを作成した。複数の写真から都合の良い部分を切り抜いて貼り付け、自然に見えるように調整を行った。Unity上ではmetallicの値を調整して、水の中から出てきたばかりのような光沢を表現した。

TGS2022 スカラーシップ体験結果

ゲームの試遊の状況

ビジネスデイ、一般公開日ともに、1回 40 分間の展示の中で10数名程度の来場者の方に来ていただき、ほぼ休みなくゲーム紹介をし続けた。

ほとんどの来場者にはステージ 1 のクリアまでを試遊していただいた。ステージ 1 でも多くの方がかなり苦戦し、時間切れになってゲームオーバーになる方もいた。一方で、ステージ1を比較的早くクリアし、ステージ 2 のクリアまで体験された方も数名いた。ステージ 3 までクリアしてエンディングを見ることができた方は1名で、応援に来ていただいたヒューマンアカデミー横浜校の講師の方であった。

ゲーム『びよんど』の紹介の様子

ビジネスデイの2日間は、25名から名刺をいただいた。名刺交換の機会の多くは展示中に試遊に来てくださったことがきっかけだった。韓国やブラジルなど海外から来られた方とも名刺交換をさせていただいた。その際にゲーム紹介も英語で行った。ゲーム内容を理解してクリアまでしてもらえたので、おおむね会話はスムーズに行えたと思われる。また、休憩時間中にも他のインディーゲームコーナーのブースなどに向かい、数名の方と試遊後に名刺交換をさせていただいた。

一般公開日の間はほとんど名刺交換をする機会は得られなかった。

感想

TGS2022スカラーシップに参加したことで、TGS2022で自分のゲームを展示するという貴重な体験ができた。業界の関係者の方々と直接お話しすることもでき、この体験はゲーム業界を目指すうえで有意義な経験になったと感じる。一方で、展示内容やゲーム内容について反省すべき点も多くあったと考えている。

まず、準備段階において、ポスターの意義に対する理解が足りていなかったことである。ポスターは広い会場の中で自分の展示しているゲームをアピールするための物であった。ゲームの紹介と聞いていたこと、会場の様子などのイメージが不十分だったことから、近付いて見ることを想定した大きさの文字で、ゲーム内容がよくわかるようなポスターを作成していた。しかし、本来作成すべきポスターは、遠くから見てもわかりやすい大きな文字と、ゲーム内容よりも見た人の印象に残るインパクトのある画像で構成された、ゲームの宣伝用の一般的なポスターであった。具体的には、主人公の鯉をポスターの半分以上の大きさで表示したり、ポスター用に鯉が壁に弾かれて飛び跳ねる様子の絵などを新しく描いたりするなどの手法があったと考えている。

名刺は学校に用意してもらったものを使用したが、ゲームの紹介動画へのURLを載せたり、作品の画像を載せたりすることで、より自分の作品をアピールできたと思われる。

ゲームの内容に対しても反省点があった。ゲーム内に登場するアイテムの意味があまりユーザーに伝わっていなかったように感じられた。説明が欲しいというアドバイスもいただいた。『びよんど』はゲームのルールが比較的単純なうえになるべく UI を廃し、ユーザーの意識をゲームに集中させるよう工夫している。しかし、ユーザー視点では言葉での説明もほしいということが分かった。

コントローラーのボタン配置にも問題があった。ヒューマンアカデミー横浜校ではほとんどのゲーム制作において、プラットフォームは PC、操作はXbox コントローラーまたはキーボードとマウスのいずれかがほとんどである。一方で、作っている学生は普段は Nintendo Switch などで遊んでいるため、「決定」と「戻る」の配置をNintendo Switch のコントローラーに合わせてそれぞれ B, A に割り当ててい た。このことが原因で、「決定」と「戻る」の操作が逆になってしまう人も多く見られた。現在制作中の別のゲームでは、コントローラーに合わせてキーコンフィグを変えられるように改善している。

一般公開日に、一般の来場者の方から「Steam などで配信はしていないのか」と問われた。どこかしらにゲームを配信するべきという話はゲーム業界関係者の方からは聞いていたが、一般の方からも聞くとは思っていなかった。Steam などで配信するという話はヒューマンアカデミー横浜校では聞いたことがなかった上に、『びよんど』が一般の人に遊んでもらえるほどのゲームとも思っていなかったため、私にとってはかなり衝撃的だった。現在『びよんど』はどうにか配信できないか相談中で、制作中の別のゲームについては完成したらSteam などに配信したいとチームに伝えてある。

本スカラーシップでは学ぶことが多くあった。将来のゲーム制作につなげるとともに、この経験をゲーム業界への就職に有利に活用しようと思う。