地方に拡散する謎解きイベント事情〜SIG-ARG 謎解きカンファレンス2016冬レポート

脱出系ゲームを中心に、全国で拡大中の「謎解きイベント」。
今や大小あわせて年間千件以上の興行公演が行われているとされています。
今回、SIG-ARG謎解き分科会では1月23日にSIG-ARG謎解きイベントカンファレンス2016「地方からみた謎解き事情」を開催し、北海道と岡山からゲストスピーカーも招聘。
地方のイベント興行事情、謎解きイベントのさらなる発展をテーマに議論が行われました。

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【謎解きイベントの最新トレンド】

はじめに謎解き分科会の会長で、謎解きイベントの参加数が千件を突破。自身も謎解きイベントの制作に携わる分科会会長の南晃氏が基調講演として、謎解きイベントの現状・課題・今後の展開について語りました。

はじめに市場規模では、2011年の総参加者数5千人、1500万円に対して、2015年では400万人、300億円にまで膨らんでいるといいます。
ただ、初演タイトル数が増え続けている一方、新規設立団体数が2013年を境に減少し続けており、新しく何かを行おうとする人が減った代わりに、既存の団体が多数のタイトル作成に注力を尽くしたことが読み取れるといいます。
その結果として首都圏は成熟期に入り、関西圏をはじめとして地方が成長期に入ったと述べられました。

また、最近のトピックスとしてメディアで取り上げられた結果、一般の認知度が向上。全国でのフェス系イベントの増加や、高校、大学といった学園祭における謎解きイベントが激増しており、学生団体同士の連携強化が図られるといった、インカレ的な動きを見せているといいます。

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謎解き分科会超・南晃氏

このように全国的に見ても一般的になりつつある謎解きイベントですが、それに付随した課題点も発生していると南氏は指摘します。
音楽等の無断使用、著作権、商標権侵害が見受けられるイベントや、過度の集中によるイベント自体の質の低下、記録・資料の散逸など、イベント公演や運営にあたっての留意点が挙げられました。

最後に今後の業界発展のポイントとして、新規団体の参入の促進、ノウハウの共有といった制作団体同士の交流と連携の強化、個人レベルでは対処が難しいアイディア模倣や無断使用などの紛争処理など、今後業界として整備を行っていく必要がある項目が抽出されました。

【試されすぎる大地 北海道の謎解き事情】

本州へは月1ペース、札幌へは月2ペースで謎解きイベントに参加し、2012年より記録の意味を込めた「謎解き、ゲーム、脱出狂」のブログを開設。自身も謎解き制作に携わっている北海道道南在住の無給の人氏。
自他共に認める謎解きベテランから見た、地方公演最北の北海道の謎解きイベント事情が語られました。

まず、北海道の現状としてイベントのほとんどが札幌一極集中開催だといいます。
北海道は大きく分類して、道南、道央、道東、道北の4エリアに分かれ、人口分布としては、総人口540万人に対し札幌が190万人と、営業的にペイができる地域が道央圏のみだといいます。

またプレイヤーの傾向としても、謎解きが好きな人はとことん参加し、遠征も辞さないのに対して、参加する殆どの人が謎解き自体に不慣れな為、上級者と初心者との差が激しく、なかなか謎解きの土壌が広がらないことが問題だと指摘します。
まずは簡単なものに参加して楽しさを知ってもらうことが重要だと訴えました。

実際に北海道は企業研修向けのイベントは多いものの、一般的なイベントは減少傾向にあり、「SCRAP」の全国ツアーも数ヶ月に1回のペースという現状。
まさに謎クラスタの飢餓状態に陥っているともいいます。
そこで生まれたのが、「お互いに作りあって遊べばいいのでは?」という発想。これが合同謎解きイベント「北の謎から(通称:北謎)」の開催コンセプトに繋がったと説明されました。

2013年冬に第1回を開催された「北の謎から」は、もともとは内輪の忘年会を兼ねた、参加者40人レベルからのスタートでしたが、現在は回数を重ねることにボリュームも拡大。
その一方で当初から掲げられていた、参加者同士が「全公演に参加できる」タイムスケジュールにも限界がきているといいます。
巨大化に対応できるよう運営強化の必要性を訴える一方、アットホームでありつつ排他的ではない、良い点は残す方向で運営を行いたいと述べられました。なお「北謎」は第4回が6月25日(土)に札幌にて開催決定しています。
そして北の大地北海道に是非遊びに来て欲しいというメッセージと共に、講演が締めくくられました。

【地方からみた謎解きイベントの未来】

一般社団法人GainJapanの代表理事を務められている宮脇信行氏。
もともとは、岡山県内の観光名所を巡るドライブイベント等を催す観光案内を行う団体で、謎解き公演を運営する団体ではありませんでした。
方向転換となったのが、宮脇氏自身が参加した「結婚式会場を利用したミステリー系の謎解き」です。
そこで感銘を受け、謎解きと観光案内の親和性の高さに気づいたことが、活動の転機となりました。

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一般社団法人GainJapan代表理事の宮脇信行氏。

宮脇氏は首都圏での謎解き事情について、リアルさを追求した、敷居の高いものとなっており、多くの謎解き公演が乱立することによって、ユーザー層もマニア化しているといいます。
熟練者と初心者での温度差が生まれ、ついていけなくなるといった点も見受けられるとのことです。
これに対して地方の謎解き事情は、まずイベント数自体が少なく、開催スパンも長いため、ユーザーから「遊びの一つ」だとカウントはされているが、ホビーとしての認識はされていない現状だとします。

その一方で謎解きイベントが持つ集客力の高さから、自治体からの関心が非常に高いとのこと。
地域の魅力をよく知ってもらうきっかけとして、謎解きイベントは非常に有効な手段だと語られました。
宮脇氏はガイドから教わるよりも、参加者自らがその地域の歴史を謎解きによって体験することで、地域愛の醸成をめざしたいといいます。

観光案内の意味合いからも、参加者がよりその地域を深く知ることができる、宝探し系の催しがメインになるであろうと予測する宮脇氏。
その上で、地方に遊びに来るのは親子連れが多いことから、ファミリー層をいかに取り込むかが課題だとし、マニアへのニーズの制御が必要だと分析しました。

各講演終了後は、改めて地方の謎解きイベント事情をテーマに、各スピーカーを交えたパネルディスカッションと、参加者からの質疑応答が行われました。
地方の謎解きイベント事情と、これからの展望を聞くことができた参加者からは、おしみない拍手が送られ、カンファレンスは終了しました。

文:小川浩史