書評『ゲーム業界で働く』

キャリア教育向けの入門書として定評のある『なるには』シリーズから、新刊『ゲーム業界で働く』が出版されました。すでにシリーズの101番目で『ゲームクリエイター』が出版されており、今回はその補巻という位置づけです。主な読者対象は中学生・高校生で、難しい漢字にはルビが振られています。

内容は4章構成で、1章が「ゲーム業界を知ろう!」と題した概要篇。2章と3章が業界人へのインタビューです。最終章の4章は「なるにはコース」と題して、適性や心構え、就職のための資格と進路、収入面などが説明されています。インタビューでは下記の人々の声や、現在に至るキャリアが紹介されています。

時田 貴司(スクウェア・エニックス/プロデューサー・ディレクター)
板鼻 利幸(スクウェア・エニックス/キャラクターデザイナー)
落合 悠 (シナリオライター)
飯塚 三華(アクワイア/グラフィックデザイナー)
清田 愛未(作曲家/ボーカリスト)
藤澤 寛子(プログラマー/あまた)
安倍 祥子(品質管理/スクウェア・エニックス)
谷田 優也(eスポーツ運営/ウェルブレイド)

個人的に興味深く感じられた点は下記の5点です。

  • ゲーム業界はかつてはブラックな労働環境だったが、近年では労働環境の改善が進んでいて、女性も働きやすい現場になりつつある点について説明している
  • 女性の業界人の声を多く取り上げている(インタビューでは8名中5名が女性)
  • 正社員だけでなく、フリーランスなど、多彩な働き方について紹介している
  • eスポーツ運営や品質管理といった、開発職以外の情報も掲載している
  • 自己管理能力や自己研鑽能力が重要である点に触れている

ただし、わかりやすさが優先されている一方で、業界の情報や職種が網羅的・体系的に説明されているわけではありません。特にパブリッシャーとディベロッパーの違いについて、もう少し詳しい説明があると良かったかと思います。ビジネスモデルをはじめとした、お金の流れについて説明があっても良かったでしょう。

いずれにせよ、非常に変化が早い業界ですので、本書を読んだ中高校生が実際に働きはじめる頃には、がらっと状況が変わっている恐れがあります。そうした中、本書にはゲーム業界で働くことの意義や心構えが数多く掲載されていて、長く役立つことと思われます。本書の読者が将来、ゲーム業界で活躍することを期待してやみません。

書籍概要

評者プロフィール

小野憲史(IGDA日本)

カテゴリー: book