SIG-地方創生 オンラインセミナー「withコロナ・afterコロナ時代の地方創生ノウハウ」開催レポート

IGDA日本 SIG-地方創生の無料オンラインセミナーが3月2日に開催されました。今回は「withコロナ・afterコロナ時代の地方創生ノウハウ」と題し、美術館×ゲームのコラボ事例やオンラインeスポーツ大会の開催方法など、5つのトピックスで講演が行われました。

開催の背景

日本は少子高齢化が進行しているため、特に地方ではその悪影響が大きくなっていますが、こうした中でもゲーム業界は拡大を続けており、ポップカルチャーを通じた地方創生の活動事例は世界から注目を集めています。

講演1 文化庁委託「博物館×ゲーム」 異分野連携事業への応募経緯とノウハウ

最初の講演では、SIG-地方創生 正世話人の蛭田健司氏が、文化庁で令和2年度補正予算に組み込まれた「博物館異分野連携モデル構築事業」へSIG-地方創生から応募した経緯と応募ノウハウについて紹介しました。

この事業は、コロナ禍によって運営の危機に陥っている日本各地の博物館(美術、歴史、自然史、動物園、水族館、植物園等を含む)を、ポップカルチャーとのコラボによって新たな収益モデルを構築するというもの。ゲームによって地域の活性化を目指すSIG-地方創生の理念に近しい事業であるため、応募を決めたとのこと。博物館のスペースを活用した謎解きゲームや、ゲーム要素を含んだ専用アプリ開発による集客向上、AR機能による展示物解説システムの導入などを実施例に挙げました。

また、応募には評価基準や採択における注意点が多々あり、蛭田氏の場合1部あたり73枚、計584枚もの大量な資料作りを短期間でこなさなければならなかった…と苦笑する場面も。

最後に「省庁でゲーム分野に関する予算が組まれることは画期的。十分に活用できるよう独特なノウハウを抑えた上で政府機関との連帯を模索していきましょう。」とまとめました。

講演2 数百万会員のプラットフォームにおける ゲームを活用した美術館収益拡大事業

本トピックでは2名の講師を迎えました。

今年開館55周年を迎える日本初の日本画専門美術館である山種美術館から、館長の山﨑妙子氏が登壇しました。

山種美術館では、2020年上半期において来館者数が前年比で約93%減となり、それに伴いカフェやショップの売り上げも落ちこむなど、コロナ禍の影響を大きく受けました。その苦境を乗り越えるために、『日本画は敷居が高い』というイメージを払拭し、新規の顧客を開拓することを目的に、ゲームとのコラボに取り組んでいます。

山種美術館では2019年にもゲームアプリ「明治東亰恋伽~ハヰカラデヱト~」とコラボを行い、グッズ販売、コラボカフェメニューの提供などが好調でした。このコラボでは10代~20代女性を中心に、のべ1500人ほどの来館に繋がったそうです。

今後もゲームとのコラボは積極的に考えており、所蔵作品の活用や、イベントの実施、コラボグッズの販売などの展開ができるそうです。また、山種美術館はSNSの発信にも注力しており、Twitterはフォロワー数15万人に迫る人気アカウントで、広報力も期待できるとのこと。このような取り組みを通じて、日本文化を世界に発信するお手伝いができれば、と発表をまとめました。

山種美術館:https://www.yamatane-museum.jp

次に、Nintendo Switchやスマホゲームでは人気ランキング上位の「空気読み。」シリーズでお馴染み、株式会社ジー・モードから井口守弘氏を迎えました。

カジュアルゲームの企画・開発・運営を得意とするジー・モードはフィーチャーフォンのタイトルをNintendo Switchで遊べるように復刻する「G-MODEアーカイブス」にも注力しています。

ジー・モードは現在、山種美術館の所蔵日本画を用いたゲームをNTTドコモの「スゴ得コンテンツ」向けに開発しています。

これは、スゴ得コンテンツのターゲット年齢層は文化や芸術に関心が高く、また、日本画はスゴ得コンテンツにはないジャンルであったため。新規顧客の開拓もできることから、コラボ実施を決断しました。

本取り組みを文化・芸術コンテンツ展開のきっかけにしたいという期待もあり、日本全国の美術館、博物館などとのコラボも検討したいとのことです。

株式会社ジー・モード:https://gmodecorp.com/ja/

講演3 コロナ禍の影響を抑えるリモート開発・オンラインPR手法

このトピックでは蛭田氏の手掛けたゲームがリモート開発とオンラインPR手法の実例として挙げられました。

コロナ禍によって普及が進んでいるテレワーク環境について、蛭田氏はそれ以前の2019年の時点で既に推進していました。こういった土台があったことがコロナ禍においてもアドバンテージとなりました。

開発関係者は6都県にわたって点在していましたが、厳密な作業定義を実現する契約の工夫と、ロスのないコミュニケーションを実現するツールの使い分けによってリモート開発をスムーズに行うことができたそうです。

また、オンラインPR手法では、TwitterやYouTube、ウェブメディア等を用いて8種類ものPRが同時多発的に実施され、多くのユーザーに印象付けることに成功。コロナ禍でも適切なオンラインPR戦略によって、キャンペーン全体でTwitterでは約360万インプレッション、YouTubeの累計動画再生回数は約30万回再生に達するなど、大きな成果を挙げました。

蛭田氏は、リモート開発やオンラインPR手法はAfterコロナ時代になっても重要であり、継続的にノウハウを積み重ねていきましょう、とセッションを結びました。

株式会社AKALI:https://www.akali.co.jp

講演4 日本全国のクリエイターを繋ぐ完全無料オンラインコミュニティの意義と活動

クリエイターコミュニティ「クリコミュ」から、管理人の馬場 早津紀氏が登壇しました。

地方創生には日本全国のクリエイターの活躍も欠かせませんが、地方では勉強会や交流会が少なく、クリエイターが孤立しがちでした。クリコミュはそういった状況を改善するために、完全無料情報共有コミュニティとして2019年3月に設立され、日本全国のクリエイター同士が交流を深めたり、助け合ったりする場となっています。

クリコミュではSlackによる情報共有が行われており、契約、営業、確定申告、助成金、要注意な業者やトラブル事例、就活、キャリアといった幅広いトピックスが話し合われています。

クリエイター同士が気軽に発言できる雰囲気をつくるために交流会も盛んで、これまでオンライン交流会は8回、オフ会は3回、ボードゲームやマーダーミステリーなどをオンラインで遊ぶ会も開催されています。

参加者は、ゲームクリエイター、イラストレーター、サウンドクリエイター、シナリオライター、声優、俳優、MC、またそれらを目指す人たちと幅広く、各分野で受賞するなど活躍されている著名クリエイターも含め、170名以上が参加しています。

今後はさらなる参加者増加、より積極的な情報共有・交流、企業からの認知度向上を目標に活動を続けていくとのことです。

クリコミュ:https://www.akali.co.jp/crecommu

講演5 ゼロから始めるオンラインeSports大会

三たび、SIG-地方創生から蛭田氏が登壇しました。

ゲーム業界全体の傾向と同様に、右肩上がりでの発展が見込まれるeスポーツは、高齢者層への拡がりもみせており、拡大余地の大きな市場です。地方創生のためには、産業振興の視点で各地にeスポーツ大会が根付いていくことが期待されます。

この講演では、まず開催のサイクルとして、準備、集客、開催、報告の4つのステップを挙げ、最初は小さな輪から始めて、回数を重ねて大きく育てていく考え方が示されました。また、それぞれのステップごとの注意点として、ゲームの対象年齢に合わせた大会設計、ゲームや広報素材の使用許可、集客、機材接続例、選手や関係者との連絡方法、チャット、必要なスタッフ、レポートと、細かく注意点やノウハウが列挙されました。

特にオンラインならではの難しさとして、選手や関係者との連絡方法が挙げられ、ネットワーク不調や、連絡用のスマートフォンのバッテリー切れなど多くのトラブルが考えられることから、自宅インターネット回線、電話、スマートフォンのデータ通信など、必ず二系統のコミュニケーション手段を準備しておくことの重要性が語られました。

また、観客によるチャットはオンラインイベントのライブ感のために必須であり、この盛り上がりのために、荒らしコメントや悪質ユーザーを排除するための監視や管理の大切さも伝えられました。

開催が成功した後も、地元住民や近隣都道府県など、次回大会の集客ターゲットへ向けた広報と、スポンサーへの効果報告のレポートが必要で、関係者や観客の好意的な声を盛り込むなど細やかなケアを行い、根気よく続けていくことで大会が育っていくことが示唆されました。

懇親会

講演の後は懇親会も行われ、初対面の参加者とも交流を行いました。昨年12月に副世話人に就任したサウンドクリエイターのみやび氏が、このセミナーのために書き下ろした曲をBGMに、和やかな雰囲気の会となりました。

今回のイベントの事前登録者は42名に達し、ゲームによる地方創生への期待感の高さを感じさせました。

(構成・執筆:SIG-地方創生)