書評『伝える映像の設計図 ストーリーボードの教科書』

ストーリーボードとは何でしょうか? 見慣れない言葉ですが、日本では「絵コンテ」としてよく知られているフォーマットのことです。つまり、ラフなイラストに、演出の指示やセリフなどが書き込まれた、動画の設計図です。

本書はその、ストーリーボードを制作するための教科書となります。

著者のグレッグ・ダビッドソン氏は、カルフォルニア州の学校で「シネマティクス」コースを教えており、本書は実際の授業で使うために書かれたそうです。
 
本書は誰にどのように役立つのでしょうか?

一般的に、絵コンテといいますと、アニメや映画でのみ使われるもののように思われるかもしれません。しかしながら、本書の内容はアニメや映画に限定したものではなく、あらゆるエンターテインメントの制作に有用とされます。その例として本書では、広告やコンピューターゲーム、ミュージックビデオ、テーマパークのデザインがあげられています。私はそれに加えて、マンガやイラストにも有用であると感じます。ゲームにおいては3Dのみならず、2Dのゲームや、静的なイベント絵の制作にも役立つと感じました。

これほど広い分野に有用であるというのはどういうことかといいますと、すべての映像表現は、カメラワークやアングルの概念と切り離せないものであるからです。たとえ1枚の映像だとしても、そこにはカメラワークやアングルがあります。そして映像が2枚以上になり、それが連続したストーリーを表現する場合、そこには繋がり(コンティニュイティ)の概念が生まれます。

前の映像と次の映像をどう繋いでいけばよいのか? 繋いだ映像を不自然に思われないようにするにはどうすればよいのか? 制作者が思ったような効果を表現するには、どのようなカメラワーク、アングルの映像を用意し、次にはどのような映像を用意したらいいのか?

本書で中心的に扱うのがそういった「コンティニュイティ編集」のノウハウであり、それこそが「ストーリーボードの教科書」の核心であるといえます。

内容について具体的に紹介します。

chapter1はストーリーボードの基本です。構図、パース、視線誘導や、脚本からどのようにストーリーボードを起こすかなどについて語られます。

chapter2ではカメラアングルとカメラの動きについて。ロングショット、ワイドショット、ミディアムショット、クローズアップなど、映画業界でのカメラアングルの基本的な分類とその効果についての紹介です。パンやティルトなど、カメラの動きについても語られます。

chapter3とchapter4は「180度ルール」についての解説です。ここは本書で最も重要と思われる部分です。例えば、左右から向かい合って対話している2人がいる映像があったとします。次のカットでカメラのアングルが変わり、2人の左右の位置が入れ替わっていたらどうでしょうか? 見ている人は混乱するに違いありません。この問題は人物だけに限りません。その人物と同じシーンにある背景や小物、手足などのクローズアップを映す際にも、カメラアングルを変えすぎると、人物との位置関係が狂い、見ている人の混乱を生みます。そういった問題を避けるための単純な方程式が、「180度ルール」です。

ルールの具体的な部分については本書を見ていただければと思います。個人的な感想になりますが、私はゲーム制作を行う際に、自分自身で絵を描くことがあります。その時に勘でやっていた部分に、指針となる物差しを得たような思いがしました。またこの180度ルールは、マンガ制作をされている方がコマ割りをする際にも大きなヒントになるのではないかと感じました。

chapter5ではトランジションなど、つなぎのテクニックについて。chapter6では3Dモデリング。chapter7ではストーリーボードのサンプルなどが紹介されています。そして最後は、アベンジャーズなどに参加したストーリーボードアーティストのジム・ミッチェル氏のインタビューで締めくくられています。

学校で使われる教科書といいますと、専門的で難解であるか、入門的で平易であるかのどちらかになると思いますが、本書は入門的で平易なほうです。動画、イラスト、マンガ、ゲームなどの制作にたずさわっている方で、絵コンテ(=ストーリーボード)とは無縁だった、あるいは自分の専門外だと思っていて興味がなかったという方に、本書をお勧めしたいと思いました。

書籍概要

  • 書籍名:伝える映像の設計図 ストーリーボードの教科書
  • 著者:グレッグ・ダビッドソン
  • 出版社:ボーンデジタル
  • 価格:1980円
  • 公式サイト:https://www.borndigital.co.jp/book/18405.html

評者プロフィール

協力:クリコミュ