フラグシップ原作の実写映画構想もあった・・・シナリオライター宮下隼一氏があかす特別インタビュー(後編)

IGDA日本ゲームシナリオ分科会(SIG-GameScenario)ではシナリオライター宮下隼一氏に対して、ゲームシナリオ会社フラグシップと、その主催者をつとめた杉村升先生に関するお話を伺いました。前編に続いて後編をお届けします。

ゲームシナリオ分科会:ゲームシナリオ作成における注意する点は何だと考えますか?

宮下:常にゲームシステムに準じたシナリオであるべきだと考えます。ゲームシナリオライターもゲームシステムや仕様を考案すべきだと杉村升も考えていました。

ーーフラグシップのシナリオライターはゲームシステムなどを学ばれていたんですか?」

宮下:最初の頃は、大阪のカプコン本社にたびたび出向させられました。そこでゲームの作り方を勉強させられました。

ーー後進の育成もされていたわけですね。

宮下:後期は、やや若手を育成する学校のような印象がありましたね。

ーーそれもフラグシップの壮大な計画の一部だったとか…

宮下:今となってはそうかもしれません。ただ後期にはフラグシップが原作となるゲームの開発がはじまったので、とにかく人材がほしかったんだと思います。

ーー「エルドラドゲート」のシリーズや「鬼武者」ですね。

注釈:「エルドラゲート」はカプコンから発売されたドリームキャスト用ロールプレイングゲームのシリーズ。1巻につき数話分を収録。全7巻18話。十二に分かれた「鬼神」の魂を持った者達が様々な冒険の果てに集い、戦うストーリー。

「鬼武者」シリーズはフラグシップが原案をてがけたカプコンの戦国サバイバルアクションゲーム。戦国の世に出現した幻魔に滅ぼされた鬼の一族から鬼の篭手を与えられ、鬼武者となった明智左馬介の戦いを描いた物語。

宮下:特に杉村升は「鬼武者タクティクス」に愛着があったようです。本人はシミュレーションゲームを作りたくてしかたがなかったから。

「ゼルダの伝説ふしぎの木の実」を作った時も、杉村升は宮本茂氏と会えて、それはもう嬉しかったみたいで…もちろん、僕も。ゼル伝、大好きでしたから。

ーー杉村先生にとっては開発者冥利に尽きたでしょうね。

 注釈:「ゼルダの伝説ふしぎの木の実・大地の章」「ゼルダの伝説ふしぎの木の実・時空の章」はカプコンが中心となって開発を行った任天堂発売のゲームボーイカラー用アクションアドベンチャーゲーム。

宮下:「クロックタワー3」では、より杉村升の想いが作品に結実したと思います。ゲーム企画の段階で鈴木清順監督などに声をかけたり、最終的にはイベントCGムービーの監督として深作欣二監督を引っ張り込んだのだから。すべてはより大きな計画を実行しようとしたからだと思います。

注釈:「クロックタワー3」とはヒューマンから発売されていたホラーアドベンチャーゲーム「クロックタワー」シリーズのナンバリング作品。

ーー壮大な計画とは?

宮下:杉村升はフラグシップ原作の実写映画を撮りたかったのです。

ーーどんなジャンルだったのですか?

宮下:ハードボイルド的な冒険アクション。ゲームと連動した形の実写映画を計画していました。

ーーシナリオは杉村先生が執筆される予定でした?

宮下:杉村升は映画プロデューサー的な立場で、監督は深作欣二で。ゲームの力を示そうと、映画業界へ一石を投じたかったのだと思います。

ーーその計画が実現されていれば、その後のゲーム業界にも何らかの影響を与えていたのかもしれませんね。

最後にゲームシナリオの分野で、フラグシップはどのような功績を残したと思われますか?

宮下:やはりシナリオチームとして、シナリオ、ストーリーの根本からゲームに関わっていたことが先進的だったと思います。それに映像業界のスタッフがゲーム業界へ進出する懸け橋となったことでしょうか。

ーー確かに当時としては先進的でしたし、後進に与えた影響も大きかったと思います。日本のゲームシナリオのルーツ研究において、フラグシップというシナリオ会社は欠かせない存在だと思いました。

インタビュー、ありがとうございました。

◆注釈

深作欣二(ふかさくきんじ):1930年生。映画監督。「仁義なき戦いシリーズ」「柳生一族の陰謀」「復活の日」「魔界転生」「蒲田行進曲」「里見八犬伝」「バトル・ロワイアル」などヒット作を撮る。

鈴木清順(すずきせいじゅん):1923年生。映画監督。「ツィゴイネルワイゼン」、「陽炎座」、「夢」の三部作はその独特の映像表現で「清順美学」と呼ばれ、世界的な評価が高い。

◆特別資料:「バイオハザード」シリーズ・アフレコ台本