SIG-GLOC#15「アプリのライセンスイン事情」セミナーレポート

「海外ゲーム不毛の地」と呼ばれる日本市場。しかし、今では「クラッシュオブクラン」(フィンランド)、「キャンディクラッシュ」(スウェーデン)、「ゲームオブウォー」(アメリカ)、「ダイスの神」(韓国)など、さまざまな海外タイトルがスマホゲームのランキング上位を賑わしています。しかし、海外ゲームの日本展開(ライセンスイン)について、知見が共有される機会は滅多にありません。

こうした背景からNPO法人IGDA日本SIG-Glocalizationでは4月25日「アプリのラインセンスイン事情」セミナーを実施。PCオンラインゲーム・アプリの共同開発・アプリのライセンスイン、そしてインディゲームと、さまざまな分野で活躍する第一人者が登壇し、知見を共有しました。モデレータはSIG正世話人でDICOのエミリオ・ガジェゴ氏がつとめ、熱心な議論が展開されました。

【PCオンラインゲーム/ベクター】

最初に登壇したのは株式会社ベクターの青木裕文氏です。同社は出版事業からスタートし、インターネットの普及と共にダウンロード販売を開始。2006年に海外オンラインゲームのパブリッシュに参入し、今年で10周年となります。青木氏も2009年にブラウザゲーム専門ポータル「ブラゲタイム」とシミュレーションブラウザゲーム「ドラゴンクルセイド」の立ち上げに参加。以後、中国タイトルを中心に数多くのブラウザゲームの日本リリースを手がけています。

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青木裕文氏

はじめに青木氏はライセンスインの手順を「調査・発掘」「評価」「交渉・契約」「ローンチ準備」「ローンチ」の5段階で整理しました。その上でアジア圏におけるPCゲームからモバイルゲームへの市場移行や、韓国・台湾企業が日本子会社を設立し、自社タイトルの直接配信が増加している点に触れ、PC向けタイトルが減少傾向にあると指摘。総じてタイトル選定に、より多くの時間をかけるようになったと語りました。

ゲーム内容やおもしろさだけでなく、ゲームシステム、課金システムなどを、かなり詳細に社内評価するという青木氏。ライトテストとヘビーテストの2段階で実施し、時には数十時間プレイすることもあるとのこと。「レベル29から30に上達するのが非常に難しく、ここで多くのプレイヤーが離脱してしまうといった問題点は、相当遊びこまなければわかりませんからね」(青木氏)。

また日本市場で展開する際の改善点や改修点を抽出し、修正が受託されない場合は契約しないとも補足しました。これにはグラフィックの嗜好の違いといった文化的な面だけでなく、著作権的にイリーガルなものがないか、さらにはガチャまわりにおけるビジネス的な違いのチェックも含まれます。契約時には必ず先方に出向いて、社内の目視チェックを行うこと。特に中国企業では定番の信用調査方法がなく、これが一番確実だといいます。

共通の課金管理システムをベクター側で用意し、開発会社にAPIを提供して、つなぎ込みをしてもらうようになったのも、大きな変化でした。これには日本の資金決済法への対応が含まれますが、各国で異なる売上基準への対応の意味もあります。中国ではユーザーが仮装通貨をチャージした段階で売上が立ちますが、日本では仮装通貨でアイテムを購入して初めて売上が立つなどは、その好例。これをタイトルごとの売上管理システムで行っていては大変なので、一律で対応したというわけです。

このほか▽自社内にバイリンガルなコミュニケーション担当をおく▽契約書には開発会社の責任によるサービス途中終了時の違約金規定(契約金返還)を盛り込む▽二国間で租税条約がある場合は条約内容を確認し、必用な手続きを取る▽契約書には源泉税に関する項目を盛り込む▽スケジュール管理を厳格に行う▽やむなく早期終了となった場合でも、円満に解決するーーなどの実践的なTIPSが示されました。

青木氏は「ローンチ時が近づくと、開発会社の実力がわかる」と言います。契約時は互いの期待感もあり、トップ同士がポジティブに対応しがちだが、実開発ではコミュニケーションが現場に移り、得てして「間に合わない」「納期を延ばして欲しい」とネガティブな内容になりがちだからです。青木氏は「開発会社の対応能力が想定より遅いと感じたら、トップ会談も辞さない覚悟で早急に手を打つべき」だと補足しました。