2005年のゲーム開発ワークフロー/エースコンバット5におけるMaya活用例(再録)

LINEで送る
Pocket

自宅のハードディスクを整理していたら、おもしろい記事を見つけました。PS2「エースコンバット5におけるMaya活用例」で、Mayaの開発を行っていたエイリアス・システムズの依頼で取材記事を作成したものです。2005年の春にアップされましたが、同社がオートデスクに買収されたことでリンク先が消失していました。オートデスクに再掲載について問い合わせたところ、過去記事であることを明記してもらえれば問題ないとのことでしたので、再録いたします。

俗に10年一昔といいますが、この記事を読むと日本のゲーム開発もずいぶんと進化してきたことがわかります。2005年といえばXbox 360が年末に発売される年で、GDC 2005ではHDゲーム機の登場を前にアセット管理やコンテンツパイプラインの整備が課題となっていました。一方でこうしたツールの活用事例が、日本でも徐々に公開されていった時期でもあります(自分にとって最初期の開発系インタビューでもあります)。懐かしいなあと思って読んでもらえれば幸いです(企業名・役職名などは当時のママ)

=========================

Alias 3December エースコンバット5メイキング
エースコンバット5におけるMaya活用例
株式会社ナムコ CTクリエイターグループ

菅野昌人(リアルタイム系グラフィック担当デザイナー)
志磨雅則(テクニカル担当プログラマー)
細谷祐恭(ムービー担当デザイナー)

−−まず最初に「エースコンバット5」の概要について、簡単に教えて下さい。

志磨:はい。「エースコンバット5」(以下「5」)は、3D空間の中である程度リアルな戦闘機の操縦感覚を楽しむタイプのゲームです。いわゆるフライトシミュレーションではなく、「フライトシューティングゲーム」と呼んでいます。複雑な操作を必要とせず、初心者でも簡単に飛行して、敵機を倒すことに集中できるのがその理由です。1995年に第一作が発売され、現在までに5作が発売されています。

<シリーズの歴史>

エースコンバット (PS) 1995年 220万本
エースコンバット2(PS)  1997年 110万本
エースコンバット3(PS) 1999年 115万本
エースコンバット4(PS2) 2001年 230万本
エースコンバット5(PS2) 2004年  30万本

*世界市場、ベスト版含む(「5」のみ国内、通常版のみの販売数)

シリーズを通して追求してきたことでもありますが、「5」の特徴の1つとして、美しいビジュアルが上げられます。ビジュアルに関しては、PS2の機能を十分生かしたものに仕上がっていると思います。キャンペーンモードではシナリオに力を注いでおり、プレイヤーはあたかも自分がエースパイロットになった気分を味わえます。ミッションの幕間には、プリレンダのムービーを使用してストーリーに厚みを持たせました。前作「04」ではボリューム不足との声もあったので、今作ではそれを踏まえ、約2倍のミッション数と3倍のマップ数、計55種類の地形データを用意しています。ゲーム中に流れる無線メッセージなども、2万個以上の台詞を収録しました。

菅野:これらの要素に加えて、「5」の根幹となるのが、「仲間と共に飛ぶ」ということです。今まで述べた要素もすべて、ここに結実しています。

−−開発期間について教えて下さい。

志磨:開発開始は前作「04」が発売された、2001年9月からです。1年半くらい少人数のスタッフで企画を進めて、実際にMaya上で素材作りに入ってから1年半〜2年くらい。全体で約3年ほどかかりました。開発メンバーは、ピーク時には80名ほどいました。特にプロジェクト後半はスケジュールが押して、急速に人数が増えましたね。

<スタッフ概要>

企画(プロデューサー・ディレクター含む)    11名
プログラマー(ツール・テクニカルサポート含む) 10名
マップ担当デザイナー               9名
戦闘機・コクピット担当デザイナー         9名
ムービー担当デザイナー             30名
サウンドデザイナー                5名

◆ムービー制作について

−−それではムービーシーンから実際の制作過程を教えて下さい。

細谷:「04」では幕間劇にアニメの止め絵による表現を採用しましたが、「5」では前述の通りCGのプリレンダリングムービーを採用しました。市場調査の結果に加えて、今回の「仲間」というテーマを表現するには、ムービーによるキャラクターの表現が必要でした。全編を通したムービーのテーマは「戦争映画」です。戦場における人間ドラマ・群像劇の表現が課題でした。ゲーム部分では無線で仲間同士が会話することはあっても、実際のキャラクターは画面上に表示されません。そこで地上に降りた時に、仲間の存在感を補完する意味もありました。

−−ムービー制作で特にこだわれれた点はなんですか?

細谷:過去のCGムービーでは、実写に比べてカメラが過剰な動きをしたり、実際には配置できない位置にカメラがあるなどの演出が多く見られました。そこにはCGならではの絵づくりという理由があったと思います。「5」ではこれを排除し、カメラの位置を現実的な場所に制限したり、画角を考慮するなどして、「画面レイアウトを基盤にした映像構成」にこだわりました。ワンカット上ですべての情報を操作して、情景で物語を語るという感じです。3DCGの素材を使用した、2Dアニメーション的演出ともいえるでしょうか。

他に「戦争」にリアリティを加えるため、あえて日常的な生活感を表現し、プレイヤーに見慣れた状況を多く描いています。これにより戦争が遠い世界の出来事ではなく、実は身近に起こりうる物だと感じてもらえるように努力しました。

また、今回は人間ドラマの要素が強いということで、演技指導のスタッフを新たに設けて、モーションキャプチャの収録時から3DCGのキャラクターの動きまで、すべて一貫して演技の統一感がとれるようにしました。またシーンの状況やキャラクターの心情を画面の色味や印象で表現できるように、専門のカラーコレクションのスタッフも設けました。

−−作業のワークフローについて教えて下さい。

<ムービー制作のワークフロー>

1:絵コンテ制作
2:イメージボード製作
3:モーションキャプチャ
4:プレビジュアライゼーション
5:背景のレンダリング
6:キャラクターのレンダリング
7:最終調整

実際のワークフローについては、通常のムービー制作と相違はあまりありません。まず絵コンテを作成し、それを元にイメージボードを作成します。ロケーション設定の後でモーションキャプチャーを行います。次が動画コンテの作成です。ここで演技とカメラの動き、物の配置、大まかなライティングの方向性を全て決定します。プレビジュアライゼーション、2Dアニメーションにおける画面レイアウトの段階ですね。この設計図を元に、背景チームがレンダリングを行い、それを元にキャラクターチームがレンダリングして、各素材を最終クオリティにまで仕上げていきます。

最後にコンポジット・カラーコレクションチームによって、最終のカット単位ごとの映像ができあがり、ディレクターの手によって編集が行なわれ、ムービーの最終データが完成します。

−−モーションキャプチャ時に留意された点はありますか?

細谷:モーションアクターさんの「動作の整理」に気をつけました。モーションキャプチャを行うと人間の実際の動きに近い、生々しい演技データが収録できますが、逆に動きのメリハリがなくなる傾向にあります。また今回は2Dアニメーション的な画面レイアウトを用いたので、その中であまり生々しくキャラクターが動いても、絵としてギャップが生じてしまうんですよ。そこでアクターさんの動きを整理して、押し殺した演技で各キャラクターの感情や個性を表現することに注力しました。

そのため、まず各キャラクターの細かい設定を煮詰め、性格づけや特徴的なしぐさなどを決めました。その上で俳優をオーディションし、キャラクターのたたずまいを表現できるアクターさんを選択して、なるべくデータの修正前の状態から理想とする演技をしてもらえるように心がけました。アクターさんは全部で5名です。メインキャラクターを担当してもらう一方で、エキストラの動きも兼任してもらっています。

−−フェイシャルアニメーション(表情の動き)についてはどうでしたか?

細谷:キャラクターのモデルについては社内で使われている人体のスケルトン基本構造を使用し、「5」用に多少カスタマイズを施して使用しています。フェイシャルについては、スケルトンベースの自社フェイシャルツールを使用しました。日本語・英語に両対応しており、wavファイル化した台詞データから母音を自動解析して、リップシンクロアニメーションを生成する仕組みです。これらはすべてMaya上で動作します。ただ「5」では、英語のリップシンクロのタイミングにあわせたフェイシャルになっています。2回アニメーションをレンダリングして、異なるデータを持つのは効率が悪いですから。そのため日本語の台詞収録は洋画の吹き替えに近いスタイルになっています。

眉毛や頬の動きなど、細かい表情付けについては、ツールに登録されているスライダーを動かすことで行います。髪の毛の動きに関しては一部の仕様に留まっており、演出として狙った動きの部分はボーンで制御し、その他の動きに関してはMayaのClothシミュレーションを適用して対応しています。

当初はアクターさんとは別に、声優さんによる台詞収録時の映像をビデオで撮影し、フェイシャル付けの参考にする予定でした。ただ、これはあまり参考になりませんでした。声優さんは台本を見ながら喋るだけで、感情まで表情には出ませんから。そこでモーションキャプチャ時にあわせて撮影したビデオを参考にしました。今回はモーションキャプチャといっても、演技指導がついた、実際の演技に近い物でしたから。またビデオカメラも画面レイアウトとなるべく同じ配置や画角に設定して、そこから見えるアクターさんの表情が参考にできるようにしました。

◆背景について

細谷:次に背景に関してです。前述のように今回は2Dアニメーションに近い絵づくりなので、レイアウトを厳密に決めて作成しています。そのため、いちどアングルを固定してしまえば、画面の密度が足りない場合でも、後からオブジェクトを追加配置するのが容易でした。

また背景で最も重要視したのが画面内における光の印象です。同じ場所、同じカメラアングルでも、時間、状況によって、色味とライティングを大きく変更しています。時間帯の変化が一番大きいのですが、キャラクターの心情を表現できるように、隠された事実が判明したシーンでは絵の青みを強くするなど、色味の工夫をしたシーンもあります。

−−ライティングとレンダリングには何を使われましたか?

細谷:Mental Rayで行なうFinal GatheringとGlobal Illuminationを採用しました。あらかじめ屋外用、屋内用にある程度共通化された設定を作成し、デザイナーがパラメーターをインポートすることで、若干の手間を省くようにしてあります。背景が止め絵で動きが少ないぶん、物の存在感や立体感をきちんと表現する必要がありました。そのため処理に時間はかかるんですが、いちばん陰影がきちんと出るRadiosityを採用しました。

ただ背景には一部にシーケンス(カメラの移動に伴い背景が移動する)シーンが含まれています。こうしたシーンを単純にFinal Gatheringでレンダリングすると、絵にノイズが混じりやすく、一枚の絵をレンダリングするだけでも非常に時間がかかります。そのため、今回はいちどFinal Gatheringでレンダリングした背景画像を、Cameramapで全部のモデルにテクスチャとして貼り付ける方法を取りました。

−−具体的にはどのように行うのですか?

細谷:まずシーケンスで写る、全ての範囲をカバーしているカメラで、一枚Final Gatheringでレンダリングします。その後、SurfaceShaderを適用したモデルに、先ほどのカメラからCameramapします。こうすることで多少のパンなどに耐えられ、かつレンダリングが早い状態のシーンを作ることができます。これによって、ノイズの問題やレンダリングの時間が短縮し、かつ、光のやわかな印象も保つことができました。修正に関しても、カメラマップ用の画像を一枚直せばすぐにシーケンスレンダリングが可能なので、非常に有効な方法でした。

また、海や雲などの表現にはMayaのFluid Effectsを使用しました。海の作成にはバンプマップ等でそれらしく見せる方法もありますが、カメラのアングルや、表現したいものの特性上、FluidシミュレーションのOceanシェーダーを使用して、なるべく本物に近い動きにさせています。雲に関してはカメラに近く、3Dとして認識されやすい場所にFluidエフェクトを多用し、それ以外の部分にはCameramapを利用して、雲の中をカメラが突き抜けるシーンを再現しています。

−−大変な手間ですね。

細谷:ええ。そのため3DCGでモデルを作るのが大変なシーンでは、費用対効果を考えて、マットペインティングや実写のカキワリなども使用しています。マットペインティングを用いた背景には山脈の一部などがあります。フォトショップで描きましたが、手描き感を抑えるためにタブレットを使わず、マウスだけで絵を描くようにしました。

森林のシーンでは、ドライブゲームのコースと同じ作り方をしています。ラリーゲームなどでは雪に覆われた森林地帯などが登場しますよね。ああいったコース上で使う木の表現には、一般的に2枚のポリゴンの板を十字に組み合わせて、そこにテクスチャーを張ってそれらしく見せる手法を使います。「5」ではムービーの背景なので多少贅沢にポリゴンを使いましたが、考え方は同じです。カメラアングルが固定されているため、ごまかしやすいのと、本当にポリゴンモデルで作ってしまうとレンダリングの時間が非常にかかってしまうため、あえてリアルタイム系の絵づくりと同じやり方にしてあります。

◆キャラクターについて

細谷:次にキャラクターです。「5」でムービーに登場するキャラクターの総数は全部で41体で、そのうちメインキャラクターが13体でした。ファンタジー系のゲームやアニメーション作品などでは、衣装がキャラクターごとに固定されている例が多いと思うんですが、「5」では砂漠地帯の戦場から極北の基地まで舞台が多岐にわたるため、状況によって衣装を変えています。メインキャラクターでは最大5種類。寒いときは防寒着を着て、リラックスしている時はラフな格好をしているなど、現実では当たり前な表現をCGでもきちんと再現し、映像にリアリティをもたせています。

衣装の変更を効率的に行うために、キャラクターのウェイトのコピーペーストツールを社内で作成し、服装を変えても簡単なウェイト調整ですむようにして、作業の高速化を計りました。またシーン数、カット数、服装などのバリエーションを増やすと、ケアレスミスも増加するのですが、これを防ぐためにMayaのMELスクリプトでシーン構築を行ないました。

−−MELスクリプトの指定はどのように行うのですか?

細谷:キャラクターのモデルや衣装、背景などのモデルはファイルサーバに収まっています。これをクライアントPCからシーンごとに呼び出すときに、画面上に一つずつ配置するのではなく、MELのテキスト上で「ナガセの服は半袖のシャツで・・・」という風に指定して、全体を確認してから、バッチ処理で呼び出すという形です。これでケアレスミスをできるだけ抑えるようにしました。一度レンダリングした後で「軍服の指定を間違えた」となると、再レンダリングの時間が無駄ですからね。

またキャラクターのライティングについては、Final GatheringやGlobal Illuminationを使っていません。背景と違ってキャラクターは動いているからです。「5」のムービーは約50分、これをすべて背景と同じ手法でレンダリングするのは、時間的に不可能でした。そのため質感をあわせるために、全天候ライティングを基本としたキャラクターライトセットを作成し、背景で実際に使用されたライティング情報を基にしてレンダリングしました。

−−カラーコレクションについて教えて下さい。

細谷:カラーコレクションは今回の絵づくりの要でした。シーンに応じた光や色合いを加え、画面に深みを出すには必須だったからです。シーンによっては見せたい箇所の光を強めて視線を誘導させるなど、2Dアニメーション的な演出もしています。3DCGは実写映像よりも画面の情報量が少ないので、絵づくりにメリハリをつけないと、画面が平坦に見えてしまう恐れがあるからです。このように全体としてはフォトリアリズム系の絵ですが、ノン=フォトリアリズム的な良さも取り込もうとしました。またCGではキャラクターと背景の境目がシャープに出る傾向があるため、最後にAfterEffectsをかけてキャラクターの縁をソフトにし、全体的なイメージに気を配りました。

他にゲームとムービーの温度差をなくすため、なるべくリアルタイム部分とムービーが同じ色味になるように調整を施しました。これによってムービーとゲームを一つの物として認識してもらえるようにしています。これは後でリアルタイム系の映像制作で詳しく説明します。

−−ムービー制作におけるMayaの有効度はどうでしたか?

細谷:Mental Rayが使用できた点が大きかったですね。ただ今回はMaya4.5を使用したこともあり、もう少しMental Rayとの親和性がよければ……と感じる部分もありました。シーケンスでもFinal Gatheringが使えるように、もう少し実行速度が速くなるといいですね。まあ、これは他のツールでも同じだと思いますが。

他にFluidの高速化、Depth mapシャドウのコントロールのしやすさなどが向上するといいと思います。「エースコンバット」シリーズは戦闘機を題材にしたゲームなので、雲の中を戦闘機が突き抜けていくような表現をもっとやりたいんですよ。ただ現状では計算に時間がかかるので、もっと処理が高速化できれば、積極的に使えると思います。

◆リアルタイムパートについて

−−次にリアルタイム系のグラフィック制作について教えて下さい。

菅野:はい。はじめに「5」のリアルタイム系のビジュアル特性とコンセプトについてお話しします。その後「5」のポイントであるマップ制作のワークフローについて説明します。

前述の通り「エースコンバット」シリーズは「広い空間を飛ぶ」という点が大きな特徴です。ここがドライブゲームやFPSなどと大きく異なるところです。これをビジュアル的にいうと、大量のデータを用いて広大な空間を作り、かつ高速に描画を制御するという、矛盾した目標を持つジャンルだといえます。

さらに「5」のゲームコンセプトは、何度も出てきたように「仲間と共に飛ぶ」というものでした。そのため人間のスケールを感じさせる画質や、今までより精細かつ多様な空間表現、そしてプレイヤーや各キャラクター達の心情を反映した色彩設計が必要でした。これをかみ砕いていくと、グラフィック素材の物量が、「04」に比べて飛躍的に増加した、ということです。

−−よりリアルなゲーム画面を追求したと言うことですね。

菅野:はい。もっとも、映像のリアリティレベルが向上したからといって、他の製品と差別化できるとは限りません。製品が本来持っているポテンシャルをデザイン面で上手く引き出すこともビジュアルデザイナーの役割です。例えば地形や兵器のデザインから、自然表現のデフォルメ、空間の色彩設計等などがあげられます。「5」ではこれらを総称して「ストレンジ・リアル」というビジュアルコンセプトを掲げました。

直訳すると「奇妙な現実感」という変な日本語になりますが、これは高いところから地上を見下ろす、視点変化による非現実感や、戦時下という状況・兵器そのものが持っている非日常性などをより高め、わかりやすくユーザーに提供する為の姿勢です。余談ですが「エースコンバット」シリーズでは、特にこの「わかりやすさ」を重視しているので、ビジュアルだけでなく、操作感覚や世界設定等もあまり難しくしていません。フライトものでありながら、多くの方に受け入れられている理由はこの点にあると考えます。

−−なるほど。

菅野:前作「04」のビジュアルは、衛星写真を用いた写実的な地形や、量感の感じられる雲エフェクトなどで好評を頂きました。ただ、いくつかの点で明確な課題も残りました。例えば地形テクスチャの解像度が粗く、低高度で機体のロールを繰り返すと天地がわかりにくくなるだとか、オブジェクトのスケール感が狂ってしまい、地上の戦車のサイズが良くわからなくて、地表までの距離感がつかめないだとか。他に爆発エフェクトの質感も不足していた、などの反省がありました。

そこで「5」では、まずこうした「04」に残された課題点の重点的な対応をめざしました。ディティール・テクスチャリングの追加で、地面に近づいた時でも精緻な絵を描写するなどはその一例です。これは最近でこそPCゲームなどで一般的になりましたが、開発当初はまだ最先端の技術でした。こうした課題点を修正した上で、「5」ならではの見せ方を考えていくことになりました。

◆開発環境の見直し

PS2も発売から4年が経って、ゲームグラフィックをとりまく環境も大きく変わってきています。近年コンソールゲームは、DirectXを初めとしたPCベースの高性能な3Dテクノロジーに追従する形になっていますが、北米や欧州のゲームユーザーは、日本と異なりコンソールマシンやPCの市場格差を特に感じないで製品を購入しています。「これはPCだから」「PS2だから」といった区別がない状態で評価される訳です。つまり単純に競合商品が増えている、ということです。

そこで「5」では「04」のリソース配分を見直して、PS2のGPU特性に絞った開発をすることで、映像進化の足がかりとしました。具体的には雲や樹木、大気等の自然表現にハードリソースを多く割いています。PS2はエフェクト表現に強いと言われますが、これはPS2には同一の絵なら画面にたくさん配置しても、それほどGPUに負荷がかからない、というハード特性があるからです。こうした特性を「04」よりも、さらにうまく使いこなすことが課題でした。

−−よくわかります。

菅野:まあ、総じて「5」では物量への対処という点が大きな課題でしたね。自機についても、僚機についても、マップのシチュエーションや、その構成要素についても「04」に比べて格段に量が多い。これら素材データの効率的な作成と管理が大きな課題でした。

そこで我々は「04」の開発環境を抜本的に見直し、新たにMayaをポータルにした開発環境を再構築しました。今まで別のツールで行っていた機能を統合したい。テクスチャの減色など、めんどうな工程を自動化したい。最終データのコンバートもMayaから出力したいなどです。そのうえで必要な場合は、Windows上で動くサポートツールを新たに作り、MayaとWindows上での作業の切り分けを行いました。

−−開発環境の違いを具体的に教えて下さい。

菅野:はい。ここは「5」の開発環境の特徴なので、少し詳しく説明します。例としてMaya上で3Dのグラフィックデータを作成して、それをPS2の開発ターゲットであるDTL-T10000上に表示させ、オーサリングを行うという、一連の作業手順を考えてみます。

「04」では、まずMaya上で作成したデータを外部のコンバータに送り、PS2で表示できるデータ形式に変更してから、DTL-T10000上で表示させていました。その上で最終的な画面の色味や雲の形などは、DTL-T10000に付属のデュアルショック(ゲームパッド)を操作して、実機上のビデオメモリに直接アクセスする形でオーサリングしていました。この開発環境は以前から自社で構築していたものです。

ただ、このデュアルショックによる操作は非常に複雑で、一部の職人的なデザイナーしか使いこなせないものでした。微細な色の修正をアナログボタンの押し加減で調整したり、メニューも複雑で直感的ではありませんでした。

もともと実機上のビデオメモリに直接アクセスしてオーサリングする考え方は、弊社の業務用ドライブゲーム開発の現場などで生まれてきたものでした。昔はステアリングホイールを操作してオーサリングするなどの例もあったようです。たしかに実機上で調整できるのは便利なんですが、操作がわかりにくくて、各プロジェクトに依存する率が高い。汎用的なツールにはなりえなかったのです。

−−聞くだけで大変そうですね。

菅野:これを「5」では、コンバータをMaya上に実装させ、グラフィックデータを直接DTL-T10000に送れるようにしました。その上でオーサリングもデュアルショックではなく、マウスオペレーションで行えるように変更しました。DTL-T10000のビデオメモリにアクセスするのは同じですが、それをWindows上からアクセスできるようにしたのです。これにより操作が直感的になり、発展性を見越した開発環境を構築できました。

またマップ制作に伴うさまざまな作業を、Maya上からワンクリックで行えるようにバッチ処理化し、作業効率を上げると共に、ケアレスミスを減らすようにしました。これについては、プログラムの志磨から改めて説明します。他にゲーム中で全天を覆う天球を編集するエディターや、雲や樹木などの分布、天候やエフェクトの設定、各オブジェクトに適用されるライティング等、その他もろもろを制御する統合オーサリングツールなどをWindows上のツールとして作成しました。これによって物量の拡大に対応を図りました。

◆マップ制作のワークフロー

菅野:「5」のマップ制作におけるワークフローは下記の通りです。

①企画より提案された仕様、シナリオからマップイメージの作成
②地形メッシュ、建造物等の基礎モデル作成
③樹木やディテールテクスチャ等の詳細素材作成
④他のパート(ムービーや敵配置等)との整合性確認作業
⑤色調や処理負荷等への最終オーサリング

実際はもう少し枝葉が分かれた部分もありますが、大枠としてはこの通りで、非常にシンプルな構成です。基本的にマップごとに、この工程を一人のデザイナーが進めることになります。

「5」のマップ制作は少々独特で、あまり分業をしませんでした。通常はモデリングやテクスチャ、ライティングなど各パートごとで分業を行うかと思います。しかし「5」の場合は、リソースの配分や細部のデザインをある程度担当デザイナーに任せる方がパフォーマンスを発揮できる、という仮説からこの様なワークフローになりました。一人の人間が一つのマップを完遂することで、制作に対するモチベーションを維持したり、手順の把握によるデザイナー間の情報共有を目的としています。

①企画より提案された仕様、シナリオからマップイメージの作成

ここでは最初の段階として、ディレクターや企画者とマップの構成を練ります。写真やイラストなどで大まかにマップのイメージを固め、各面の技術的な仕様やビジュアルテイストを決定していきます。

今回は主な仕様や、ツールのマニュアル、ルールなどは「wiki」と呼ばれる、ウェブブラウザからページの作成・編集が可能なコンテンツサーバを使用しました。自由で即効性の高い強力なウェブツールです。ツールの使用法がマイナーチェンジされたときなど、すぐに誰でも編集できたので、非常に大きな効果を発揮しました。

②地形メッシュ、建造物等の基礎モデル作成

決められた仕様を元にモデリングやテクスチャリング、レンダーバーテックスなどを行っていきます。「5」のマップは約100kmの行動可能範囲を持っている関係上、Maya上で全ての範囲を作成するには無理がありました。そこで扱いやすいサイズのエリアをポリゴンメッシュでいくつか作成し、パズルの様にグリッド状に並べていく工程が必要でした。「04」はこの部分が別のツールで分けられていたので、非常に手間がかかっていたのですが、今回はMaya上で動く「マップエディター」というMELを志磨の方で作成し、ジオメトリの編集そのものは完全にMayaの中で完結できる様にしました。

マップエディターではビルの赤色灯や水面への映り込み、煙等のエフェクトを同時にMayaのアトリビュートエディタ内で設定でき、素材が揃った段階でDTL-T10000にコンバートできます。ポリゴンメッシュに貼られたテクスチャはバッチ起動された外部の減色ツール(OPTPiX)でまとめて処理され、同時に実機に転送されます。ワンクリックでコンバートが終るので、デザイナーは純粋に作業に没頭できました。地形自体の作成は、市販のレンダリングツールや実際のDEM「デジタルエレベーションモデル」等も使用しました。

他に「5」では仕様上の問題として、マップ上で建造物の位置を厳密に指定する必要がありました。このときマップのデザインはデザイナーの担当ですが、破壊可能な建造物のフラグ設定は企画者の担当となります。「04」ではこのデザイナーから企画者への座標指示をテキスト文書ベースで行っていましたが、「5」では数が多いためミスが増加することが予想されました。そこでMaya上でデザイナーがマップをデザインした後で、破壊可能な建造物の座標情報だけをHTMLデータ化して出力し、そのデータをWindows上のレベルエディタツールに取り込んで、企画者がフラグ設定を行う、という行程をとりました。これによりケアレスミスを抑えることができました。

③樹木やディテールテクスチャ等の詳細素材作成

PHASE2までは純粋に造形的な作業でしたが、「5」ではここから詳細な情報を付け加えていきます。主に樹木やディテールテクスチャ等の詳細な描写を画面に与える段階です。これらはMaya上で行うのは数が多すぎて大変なので、Windows上で「調整君」という編集ツールを開発し、樹木の大きさや種類、分布量、ディテールテクスチャの適用範囲等をリアルタイムで設定できるようにしました。「5」は前回よりも扱うデータが増えたので、樹木や雲などの自然物配置には、こうしたリアルタイムで編集できる機能が求められました。

④他のパート(ムービーや敵配置等)との整合性確認作業

先ほども細谷から簡単な説明がありましたが、「5」ではリアルタイム部分とムービー部分の差異を薄めるため、絵の整合性をとる作業も重要視されました。時間帯による太陽位置や天候、登場するオブジェクトの形状、配置場所などを、違和感のない様に調整していきます。ゲームの仕様に微調整が入った場合など、敵の配置が変わる事もよくあったので、マップ側で整合性をとることもありました。ロケーション設定についてはムービー側とリアルタイム側で共有しています。それまでの作業工程がシンプルで効率的な環境だったため、整合性を取る作業も比較的容易に行うことができました。地味ながらも、欠かせない工程です。

⑤色調や処理負荷等への最終オーサリング

最後の工程です。画面を構成する色調や、リアルタイム描画の処理負荷を最適化していくなどの、最終オーサリング作業を施していきます。Maya上でカラーバランスの調整を行ったり、見た目上で問題ないレベルでのポリゴンリダクションを自動的に行える機能を追加しました。そのためフォトショップなどでテクスチャの調整などをしなくても、Maya上で一括して作業ができる環境を構築できました。

同時に天球モデルの色ですとか、地形の描画範囲、雲の分布量、形状、天候などをWindows上のオーサリングツールで編集し、ゲームの処理量にあった描画に最適化していきます。オブジェクトへのライティングや、レンズフレアなどのポストエフェクトもこのオーサリングツールで行いました。

このように、今回の開発ではMayaのプラグインとして開発した「マップエディタ」を開発ポータルとして位置づけ、そこに適時Windows上のオーサリングツールを組み合わせることで、開発環境の効率化を進めました。デザイナー一人あたりの仕事量は「04」に比べて膨らみましたが、使用するツールをなるべく少なくしてストレスを減らしていった結果、質と量を兼ね備えた開発に対応できました。

◆リアルタイムデモ

菅野:最後にリアルタイムデモについて説明します。これはムービーと違って、ゲーム中の素材を用いて行うシーケンスの事です。戦闘機が飛ぶシーンなどで、プレイヤーが選択した機体が登場しなければ、おかしいですからね。Mayaのシーンで作成したアニメーションをPS2に反映させるシステムを用いて、約60本のリアルタイムデモを作成しました。

制作手順はムービーパートとほぼ同じです。絵コンテに音声を付けた動画コンテを作成し、それから必要なMayaオブジェクトをデータベースからインポートして、カット毎にシーンを構築していきます。エフェクトのアニメーションも、MELでセットアップしたオブジェクトを用いて作成してコンバートしました。これでカットデータが完成します。

その後は内製のWindowsツール「DDEditer」でカットデータを編集します。DDEditerはAfterEffectsライクなインターフェイスのツールで、Mayaで作成したカットデータを編集したり、カットデータにレターボックスやフェードイン・フェードアウトを挿入できます。こうして完成したムービーを、最終的にPS2上にコンバートして完成形となります。

なかには、ムービーの中にリアルタイムデモが挟まるシーンなどもあります。「MISSION 06 白い鳥I」冒頭の、吹雪の中でプレイヤー機がハイエルラーク空軍基地に着陸していくシーンなどがそうです。これなどは相互のテイストの調和を特に意識したところですね。

−−リアルタイム班としてMayaを使用した感想をお願いします。

菅野:デザイナーによって自由度の高い使い方ができたのが大きかったですね。Mayaはナムコ社内で標準的なCGツールになっているので、MELスクリプトやプラグインの豊富なリソースがあります。デザイナーによってこれらのリソースを自由に組み合わせて作業を進めることができたので、個々人にあった効率の良い作業が行えました。ツール開発者以外でもビジュアルのスタッフでMELを作成したり、自分なりの作成方法を編み出す事も容易でした。

ただ開発中はMaya4.5で統一したこともあり、統合を見合わせた機能もありました。最新版のMaya6.0のポテンシャル次第では、再度ツールの統廃合を進めて、文字通り「総合オーサリングツール」にまで昇華できるかもしれません。次世代ハードウェアでもポータルツールとして機能できるかどうか、今後も研究を続けていきたいと思います。

またMayaは習得が容易であるという事も見逃せませんでした。チーム内にはゲーム開発に始めて携わるデザイナーもいて、その者にとってはMayaが始めての3Dツールでしたが、意外とすんなり修得できたようです。ただ、これにはデザイナー個人のスキルの問題と、周囲のスタッフのMayaの習熟度の高さも関係しているとは思います。

◆開発環境について

−−最後に開発環境の整備について、もう一度整理していただけますか。

志磨:はい。一部繰り返しになるかもしれませんが、改めてお話しします。今まで何回も出てきましたが、「5」では3DのメインツールとしてMaya4.5を選択しました。理由としては、まず社内での実質的な標準ツールであること。そのためMayaに関するさまざまなノウハウが蓄積されていること。これにはプラグインやMELスクリプトの社内リソースの蓄積のレベルから、初心者でも周りに聞くなどして早く習熟できる、などの幅広い意味があります。さらにプラグイン、MELを使用したツールのカスタマイズが容易であること。あとは私自身がMayaになじんでいたことですね。もちろんエイリアスさんからのサポートの充実も考慮しています。

Mayaのバージョンは4.5で統一していました。途中で開発ツールをバージョンアップするのはリスクが大きかったためです。ただし、エフェクトの製作で3Dstudio MAXでレンダリングが行われたり、戦闘機モデルの製作で一部Softimageが使われるなど、Maya以外のツールも一部使われました。デザイナーごとの好みであったり、他のツールのほうが質のいいエフェクトがレンダリングできた、などがその理由です。実機へのコンバートでは、Maya上で動作するコンバータしか作らなかったので、他のツールで作成したデータについてはMaya上でインポータ・エクスポータのプラグインを作成し、それを使用しました。

−−マップエディタの仕様についてもう少し詳しく教えて下さい。

志磨:今回いちばん力を注いだのが、Maya上で起動するマップエディタと実機へのコンバータでした。まず「エースコンバット」シリーズはマップが広く、マップ全体を正攻法でデータ化すると、データ量が莫大になってしまいます。そのためマップデータの形式を工夫して、圧縮する必要がありました。先ほども説明がありましたが、たとえば1024*1024ピクセルのマップ用のテクスチャを、64*64ピクセルに分割し、個々のテクスチャの内部を比較して、同じ内容の物はインデックス化してまとめて並べる、などですね。

またデザイナーがワンクリックでデータをコンバートできるように、処理中にOPTPiXなどの外部減色ツールをMaya上で起動できるようにしました。他にPSDファイルをMayaに読み込んで、レイヤー情報で木をまとめて配置できるようにしています。マップ上に一本ずつ木のモデルを配置するのは大変なので、PSDファイルに木を配置したいエリアを別レイヤーで描き込んでもらい、それをMayaのコンバーターで読み込んで、指定エリアにまとめて木を発生させるなどのプラグインを作りました。そのうえで、個々の木のサイズなどは、前述の「調整君」でWindows上から調整できるようにしました。最終的にマップをMayaで製作してコンバート終了までひとつのツールで作業できるようにしてあります。

こういう地味ながらも涙ぐましい努力を舞台裏で続けていたわけです。完成までには1年半くらいかかりました。

−−MayaのMEL制作に留まらず、ワークフローの整備的な意味合いが強いですね。

志磨:プログラマーとデザイナーの作業の仲立ちをするイメージでしょうか。プログラマー側からの要望は単純で、こういう形式のデータが欲しいというだけです。それに対してデザイナー側がデータを揃える時「こういうインターフェースのツールはどうでしょうか」と僕の方から提案したり、試行錯誤した感じでしょうか。プログラマーの要望は変えられないですからね。一方でデザイナーには、より創造的なことに時間を費やして欲しい。

ツールを作るときは、まず自分で全行程を通してやってみるんです。するとすごく面倒で、時間をとられるわりにクリエイティブではない行程が、そこかしこにあることがわかります。それをMaya上でワンクリックですませられれば、ずいぶん開発が楽になる。ではどうするか、ですね。実際の作業は菅野と相談しながら進めました。

菅野:おかげで、マップエディタは非常にシンプルかつ高機能なものになりました。ビュワーを見ながらさまざまなタブを切り替えて、直感的に作業を行うことができます。作業中に動作がちょっと重いなと思ったら、瞬間的に軽いモデルに切り替えるなど、LOD(レベル・オブ・ディティール)の変更もできます。建物の配置状況にしても、単にカラーのインデックスみたいな感じで画面に並べるだけなら簡単でしょうが、実際のゲーム画面に近い形で表示してくれたので、デザイナーとしては非常に楽でした。

志磨:ただ、純粋に「5」用に作成したプラグインやMELスクリプトは、わずか十数個です。プロジェクトの規模にしては、そんなに多くないと思っていますが、そのかわり、一つ一つにかなり機能を盛り込んであります。また、社内全体で共有されているMELスクリプトやプラグインは数百個あり、それらも活用されています。

◆レンダリング環境

志磨:次にレンダリング環境です。今回は幕間がすべてCGムービーになるということで、最初にきちんとしたレンダリングファーム(レンダリングを専門に行うサーバ群)を作る必要がありました。

ハードウェアは1Uラックでも良いんですが、場所と電源をとるのでIBMのBladeCenterというブレードサーバを使用しました。14台のブレードが搭載されており、14台のPCで分散レンダリングをする形です。ただ最後のほうはこれでも足りなくて、15台のPCを追加してレンダリングしました。これらが半年強の間、朝晩回りつづけていました。HDDは2TBの物を用意し、最終的には1.5TBほど埋まりました。追加分のサーバは一般のPCだったので、サーバルーム内での場所と電源の確保、さらにレンダリング終了後の機材運用の手配などが大変でしたね(笑)。

なお、分散レンダリング用の管理ツールプログラムにはMusterを使用しました。バッチレンダリングの処理を効率よく複数のPCに割り振ってくれる、優れものです。スタンドアローン版のMentar Rayよりもコストが低かったので採用しました。

−−画質イコール時間という感じですね。

菅野:1秒のムービーにつき30枚の静止画が必要なので、1枚のCGを制作するのに1分のレンダリング時間がかかったとして、1秒間では単純計算で30分かかります。もちろん作業効率をできるだけ高めるため、さまざまな工夫はしたわけですが、製品としてのクオリティとボリュームを満たすために、必死でした。

志磨:昨今のゲームに用いるレンダリング用のPCの台数としては、他社に比べてそれほど多くないと思います。ただ小規模な割にはムービーの尺も質もそこそこ達成できたのではないでしょうか。

◆今後への課題

−−お話をお伺いしていると、物量への対処が最大急務の課題だったようですね。今後もビジュアル関連の作業量は増えることはあっても、減ることは考えられません。

菅野:そうですね(笑)。「O4」では高々度時の地形表現として衛星写真や、デジタル・エレべーション・モデルといわれる、実際の地形の凹凸を有効に活用したマップ作成に挑戦しました。ひるがえって「5」では、ディティール・テクスチャリングの追加などによる低高度での地形表現に挑戦しています。もしかしたら次世代では、さらに高々度での地形表現なども課題として出てくるかもしれませんね。少しずつゲームの内容によって、絵の表現が変わっていくでしょう。総じて大規模化傾向は避けて通れないところです。

−−Maya6.0の感想を教えて下さい。

菅野:現在はノーマルマップを用いた背景制作の研究開発をMaya6.0で行っています。ノーマルマップは法線情報を焼き付けたテクスチャを用いて、少ないポリゴン数で複雑なモデルの表現を行う手法の一つですね。同じような考え方でバンプマッピングという表現がありますが、ライトの位置やモデルの傾きが変わってもリアルな絵が保てるメリットがあります。さまざまなやり方があるのですが、どれが一番効率的で効果的か、研修を兼ねて試しているところです。

−−すでに次世代ハードの話も徐々に出始めていますね。ますます開発環境の整備が大変になるのではないでしょうか。

志磨:実際たいへんですね。次世代ハードになると使える機能も増えるし、それに環境も対応していかないといけません。ついていくのが大変ですね。それはテクニカルプログラマーだけでなく、デザイナーも同じでしょうが。

菅野:デザイナー単体で考えれば作業量は増えるでしょう。アメリカでは「ロードオブザリング」などを筆頭に、映画制作とゲーム制作の融合が進んでいて、映画の撮影段階でキャラクターモデルの3Dスキャンなどが行われたりしています。今後はゲーム開発でも他産業との連携が重要になるかもしれませんね。それが国内で完結するのか、海外企業と素材の共有化を進める体制を構築するのか、それはわかりませんが。「5」の80人という制作規模が次作でも続くか否かは不明ですが、次世代ハードでは、おそらくそのチームだけで制作が完結する、という形にはならないのではないでしょうか。これまで以上に他社とのコラボレーションなどが望まれていくのでしょうね。

−−過去にもモーション・キャプチャなど、外部からの技術導入による開発工程の簡略化がありました。そうした波が再度訪れつつある印象がありますね。

菅野:日本人のデザイナーには職人肌の人間も多いので、細かな作業にも対応できるとは思います。ただ、それだけにこだわっていると、ゲーム本編と関係ないところまで注力してしまう恐れもありますね。今後ゲーム制作に携わる我々としては、よりビジュアルを有効的に見せるオーサリングツールや、素材作成だけに時間をとらわれない制作環境を構築していく必要があるでしょう。マップデータ用の衛星写真などは、そのヒントかもしれません。いわゆるオペレータ的な人材は、今後減っていくんじゃないでしょうか。

「エースコンバット」シリーズにしても、他の製品にしても、そのゲームソフトの魅力の本質を開発者自身が正確に把握して、さらに発展させていくことを、きちんと考えていくことが必要、ということでしょうか。そのためにも、単純作業の時間をできるだけ効率化して、創造的な時間を増やしていきたいですね。そうでなければ、若いクリエイターがゲーム制作に魅力を感じて、入ってきてくれませんから(笑)。

(小野憲史)