IGDA日本の子供向けWSの5年間の歩み

デジタルからくり装置作りワークショップ in 高松 開催レポート|情報通信交流館(e-とぴあ・かがわ)|note

IGDA日本SIG-4NGは中山隼雄科学技術文化財団(以下、中山財団)から助成を受け、2016年度から5年間にわたり(2020年度はコロナ禍により半年間延長)Unityを用いた子供向けのワークショップを実施してきました。このたび助成が終了しましたので、これまでの歩みを簡単に整理します。

本ワークショップの実施背景には、プログラミング教育の実施計画をうけて、全国でさまざまなワークショップやプログラミング教室などの増加がありました。こうした動きは歓迎すべきものでしたが、一方で下記のような問題があるように感じられました。

  • 実施が都市部に偏っている
  • 集団ではなく個別の学びに留まっている
  • プロのゲーム開発者の知見が生かされていないものが多い

そこでSIG-4NGでは福島ゲームジャムなどの開催経験をもとに、下記の要件をみたすワークショップ教材を開発し、助成をもとに実施することとしました。また、2016年度~2018年度はサードウェーブデジノス様、2019~2020年度はTSUKUMO様にゲーミングPCの機材協賛をいただきました。

  • プロと同じ道具(ゲーミングPC、ゲームエンジン=Unity)を使って、遊びのコンテンツを制作する
    • プログラミングではなく、コンテンツ制作体験を主眼とする
  • 得意分野が異なる複数の参加者が集まって、オンライン上で共同制作をおこなう
    • レベルデザイン(論理思考力)とキャラクターデザイン(ビジュアルデザイン力)の融合
  • プロのゲーム開発者が地方におもむいて開催する
    • 自治体&学校関係者、ゲーム&IT開発者コミュニティなどどとの協業

そのうえで実施したのが最大10名で制作するドミノ倒しです。参加者ごとに小さなドミノ倒しのステージを作って、それをUnity Collaborateでマージさせ、スタートからゴールまでドミノとボールの動きを伝えていく内容になります。参加者が好き勝手にドミノを配置してしまうと、途中でドミノが倒れず止まってしまうことに。これにより、自然に協業の楽しさを演出することが目的とされました。

デジタルからくり装置作りワークショップ in 本郷(2/16) | Qulii(キュリー)
デジタルからくり装置作りワークショップ in 高松 開催レポート|情報通信交流館(e-とぴあ・かがわ)|note

第一期となる2016年度は福島県郡山市、東京都調布市、京都府精華町。2017年度は東京都文京区、山口県周南市、神奈川県逗子市。2018年度は岡山県高梁市、島根県大田市、東京都文京区、富山県魚津市で開催しました。いずれも大好評をいただきました。

一方で実際にやってみて分かったこととして、子供たちがこちらの狙いとは違った教材の活用をしはじめたことがありました。ひらたくいえば、ドミノを並べるのではなく、ステージを破壊して遊び始める例がみられたのです。一方でガチガチにステージを触れないようにしてしまうと、子供たちの自発性を損なってしまいます。

また、当初はドミノをCTRL+C、CTRL+Vでコピペするように説明していましたが、子供たちにとって複数のキーを同時に押すという行為は、けっこう難度が高いものでした。また、オブジェクトをコピペした場合、エディタ上では複数のオブジェクトが完全に重なって表示されるため、あやまって何度もコピペをしてしまう、といった状況が見られました。

そのためエディタ拡張でUnityのUIを修正し、専用のコピペウィンドウを作ったり、複製後にできたオブジェクトが少し離して表示されるようにしたりと、回を重ねるごとに細かい修正を重ねながら、教材の使い勝手を向上させていきました。

こうして3年間の助成期間が終了したところで、中山財団から以下の条件を前提に、2年間の追加助成をいただくことができました。

  • ドミノ倒しにかわる新しい教材開発
  • 女子参加者の比率向上
  • 広報展開の強化

そこで第二期では、ドミノ倒しという基本フォーマットはそのままに、ステージを上下ではなく水平に配置して、ワークショップ開催地域の地形データを流用してフィールドを作りました。これにより、チュートリアルで自分が住んでいる場所や、地域の名所旧跡などにフラグを立てたり、名前を記入させたりといったことが可能になりました。

一方で2019年度は年明けからコロナ禍の影響を受け、ワークショップの開催中止が相次ぎました。これにより2019年度は島根県出雲町、東京都文京区での開催に留まりました。また2020年度は香川県高松市で開催したほかは、オンライン上で指導者向けのワークショップを開催したに留まりました。5年間の総参加者数は232名で、女子児童・生徒の参加率は第一期が18.9%、第2期が28.2%となりました。

このワークショップを通して、我々は多くのことを学びました。第一に本ワークショップは、子供から大人まで多くの人に楽しんでもらえるものとなりました。中には親子連れで参加いただき、子供より大人の方が夢中になる例も見られたほどです。

また、子供の意外な側面や才能を抽出できたように思います。高校生の参加者にもなると、錯視を活かしたレベルデザインをおこなったり、カメラの外側にボールを移動させるような、トリッキーな動きを可能にするレベルデザインをおこなったりと、創造性が遺憾なく発揮されました。小学生の参加者からも、クレヨンによるお絵かきワークショップで非凡な作品が続出しました。

一方で、大人でもまごつくUnityエディタ上でのマウス操作は簡単にマスターしてしまうのに、キーボードでの入力動作を苦手とする子供たちが多く見られました。他にローカル環境では正常に動作するのに、オンライン上でマージするとうまくボールが次のステージに転がらなくなるなど、オンラインでの協業の難しさと、そこから得られる学びが観察されたのも発見でした。

デジタルからくり装置作りワークショップ in 高松 開催レポート|情報通信交流館(e-とぴあ・かがわ)|note

最後に本ワークショップの今後の課題について述べます。ゲームエンジンを用いた共創目的のワークショップとしての価値は、現在も高いと自負しています。ただし、それは本ワークショップの展開のしづらさと表裏一体であり、そこがジレンマにもなっています。

まず、本ワークショップの最大の特徴はUnityのエディタを参加者に触らせる点にあります。そのため、ファシリテーターはUnityの経験者に限られます。また、Unityのバージョンアップにともない、教材をアップデートしていく必要があります。教材をアプリ化することも可能だと思われますが、それでは「プロと同じ開発環境でコンテンツ作りを体験する」ことにならないため、難しいところです。

また、本ワークショップの特徴はプロのゲーム開発者が直接、参加者に指導する点にあります。まさにそれこそがIGDA日本ならではの付加価値であり、差別化要因にであるわけですが、それでは実施に限界があります。一方で動画マニュアルなどを作成するのでは、「プロのゲーム開発者が教える」ことと矛盾してしまいます。痛し痒しな点だと言えます。

最後にオンライン上でのワークショップが難しい点があります。エディタを直接触らせているため、参加者が予期せぬ箇所を触ってしまい、トラブルが発生する可能性があります。PCがフリーズして再起動が必要な状態も起こりえます。オンラインでは迅速な対応が難しいため、やはり対面で実施することが求められます。そうなると、広がりが限定的になってしまいます。

いずれにせよ、本ワークショップの全教材はネット上に公開されていますので、ご興味がある人がいれば、ぜひチェックしてみてください。長文ありがとうございました。