人工知能の社会化に必要なこと/SIG-AI 人工知能のための哲学塾 未来社会編 第零夜「概論」レポート

他者の存在が自我の形成を導く

SIG-AI正世話人 三宅陽一郎氏

ちなみに現在の人工知能では、当初から他者の存在や自己との関係性をプログラミングで定義してしまいます。ゲームにおける敵・味方キャラクターの関係性などは、その典型例です。また、ゲームでは通常、プレイヤーはアバター(=プレイヤーキャラクター)という仮想身体をまとってゲーム世界で活動を行います。そのため人工知能(=敵NPC)にとって他者を理解するとは「他者を正しくシミュレートする」行為に他なりません。そのため他者がプレイヤーの場合、プレイヤーの行動を正しく予測できれば、プレイヤーを理解したと「みなされる」ことになります。

しかし、これが許されるのはゲームという特殊な環境ゆえ。現実世界における人間の心情や行動は、より多様性に満ちています。これに相対するには、人工知能の側も人間に劣らない多様性を習得する必要があります。ポイントはゲームの人工知能が当初から「敵・味方」といった要素に世界を分解して理解している(=プログラムされている)点。そうではなく、敵・味方という概念を相互にインタラクションしながら後天的・体験的に獲得していく人工知能が求められるというわけです。そこでは当然、人間と人工知能や、人工知能同士の社会性が問われることになるでしょう。

大山匠氏(右)と 田代伶奈氏(左)はニコ生ファシリテーターとして参加

さて、それでは人工知能にとって「他者」とは何でしょうか。ここで三宅氏は議論の接戦として、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)における他者の捉え方を例に出しました。ASDの症状としては、「社会的なコミュニケーションや他の人とのやりとりが上手くできない、興味や活動が偏る」などの特徴が知られています。三宅氏は「自閉症スペクトラムの精神病理」(内海健、医学書院)を引用しつつ、「ASDの世界では、自己と他者が明確に区分けされていない。(中略)他者の視点を得ることによって、世界が陰影のある立体的な像を結ぶこともない」と解説します。

その上で「人が考えるときには、なにかを考え、喜ぶときには、何かを喜ぶ。(中略)対象にかかわり、対象に向かう。これが志向性であり、『こころ』にあって「もの」にはない。(中略)そして我々はこの志向性のあるところに『こころ』を感じる」(同上)と指摘。人間は成長の過程で他者のまなざし(=志向性)によって自己が触発され、自我を形成していくこと(その過渡期に見られるのが「ひとみしり」です)。そして、これが人と人工知能の違いに上げられるが、「むしろ人工知能でこそ、自己の形成や他者の発見が明確に探求できるのではないか?」と問題意識を提示しました。