CEDEC2021スカラーシップ体験レポート⑧ 籏野泰誠

電気通信大学Ⅰ類メディア情報学プログラムに所属している籏野泰誠です。絵画から始め視覚的な創作を行ってきたことから、現在はCGに興味を持ち専攻しています。この度CEDEC2021スカラーシップに参加させて頂き、多くの学びと成長を得られたのでここで共有したいと思います。

今回CEDECへの参加は初めてでした。まず驚いたのはその豪華さです。本カンファレンスでは業界に携わる有名企業から個人開発者まで様々な方が登壇していました。私はタイムシフトも併せて40近くのセッションを聴講しましたが、そのどれもが先進的かつ非常に分かりやすくまとめてありました。現行で発売されているものや開発中のタイトルに関するセッションも多く、どれもが設計や使用技術、こだわりなどの知見が惜しみなく共有されており非常に贅沢に感じました。

本スカラーシップに参加して最も良かったと感じることは、私自身のゲーム業界に入る意欲と目標意識をより確かなものにできたことです。

私は2020年の新型コロナウイルスによる影響で始めた、サークル活動でのオンラインライブソフトウェアの開発がきっかけでリアルタイムCGに興味を持ちました。その時点では数ある進路の中でゲーム業界に興味を持ちつつも、その実態についてはよく知りませんでした。そのような中、本スカラーシッププログラムの存在を知り、業界を一気に知る又とない機会と思い参加を希望しました。

結果として得られたことはとても多いです。

CEDECで共有される先進的かつ実践的な話題は、私の知る「業界レベル」をより明瞭なものにしてくれました。今では視野が数段階広がり、この業界を目指すための確かな目標設定ができるようになったと感じています。目移りがちな自分にとって、各分野を深く知れたことで己の関心分野を明瞭化できたのも大きいです。

もちろん自分の専攻するVAやENG以外の発表も非常に興味深いものがありました。コメントやAsk the Speaker、そしてスカラー生交流会といった場で異分野間の参加者たちが意見を交換し感想を言いあう機会を得ましたが、どれも刺激的で心地よいものでした。これは「総合芸術」たるゲームの持つ業界の魅力だと思います。

交流会では業界で活躍している方々とお話する機会があり、業界の雰囲気を直に感じることができました。参加いただいた方々は皆お知り合いのようで、「ゲーム業界は狭い」と笑いながらおっしゃっていたのが印象的です。進路相談にも快く答えていただきました。

どの経験もこの業界への興味をより深いものにし、志向をより大きなものにしてくれました。この点が私にとって非常に価値ある体験になったと思うところです。

今回CEDECで得られた知見の中で、とりわけ為になったものを大きく2つ紹介します。

1つ目はレイトレーシングについての知見です。私は学習としてレイトレーサーを組んでいましたので、特に熱心に聴講しました。中でも『リアルタイムレイトレーシング時代を生き抜くためのデノイザー開発入門』のセッションが印象的です。少ないサンプル数で如何にきれいな結果を得るか、その複数のアプローチを学べました。各手法の原理とそのアルゴリズムについて手順を踏んだ結果を示しながら解説されており、基礎技術の応用方法の一例としても見ることができ、デノイザー以外にも通じる描画処理への考え方を得ました。レイトレーシングを扱うセッションはかなり多く、どのセッションも「リアルタイム」での利用について言及しており、その点が未修得な私にとって得られたものは非常に多かったです。

2つ目はトゥーンレンダリングの知見です。『BLUE PROTOCOLにおけるアニメ表現技法について ~実装編~』『「IDOLY PRIDE」の3D美少女キャラクターを魅力的かつ効率的に制作する手法』のセッションではそれぞれUE4とUnityにおける独自実装について解説されていました。企業レベルの品質とこだわり、それらを実現するためのプロセスは自分の中の描画表現に対する視野をぐんと押し広げてくれました。特に前者のエンジン改造による実装は自由度が高く、トゥーンレンダリング以外の表現にも応用してみたいと思いました。

他にも得られたものは多かったです。

描画で言えば研究レベルの新手法の提案や、リファレンスとユーザー体験の両方をどこまでも真摯に考えたグラフィック設計事例が心に残っています。

軽量化は様々なセッションで言及されており、効率的かつ効果的なインスタンス化手法やキャッシュ効率を考慮したシェーダー運用、ディープラーニングで似た結果を得る軽量なアプローチなど様々な実践的視点を得ることができました。

また素材の量産や余分な作業の削減などを考えた、開発の効率化を図るTA的視点や、ライティングやアニメーション、オーディオなど専門家視点でのこだわりをまとめたセッションも為になりました。バーチャルライブについての講演など、直接サークル活動に関わるものがあったのも良かったです。

以上がCEDEC2021で得られたものです。どれもが自分にとって革新的な経験となり、私の人生において大きな一歩となったと確信しています。就職を見据える時期にこのような機会に恵まれたことを幸運に思います。本スカラーシッププログラムに関わってくださった全ての方に感謝し、この経験をすぐにでも活かして、必ず自分の力にしていきたいと思います。

電気通信大学Ⅰ類メディア情報学プログラム 籏野泰誠