書評『Blenderジオメトリノードではじめるプロシージャルモデリング』

CGアセット制作工程の歴史

はじめまして。東京国際工科専門職大学で講師をしております、藤田至一と申します。ゲーム業界でエンジニア寄りのテクニカル・アーティスト(以下TA)をしておりましたので、大学でもTAの育成を担当しております。

さて、一般に、CGアセット制作工程は、

  1. デザイン・コンセプトを考え、ラフ・デザインを手描きする構想段階
  2. 手描きのラフ・デザインをどのような手順で3D化するか考える設計段階
  3. DCCツールを使って設計図通りに作業を進める実装段階

といった3段階にわかれます。各工程をアーティストとコンピューターのどちらが担当するのかに応じてManual、Procedural、Generative、3つのパラダイムがあると言えます。

パラダイムManualProceduralGeneraive
構想段階の主体アーティストアーティストアーティスト
設計段階の主体アーティストアーティストコンピューター
実装段階の主体アーティストコンピューターコンピューター
主なDCCツールMayaHoudini3DFY.ai Kaedim

古くからあるManualパラダイムは説明不要でしょう。最新のGenerativeパラダイムは生成AIプロンプトをインターフェースとするツールがいくつかあるようですが、まだ実験段階といったところなので詳細は省きます。さて、今回のテーマであるProceduralパラダイムは、Houdiniの前身であるPrismの時代から既に存在しています。それがゲーム業界に本格的に導入されたのは、オープンワールド化に伴う背景CGアセットの総量が爆発的に増えたタイミングです。このような経緯から、現在一般的にProceduralというと背景CGアセット制作を指し、具体的な制作環境は大きく2つに分類されます。

パターン1は、ゲーム・エンジン内にDCCツールを取り込む試みと言え、Unreal Engine 5のPCGが有名です。現状では若干DCCツール機能が不足していますが、データ互換性や操作遅延の問題に悩まされることはありません。一方のパターン2は、過去にMayaやBlenderがDCCツールにゲーム・エンジンを取り込もうとしてうまく行かなかった状況を踏まえ、Houdiniの開発元であるSideFX社が打ち出した代替案と考えられます。筆者は大学でパターン2を利用していますが、Houdiniのほぼ全機能にアクセスできるので機能不足は感じませんし、データ互換性の問題もほとんどありません。しかし若干操作遅延があり、それを嫌うアーティストやレベル・デザイナーもいるようです。現在の主流はパターン2ですが、ゲーム・エンジン内DCCツールの機能が充実すればパターン1が主流になるかもしれません。

本書の特徴と所感

さて、前置きが長くなりましたが本題です。実はパターン2は有償版Houdiniでしか利用できません。「この分野に興味はあるが、有償版Houdiniはちょっと敷居が高いなあ」と、BlenderのGeometoryNodeとUnityのMeshSyncDCCPluginの組み合わせでパターン2と同じような無償制作環境を構築している方も多いのではないでしょうか? そんな折、書籍『Blenderジオメトリノードではじめるプロシージャルモデリング』(ボーンデジタル刊)が出版されました。Part1とPart2が基礎編、Part3からPart5までが応用編となっており、初心者から中級者までをカバーする内容になっています。そこで、これからBlenderを使ってProceduralパラダイムを理解しようと考えている読者を想定し、基礎編のレヴューをさせて頂きます。

Part 1ではBlenderにおけるProceduralパラダイムの実装、基本的なノードの紹介、便利なアドオンのインストールについて触れています。BlenderのProceduralパラダイムはHoudiniなどと同じくノード・ベース・インターフェースによって表現されています。ノード・ネットワークは文章のようなもので語彙と文法があります。個々のノードが語彙で、ノードを繋いでネットワークを構築する際の規則が文法に相当します。これらの重要性はチュートリアルを追いかけているうちは気が付かないのですが、いざ自分で作りたいものをProceduralパラダイムに則って制作しようとしたり、上手く動かないネットワークの問題を解決する、といった実践の場では必ず必要になります。

本書ではChapter1とChapter2で、このあたりがとても見やすくレイアウトされた図表と、大変わかりやすい文章で丁寧に書かれています。これであれば、初めてProceduralパラダイムに触れる読者でも迷子になる事はないだろうと思います。Chapter3ではノードを効率的に構築するためのアドオンが紹介されています。なお、本書の問題ではありませんが、筆者の環境では上手く動かないアドオンの機能がいくつかありました。

Part 2ではこれまでに学んだ語彙と文法を活用して形状作成、配置、一括編集、といったProceduralパラダイムならではの制作行程を一通り体験します。Chapter4では形状作成ノードについて触れていますが、この辺りはManualパラダイムでモデリングをしたことがあれば問題なく理解できると思います。続くChapter5で先程作成した形状をシーンに配置するのですが、この辺りからProceduralパラダイム特有の話題が増えていきます。例えばManualパラダイムでは配置ツールが予め用意されていて、アーティストができる事はそのツールのパラメーターを調整することに限られますが、Proceduralパラダイムではその配置ツール自体を自分で作る事ができます。このように手順が一つ増えるのと引き換えに、大きな自由度を手に入れる事ができるのがProceduralパラダイムの特徴の一つです。そのため、Proceduralパラダイムでは多少なりとも数学やプログラミングの知識が必要になるのですが、本書では数式を表現するノードを繋いで配置ツールができていく過程が丁寧に順を追って解説されているので理解は容易です。

さて、一通り配置した形状をさらに細かく調整したい、例えば「フィールドにある全ての植物のうち、30cm以下のものだけ葉の長さを短くしたい」といった場合を考えてみます。Chapter6では、この様な場合に、対象となるオブジェクトをProceduralに選択するスプレッド・シート機能を扱います。文字通り、表計算ソフトのようにオブジェクトのパラメーターを表示・計算・フィルタリングすることができ、オブジェクトの一括編集をするときには必須の機能となります。表計算ソフトを使った経験があれば、問題なく読み進められるかと思います。

Part3以降の応用編は未読ですが、いきなり内容が高度化するという事はなく、本書全体を通して大変見やすい図表レイアウト、わかりやすい文章、各章に設けられた丁度よい分量の演習、この辺りが保たれているようで好印象です。

注意点として、本書はBlenderの基礎的な操作はできるという前提で書かれているため、私のようなBlender初心者はオンライン教材などを併読する必要があります。とはいえ、Blenderは充実したオンライン教材でも定評があるので問題ないでしょう。最後に、カッコつけるつもりはありませんが、個人的に残念だったのがGUI表示言語が日本語であるという点です。高度な技術情報は海外のTechBlogやDiscordコミュニティから得る事が多いので、日本語GUIは混乱の元です。本書のように、本格的にCGを学ぼうとする読者が想定される書籍では、GUI表示言語は英語という文化が定着してほしいと願っています。

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