書評『デジタルゲーム研究入門ーレポート作成から論文執筆までー』

書籍デジタルゲーム研究入門

小林 信重[編著] ミネルヴァ書房(2020) 2800円(税別) Amazon

先日、デジタルゲームを研究をするための手順と主要な方法論をまとめた本書が出版された。本来のターゲット読者は、卒論を執筆する大学生だ。しかし、その内容はゲーム開発者にこそ、大いに役立つ書籍である。ゲーム開発者視点でどう役に立つか、紹介したい。

本書は大きく5つのパートに分けることができる。「デジタルゲーム研究の歴史」、「研究の決め方」、「研究手法と具体例」、「論文執筆の仕方」、「デジタルゲーム研究の情報源」である。

「デジタルゲーム研究の歴史」では、その黎明期1970年から現在の2020年に至るまで、主要な研究にどのようなものがあり、現状どうなっているかが紹介される。ゲーム開発者にとっては、学術分野でゲームがどのように扱われてきたかが一望できる。しかも、この50年余りの歴史が、たったの30ページ弱で概要をつかむことができるのだ。

「研究の決め方」では、研究における必須の用語の定義が示される。「レポート」と「論文」の違い。「概念」と「専門用語」の扱い方など。「問い」の節では、研究に足るべき問いをどうやって立てるかが、「トポイ」「ビリヤード法」という手法を用いて、具体的に解説されている。

この「トポイ」「ビリヤード法」という手法は、ゲーム開発者にも役立つものだ。ゲームにまつわる、あらゆるアイデア出しの方法として、もしくはゲームをどう評価するかを決める問いをつくる方法として、活用できる。

学術の研究者との交流を持ちたいゲーム開発者にとってもは、学術分野の基本用語を理解しておくことは、必須だ。お互いの専門用語の定義の違いを理解することで、誤解の少ないコミュニケーションができるだろう。

「論文作成の落とし穴」の節では、ゲームを詳しいがゆえに陥る失敗とその対策を扱っている。続編をつくろうとしているゲーム開発者にも響く耳の痛い話なので、参考にしてほしい。

「研究手法と具体例」では、6つの手法が示される。「実験」、「質問調査(アンケートのこと)」、「テキストマイニング」、「資料分析」、「インタビュー調査」、「フィールドワーク」。これら研究方法は、主に社会科学・人文系、いわゆる文系の学問で用いられる手法だ。本書では、それぞれの研究手法について、概要、具体的なやり方、その研究手法を用いた論文執筆の具体例が、泥臭いくらい丁寧に説明されている。

ゲーム開発者にとっては、ゲーム評価手法として利用できる。ユーザーインターフェイスを「実験」する。テストプレイのユーザーに「質問調査」をする。ゲームセンターや電車内でのゲームをプレイしているユーザーを「フィールドワーク」する等々。マーケティングに属しているゲーム開発者には、お馴染みの手法かもしれない。

ただし、どの研究手法も、身に着けるまでには相当の時間がかかる。人にもよるが、なんとか使えるまでに2年(大学卒業程度)、身に着けるまで5~6年(博士相当)、使いこなすまで10年程度かかると言われている。特に「インタビュー調査」や「フィールドワーク」を極めるには、一生涯かかるとも。なので、6つの手法を全部を使いこなすまでに、かかる時間を単純計算すると60年になる。6つすべてをできる人など、皆無に等しい。なので、身に着けたいゲーム開発者は、どれか1つか2つを選んでほしい。研究者に協力を依頼する場合は、それぞれの研究手法ごとに、専門家とタッグを組んだ方が効率的だ。

「論文執筆の仕方」は、ゲームの企画書や、マーケティングのレポートを執筆する際の参考になる。

「デジタルゲーム研究の情報源」には、著名なゲーム研究の書籍20冊を紹介。1冊を除いてすべてが日本語で読める!! ゲーム研究者12名によるゲーム研究をはじめたきっかけと好きなゲームの紹介および、ゲーム研究をしている大学・大学院の一覧が収録されている。ゲーム研究者にアクセスしたいゲーム開発者には貴重な情報源だ。書籍がゆえ、残念なことがある。ゲーム研究をしている大学・大学院の一覧に掲載されている所属している研究者が最新情報ではない。研究者は、異動が多い。最新の情報は、DiGRAJapenのホームページ(http://digrajapan.org/)に掲載されているものを参考にしてほしい。

高橋 勝輝(IGDA日本 理事長)

 

<この書籍の執筆者による紹介記事>
電ファミニコゲーマー記事「“ゲームらしさ”をもっと深く語りたい!そんなあなたのためのゲームスタディーズ入門」
https://news.denfaminicogamer.jp/interview/200615a

日本デジタルゲーム学会・オンライン研究会『デジタルゲーム研究入門』著者陣が語る「デジタルゲーム研究の進め方」※後日、動画が公開予定
http://digrajapan.org/?p=7740

<この書籍のほかの書評>
R&DのRの方の話・書籍「デジタルゲーム研究入門」
https://note.com/tossyz/n/n7079042211aa