書評『Unityデザイナーズ・バイブル』

本書は2018年に出版された『Unityゲームプログラミング・バイブル』の姉妹書です。書名の通り業務でUnityを扱うデザイナーなどプログラマー以外の方を対象としているため、約650ページ・フルカラーの大著ながらプログラミングの説明やサンプルコードは殆どありません。

そうした内容は前書に任せて、本書ではUnityのグラフィック関連の様々な機能を現場のプロである執筆陣が解説しています。「バイブル」は一般に必携本的なニュアンスで用いられますが、本書ではそれに加え「多くの著者による知見の集積」という意味で捉えるとよいでしょう。

一方、プログラマーには無用の本かというとそんなことはありません。本書の想定ターゲットには明記されていませんが、筆者としては特に「プログラマー畑の個人開発者」にも推奨したいと思います。

プログラマー出身の開発者で「ゴリゴリコードを書くのは得意だけどかっこいい画面の作り方がわからない。初めてUnityを触ったとかいうデザイナーはどんどんエモいゲームを出してるのに……」とお嘆きの方も多いのではないでしょうか?本書は、Unityでどうすれば「エモい画面」が実現できるのかを知る上で有用な資料になるでしょう。

本書の構成は冒頭の「入門編」「中級編」を経て、Unityの各種グラフィック系機能を短い章立てで解説した「基本コンポーネント編」と「実践ツール編」、業務で他のツールと連携しながらUnityを使う方のための「外部デザインツール編」となっています。

入門編・中級編

本書を手に取る人全てが必要とする章ではありませんが、「はじめに」に書かれている通り、初心者やUnityでの挫折経験がある方に目を通していただきたい章です。

「入門編」ではUnityとは何か? から始まりインストール、ミニゲームの制作を通したエディタの基本操作の解説など、入門書的な内容が圧縮されています(ただし自作パッケージの作り方など、類書にはない濃い話題が載っており、なかなか異彩を放っています)

「中級編」は基本的なUIの作り方と、本書で紹介されている多くの機能に関わるレンダーパイプラインの解説が行われています。

基本コンポーネント編・実践ツール編

本書のメイン部分です。解説されているテーマを列挙すると、

  • 2Dボーンアニメーション(Anima2D)
  • Tilemap
  • Timeline
  • TextMesh Pro
  • ユニティちゃんトゥーンシェーダー2.0
  • ShaderGraph
  • Visual Effect Graph
  • Progressive Lightmapper
  • Animation Rigging
  • ProBuilder
  • Post Processing Stack v2
  • Cinemachine

……と、ここ数年の間に搭載された機能を中心に幅広く網羅しています。1テーマ当たり20~30ページ程度なので、順番に読むもよし、自分の好きなテーマを選んで読んでいくのもいいでしょう。

ところで、こうした知見集タイプの書籍に対して「ネットで検索すればわかることばかり」という声がしばしば聞かれます。特にUnityは公式やユーザーの活動が盛んで、多くの方がネットで情報を発信しているので、そうした意見が出るのかもしれません。

しかし本書で特筆すべきは、そうした「ググればすぐわかる」情報にとどまらず、「現場のコツ」が惜しみなく紹介されている点です。例えばユニティちゃんトゥーンシェーダー(UTS)の章では、単なる機能説明だけではなく、セルルック表現における影色の考え方・選び方がわかりやすく書かれています。仕様上UTSが使えない環境下(VRMファイル)で、他のシェーダーを使ってUTSっぽく見せる方法も載っています。

また、ライトマップの章では各ベイクモードの違いはもちろん、多くの方が悩むベイクの高速化のコツやテクスチャーの圧縮、トライアンドエラーを繰り返す際のエディターの効率的な使い方が理解できます。

長くなるので、これ以上紹介するのは諦めますが、本書には他にも現役クリエイターによる執筆ならではの実践的知識が多数、盛り込まれています。こうした現場でのコツの部分というのが、非常に価値のある、文字通りの「知見」であると筆者は思います。

その他にも、各種GraphツールやAnimation Riggingなどはまだ新しい機能であり、まとまった日本語の情報はネットにも少ないので、基本をおさえるためだけでも本書を手に取る意味は十分にあるでしょう。

外部デザインツール編

ここも類書に例を見ない内容です。Photoshop、Houdini、Maya、Blender、Live2D、Spine、VRM、Shotgunといった各種ツール・規格とUnityの連携が紹介されています。組織でゲームを制作するデザイナーがプログラマーなど他のメンバーとのチームプレイを行ううえで、日常使っているツールがどうUnityと連携できるかを知っておくことは有用でしょう。特にShotgunを利用したリソース、タスク管理についてはUnityではプレビュー版が出たばかりの段階とのことで非常に情報が少ないので、管理担当者にもお勧めできます。

さて、ここまで良いところばかりを書きましたが、本書には1冊の本としての洗練度は今一つと感じる部分もあります。

例えば本文で重要単語をハイライトするなどの工夫は、入門編以外ではされていません。図版も小さくてわかりにくかったり、次のページに送られて見つけにくかったりするところもあります。

また、サンプルプロジェクトのダウンロードの仕方は巻頭にさらっと書かれているだけで、各章では殆ど説明がない一方、入門編で解説済みのPackage Managerについては、各著者が似たようなことを繰り返し触れている、など著者が多いゆえの重複もあります。

とはいえ、本書がもしこうした点まで細かく手を入れていたら、各著者から集稿してから刊行するまで、もっと時間を要したことは間違いありません。書店に並ぶ頃には内容が古くなっていた、ということもあり得た訳です。そう考えると、このある種の荒っぽさも逆に本書の魅力のように思えてくるから不思議です。

色々な意味で「バイブル」と呼ぶにふさわしいこの一冊、Unity使いとしてはぜひとも手元に置きたい良書といえるでしょう。

●まとめ●
《本書の特徴》
・Unityのグラフィック関連の様々な機能を網羅
・現場のプロならではの知見が満載

《こんな方にお勧め》
・ゲーム制作現場で活躍するデザイナーなどグラフィック関連職
・Unityでエモい絵作りをしたいプログラマー

書籍概要

  • 書籍名:Unityデザイナーズ・バイブル
  • 著者:森 哲哉、秋山 高廣、室星 亮太、石塚 淳一、轟 昂、牙竜、コポコポ、すいみん、ツバネ、ryosios、トライタム、やまたくさん、クロイニャン、ズゴゴ、karukaru、Maruton、monmoko、大下 岳志、時任 友興
  • 出版社:ボーンデジタル
  • 価格:4600円
  • 公式サイト:https://www.borndigital.co.jp/book/18319.html

評者プロフィール

きっポジ(@kitposition)
Unityコンテンツクリエイター。Unityでささやかに作品づくりに励む傍ら、初心者対象の講師、動画講座の制作などの活動を行う。

協力:クリコミュ