CEDEC2020スカラーシップ体験レポート⑤ 油原 和記

現在東京藝術大学大学院で、アニメーション専攻ゲームコースに所属している油原和記です。ここでは、初めてCEDECに参加した感想と、ここで得た知見を今後どう活用していきたいか書き留めたいと思います。

CEDECに参加して最初に驚いたことが、企業それぞれが持っている技術をこれほどに公開していいのか、ということです。株式会社スクウェア・エニックスさんや、株式会社ハル研究所さん、任天堂株式会社さんなど多くの企業の方々が、開発する過程で経た試行錯誤の過程と技術を共有します。

短絡的に見れば、優秀な開発者の引き抜きや技術盗用などデメリットも想像できますが、長期的にゲーム業界を盛り上げていくための集まりなのだと感心していました。ハッカー文化にも通じるように、人々に開かれた興味深いセッションがたくさんありました。

どのセッションも、それぞれの制作者や支える人たちが、それぞれの熱量をもって問題を発見し、解決するプロセスを公開する大変ためになるものでした。その中でも自分のなかで響いたのがHAL研究所さんが公開してくれた、星のカービィのUIに関するセッションです。

UIデザインの役割は、プレイヤーとゲームを繋ぐ、ゲームの中で一番お客さん近いところにあるものです。カービィのUIが目指しているものを実現するために様々な手法を使って情報を取り扱っていました。情報を整理するために「優先順位」をつける、「カテゴリー」を分ける、そしてデザインに落とし込むために、関連が強いものを近くに配置する「近接」、縦横中心をあわせる「整列」、要素を統一して繰り返しパターン化する「反復」、そして大きさ、色などで「コントラストをつける」、視線の動きを考えた上での配置「視線誘導」など、様々な方法があります。

面白かったのが、プレゼンするスライドさえもその方法論をもとに設計され、使いやすさ、見やすさを考慮し、当たり前を徹底することを地でいく姿に感嘆しました。

実際使用されたカービィのUIを例として、製品版として公開されなかった改善前と改善後を比較して説明していたことも、わかりやすく参考になりました。一見問題なさそうに見えるデザインでも、さらに視認性や使いやすさを追求し、バージョンアップしている様子が伺えます。

カービィシリーズで意識しているのは、UIと遊び心の難しいバランスです。文字情報だけでなく、グラフィカルに表現することが両方の課題を解決するアイディアでした。

例えば、ゲームの難易度を「からさ」として扱い、レベルが上がるごとに甘口から激辛の悪魔的な表情(アニメ星のカービィ95話さながらのデビルカービィ)になるカービィや、ゲーム選択画面でも、幕の内弁当のように、それぞれの特徴を引き出したグラフィカルなUIを使うことでも、プレイヤーにワクワクさせるおもてなしを感じます。このセッションは「CEDiL」にて公開され、スライドだけでもUIのデザインの勉強になると思います。

各セッションで説明していただいたことの中には、すぐに役に立ちそうな技術や工夫がたくさんありました。また、今すぐには役に立ちそうにない技術でも、ゲームを作る上での考え方を学んでおくことで、いつかアイディアとして役に立ってくれると感じています。

とりわけCEDECに参加してよかったなぁと思えたのは、自分以外のゲームを作る人々の姿が見えたことです。制作中は、ややもすると自分本位になり、視野が狭くなりがちです。年に一度他の開発者さんたちの工夫や技術を見ることで、より大きな視野で業界を俯瞰することができるのだと感じました。熱量を持った開発者さんたちの姿を見て刺激をうけ、自分も業界を盛り上げていければいいなと思うことができました。

その意味で「すべてを出し尽くせ!FINAL FANTASY VII REMAKEにおける泥沼サウンド制作秘話」も好きなセッションの一つです。ゲーム音楽のプロと言われるような方々が、新しい技術に挑戦し、問題にぶつかり試行錯誤しながら泥沼を這うように必死に解決していく。そして次の作品でもその経験をちゃんと活かす仕組みづくりをする。その制作プロセスに、納得のゆく物づくりをするこだわりと、エンターテイナーとしての生き方の流儀を感じることができました。一戦で活躍するクリエイターたちが、一見地味に見える制作過程と真摯に向きあう様子は、自分に大いに影響を与えると思います。

初めてCEDECに参加して、ここは毎年参加する価値のある場所だと感じました。「クオリティを引き上げる!Unity HDRPのライティング、カメラ、ポストプロセス設定」など、Unityでのライティング設定ですぐに使えるような技術紹介もあり、また「VRでの恐怖体験を作り出すゲームデザインと演出」など、VRのゲームの演出面の先行事例としての創意工夫を共有していただけるセッションもありました。今回いただいた知見や技術、ゲームに向き合う姿勢を維持し、1~2年のうちに、自分で制作したゲームを公開したいと考えています。

最後になりますが、今回のCEDEC参加にあたって、講義で情報を共有していただいた小野さま、勉強になる場を提供してくださった長久さま、鈴木さま、スカラシップの皆さま、IGDA Japanの皆さま、オンラインでの交流で貴重なお話を聞かせていただいた皆さまにお礼申し上げたいと思います。もしよろしければ今後もつづけて交流させていただけたら幸いです。

東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻ゲームコース 油原 和記